第22話 姫乃姉妹とリディア家の秘密 後編
「えぇ? こ、ここが姫乃たちのホテル!?」
「ん、正確にはリディア家で運営してる高級リゾートホテルの一つ。前に、恭二くんと行ったベイエリアのとこより上くらい」
前に行ったベイエリア……俺が姉妹にやらかしたあそこのことか。
「恭二も薄々気づいてるかもだけど、リディア家はホテルをメインに展開してるんだよね~。一緒にホテルに泊まろうとしたのを覚えてる?」
「え、あの夜のホテルも?」
あの夜――つまり、美涼とサウナに行った後に泊まり損ねたホテルのことを意味する。
「そうじゃなきゃ普通入れないんだけど……まぁ、恭二が気付くわけないか~。ウチの系列ホテルだから自由に使えるんだよね~。まっ、普段は近寄りもしないんだけど使える時は使えるっていうか、まさにそれが今っていうか~」
高級ホテルのことは理解したからいいとして。
「美涼と冴奈と俺しかいないここで何が起きるんだ?」
訊かなくても想像は出来るけど一応訊いておかねば。
「水着……嫌い? 恭二くんが見たい胸、見せてるよ?」
「そうそう。恭二にだけ見せてるのにそんなわけないよね?」
そんなことを言いながら、姫乃姉妹は息を合わせるように悩殺ポーズを俺に見せつけている。
「いやっ、嫌いなわけ無いけど……」
他に人がいないとはいえ、姫乃姉妹の悩殺な水着姿を見せられているからといっても、ナニをするわけでもなく。
それに、ぱっと見は姫乃姉妹しかいないけど多分どこかで俺を着替えさせたお姉さんたちが監視してるだろうし、迂闊な行動に出るわけにはいかないんだよな。
「ちなみに何を楽しくするつもりでここに?」
「……恭二くんがシたいことを思いきりさせてあげようかなって。あの時みたいにわたしの――を揉みまくるとか?」
よく聞こえなかったけど、冴奈が手を添えているその部分はお胸さんってことだよな。
「えっと、美涼も……?」
俺の言葉に意外さを感じたのか、美涼は口角を上げて笑みを浮かべているが冴奈はムッとした表情を見せた。
「あたしはおまけなんだけど、恭二がシたいんならどっちでもいいけどね。冴奈が許すなら、だけど」
「……駄目。美涼は本気じゃない。でもわたしは本気なの。だから、恭二くんに触れてもらえるのはわたしだけでいいの」
何やら穏やかそうで穏やかじゃないやり取りをしているけど、教室で俺にべったりくっついて甘えてきた美涼はそのつもりがないって感じに見える。
「え~と、じゃあ近くに寄っても?」
姫乃姉妹がいるところまではプールを挟んだだけの距離で、回り込んで行けばすぐに近づくことが出来る。
二人だけでしてる会話まではよく聞こえてこないものの、俺に声をかける時は声を張っているようでよく聞こえる。
「恭二にその気があるならプールに落ちずにこっち来なよ!」
何か起きそうなフラグを立てるのをやめて欲しい……。
「じゃ、じゃあそっちに行くからね?」
「……うん、来て」
美涼はともかく、冴奈にそこまで言われたら彼女のところに行く以外の選択肢が無い。
「じゃあ……」
何らかの罠が待ち受けているかもだけど、冴奈だけは嘘を言って無いように思えるので、二人がいるところに歩くことにした。
要は足を滑らせずに歩けばいいだけだ。
「って、あれっ? たどり着けた……んだけど?」
水に濡れた床で足を滑らせないように気を付けて歩いていたら、何も起きずに冴奈のいるところに来てしまった。
「……? 何か起きると思ったの?」
焦る表情の俺を見ながら冴奈は首をかしげている。
「い、いや、そんな気がしただけっていうか……き、気にしなくていいよ」
「そうなの? でも良かった……恭二くんがわたしを嫌ってなくて」
「……え、何で?」
「だって、美涼とばかり一緒にいたから、てっきり美涼に決めたのかと思ってたの。でも、恭二くんは真っ先にわたしの元に来てくれた。だから安心したの」
美涼に決めたって言葉の意味もよく分からないな。
いや、そうか!
冴奈は俺と美涼が仲良くしてるところに遭遇したくなかっただけかもしれないんだな。
冴奈はずっと無表情女子だったから気持ちを出さずにいた。しかも姉妹の仲が良くない状態だったことを考えれば、嫉妬する気持ちになるのは仕方が無いか。
「美涼のことは――」
冴奈を見つつ、美涼と目を合わせると美涼もすぐに俺の目を見てきた。
「あたしのことはどう思ってるの? 恭二」
「うえっ?」
「冴奈のことが嫌いじゃないのは分かったけど、あたしのことは?」
「え~と……嫌いじゃない」
「はっきり言えないんだ? こんな肌を露出した状態で迫っているのに?」
むしろその状態だから言葉が上手く出て来ないわけで。
「……恭二は優柔不断で適当男だもんね、しょーがないか~。でもね、冴奈にしろあたしにしろ、どうするか決めないとリディア家は許してくれないかもよ?」
「へ? リディア家が何を?」
「冴奈はもう恭二しか見えてないから揉ませるつもりでいるみたいだけど、それをするつもりがあるなら覚悟を決めてもらわないとって話!」
プライベートすぎるリゾートホテル、しかも俺と姫乃姉妹しかいないプール。
それだけでも何かあるって感じるのに、この上さらに何かを求められるとしたら俺はとんでもない財閥とかの姉妹に手を出してしまったということなのか?
「恭二くんを脅すのはやめて。リディア家のことは美涼に任せるって言ったんだから! わたしだけでも恭二くんに寄り添いたい」
「そうもいかないんだよね~」
「……どうして?」
「あたしも冴奈と同じだから」
「――っ!?」
ううむ、何やら俺が全く理解出来ない話が姉妹の間で進行してるみたいだ。冴奈は多分、俺に気があるし胸とか色々触らせる気があるけど、それをするともれなくリディア家の問題が俺に降りかかってくるって意味に聞こえる。
そして美涼はというと、俺のことを嫌いじゃないけど冴奈のような感情には達していない――って思えなくも無いけどどうなんだろう。
そもそも、プールにいるのに泳がせてくれるつもりもないってのが何とも言えない。姫乃姉妹とリディア家を受け入れるかどうかのテストで招かれたって感じがするんだよな。
「……もうっ! いいもん、こうなったら恭二くんに訊かせてもらうもん!」
「ここで?」
「水着まで見せたけど、混乱させてるだけだし……学校にする」
「あ、恭二の場合はそれが有効かもね」
姉妹の言い争いに置いていかれてる俺はどうすれば?
「恭二くん。せっかくここに来てくれたのに、わたしも全てをあげることが出来るって思っていたのに……美涼もわたしと同じだったみたいなの。だから今日はもう駄目なの」
「……うん、うん?」
「だから、わたしの体を好きにしていいのはおあずけってことでいい?」
そんな話だったとは初耳なんだけど。
「そ、それはもう……」
「……良かった。それでね、えっと……」
どうやらここで何かすることは無さそう。
「恭二。明日学校来るよね?」
上手く言葉が出て来ない冴奈に変わって美涼が口を出してくる。
「さすがに二日連続のサボりは出来ないから行くけど……」
「おっけ! じゃあ明日の朝、恭二の教室で待ってる! その時に訊かせて?」
「え? それは冴奈も一緒に?」
「そ。冴奈とあたしで一緒に聞くから。そういうことだから、今日はもう解散!」
「か、解散……って」
まるでタイムリミットだと言わんばかりに、二人はその場から立ち上がりこの場からいなくなってしまった。
そして一人取り残された俺は、着替えだけ渡されて外へと追い出されていた。
明日の学校で姫乃姉妹は俺から何を聞かされるんだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます