第21話 姫乃姉妹とリディア家の秘密 前編

 登校したばかりだった俺と姫乃美涼の逃避行は、ほぼ強制的なさぼりというものだった。


 幸いにも担任が教室に入ってくる前だったこともあって、俺たちは難なく校外へ出ることが出来た。


 ……といっても、これから登校してくる生徒たちからは妙な視線を送られたりしてメンタルがまあまあやばいことになりそうだったけど。


「びびりすぎじゃない?」

「そ、そんなこと言われても……まさか本当に外に出るなんて……」

「あれぇ~? もしかしなくても恭二って真面目くんだったんだ? 優等生って話は聞こえてこなかったんだけどなぁ~」

「成績はお察しのとおりだからね」


 遅刻すれすれを何度か繰り返してきたとはいえ、俺はこれまでただの一度も完全にサボったことは一度も無かった。


 それも、せっかく登校したのに教室から出てさらに外に戻るなんてことはするはずもなく。


 こんな突拍子のない行動に出る子だったとは、はっきりいって想定外だ。


「あたしは優秀だよ! 知ってた?」

「何となくは」


 何せ今まで古風な美少女姉妹として有名だったからな。


「そんな優秀なあたしが堂々とサボるとか、信じられないって顔してるね?」


 顔に出すつもりは無かったけど、意外だったのは事実なわけで。


「今までそんなことしたことなさそうだったなぁと」

「それをさせたのは恭二のせいでもあるんだけど?」

「えぇ? 俺のせい? え、なぜ……」


 全く身にお覚えが無いんだが、美涼に何かしたっけ?


「ん~まだ気づいてないんだね~。それなら、思いきり歓迎してあげないと気付きそうもなさそう」


 そんなことを言う美涼に手を引かれ、たどり着いた場所は――


「――ここって通用口?」


 正面に見えるのは壁と重そうな扉、それと厳しそうな警備の人が俺を睨んでいる。空を見上げると、とりあえず高層な建物ってことしか分からない。


「恭二、早く中に入って」

「えっ」

「時間が無いの! ここの扉はセキュリティ半端ないんだからね?」


 だろうなぁ。


 どう見ても特別な関係者以外立ち入ったらやられそうな雰囲気だし。


 よく分からないものの、俺は美涼の後ろをついて歩きながら未知の通路へと足を踏み入れた。


「恭二。服脱いで」

「へ?」


 通用口を進むと何も無い白い壁の空間に出た。……かと思えば、美涼は俺の全身を眺めながら脱衣を要求してきた。


 一体何が始まるのやら。


「いいからいいから。服さえ脱いでいれば後は係がやってくれるから安心していいよ」

「えっと美涼は?」

「あたしは先に行ってる。そこで待ってるから~! あの子もいるから恭二にとって二度目のお楽しみになると思うよ」


 あの子?


 何だかよく分からないまま言うとおりに服を脱いで待っていると、どこからともなく大人の女性が出てきて、されるがままに着替えを施されてしまった。


「それではお嬢様たちがお待ちですので、そのままお進みください」

「は、はぁ」


 あれよあれよという間に、何故か知らないけど俺は水着姿に変えられていた。言われたとおりの通路を進んで行くと、そこで待っていたのは――。


「やっほ、恭二~!」

「…………恭二くん、待ってた」


 超高級そうなプールに流れまくる滑り台。そして、どう見ても貸し切り状態のその場所に水着姿でくつろいでいる姫乃姉妹の姿があった。


「美涼はともかく、冴奈も何で? あれ、学校は?」


 俺と美涼は登校直後にサボって帰って来たから分かるとしても、冴奈はまだ登校してもいなかった。


 それなのに何で姉妹揃ってここにいるのか。


「……わたしも休んだの。今日の為に……」


 今日の為?


 何か記念日でもあったっけ?


「ふふ、驚いた? ここでのことは恭二と楽しむためにセッティングしたんだけど、楽しめそう?」 


 変な意味じゃないのは分かるとしても、何でこんな夢みたいな場所に姫乃姉妹が俺を出迎えているのだろうか。


 そもそも美涼と冴奈って仲違いしてたような?


「単なるサボりかと思っていたんだけど、ここで何かするつもりが?」

「まぁね~。あたしも冴奈も確かめたいって気持ちがすっごく高まっちゃったんだ~。だからだよ」

「な、何を?」


 どう見てもハーレム空間だけど、何となくの違和感が半端ない。美涼が言ってることも意味が分からないし、ここがどこなのかも。


「恭二くん……そこで立ってないで、近くまで来ていいよ?」

「――は、はい」


 姫乃姉妹の水着姿だけでも興奮を隠しきれないのに、その二人がプールサイドチェアに座りながら俺に手招きしてるとか、もうどうとでもなれだ。

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