第20話 妹との逃避行?
「おいおいおいおい……! 何だそりゃ~」
「し、信じられねえ。恭二がモテている……だと!? ん? どっちだ?」
朝の教室。
俺にぴったりとくっついている女子の姿に、クラスの連中、特に男子がこぞってざわざわと騒いでいる。
一方で、このクラスにいるはずの女子かどうか判断がつかない奴もちらほらといるようで、情報を急いでかき集めているみたいだ。
何せ隣にいる女子はぱっと見で区別のつかない相手なわけで。
「名川! どういうこと? どうしてその子といるわけ? だって、あんたの意中の相手って……しかもよりにもよってべったりくっついて!」
「俺に聞かれても困る」
俺と俺の隣の女子を見ながらすぐ指摘してきたのは、珍しく相方がいない堀川だった。堀川が常に気にかけていたのは姉の方だったから無理も無いけど。
「…………ふむ。周りが敵だらけってのも燃える要素じゃな」
それなのに、隣の彼女は全く気にしていないようで何故かこの状況を楽しんでいるようだ。
昨日は一緒にいた美涼とビジネスなホテルにいたものの、泊まることなく二時間くらいで解散となり、それから夜が明けて何も考えずに学校へ来た。
……までは良かった。
そこから教室に入ろうとする寸前、俺の腕に美涼が絡んできたかと思えばそのままくっついて離れない状態が継続中だったりする。
「ク、クラス違うけど……このまま教室に?」
「うん、いいよ~! 今日はサボり決定!!」
「えぇ? サボり? え、俺も?」
「当然! (それに、多分色々考えてるあの子のことだから学校休むかもだから邪魔は入らないだろうし……)だからさ、あたしと恭二でどこかに逃避行しちゃおうよ!」
昨日の時点で美涼の本当の性格が判明したが、そこからの覚醒が早かった。古風な美涼も悪くなかったけど、恐らく姉に遠慮してきたことがストレスだった可能性が高い。
そんな遠慮が働いていたのに、ホテル前で待ち伏せされたうえに邪魔をされたもんだから、タガが一気に外れた可能性が高いというかなんというか。
「美涼って、もしかして今まで自分を出すのを我慢してきた?」
「ん~まぁね。だって冴奈に合わせる必要があったし」
「……クールな双子姉妹って意味で?」
「そそ。男子たちってそういうの好きじゃん?」
無表情女子からのギャップ萌えって意味だろうか?
イメージは確かに変わるだろうなぁ。現に今の俺がそうだけど、だとしてもまだ気持ちが追い付いてないけど。
しかし、美涼の変化に戸惑う俺よりも先に、堀川や他の男子がかなり動揺しながら騒いでいるのが教室におけるリアルタイムな状態。
「――名川!! あの子がまだ登校して来ないのはあんたのせいじゃないでしょうね?」
「俺は何も知らないぞ。お前こそ一緒に登校してきてないのかよ? 仲良しだろ?」
初めの頃に比べると、今の冴奈はだいぶクラスの女子たちと打ち解けている。特に目の前にいる堀川なんかは俺に近づけさせまいと躍起になっている関係で、かなり仲良しになった。
「はぁ? 仲良しって、まだそこまでじゃないし……。というか、こっちよりもあんたの隣の彼女! どうしてうちのクラスにいてあんたにくっついているのかを説明してよ!」
何で関わりの無い堀川に説明せねばならんのか。それに、こいつ一人に時間を食っていたら美涼と行動することも難しくなってしまうぞ。
「ふふ、どうする? あたしとサボって遊びに行くか? それとも、あたしと恭二の関係をこのクラスの連中に公表するか?」
「関係って……友達――だよね?」
「ホテルに行く友達とも言えるし、一緒に汗をかく仲とも言えるかな?」
どう考えても俺だけが不利だし、完全に弱みを握られているじゃないか。
「……あ~、堀川。悪いが俺は今から具合の悪い美涼を連れて早退する。だから、アレだ。後は任せた!! ついでにお前の彼氏に理由を言っといてくれ!」
「は? 早退って――あっ」
腕に絡みついている美涼を利用して、俺は彼女とともに登校してきたばかりの教室を出ることに成功する。
「――おっ、恭二。おっす~……って、おい、どこに行くんだよ? って、あれ何で姫乃と一緒にいるんだ!?」
……などと登校してきた貫太を通り過ぎて、あっという間に昇降口に着いた。
「あはっ、本当にサボるんだぁ? しかも冴奈じゃなくてあたしを選ぶなんて意外~」
「いや、だって……」
冴奈じゃなくて美涼を選んだってどういう意味なんだ?
あまり深い意味は無いと思いたいけど、今は外に出るのが先決だな。
「ごめんごめん。でも恭二もやれば出来るじゃん! 見直した! これくらい行動力があるならあたしはもちろん、あの子も平気かもね」
「へ?」
「ってことで、遊びに行こ~!」
「えっと、ずっと腕にくっついたままで?」
「ここまできて離れるっておかしくない? このままくっついたままの方が外に出やすいと思うし、このまま行こうよ!」
ううむ、遅刻間際の生徒も少しばかり見えるし学校の敷地外に出るまではそうした方がいいのかもしれないな。
「わ、分かった。じゃあこのままで……」
「うんうん! このまま恭二と一緒に逃避行決定~!」
もしかしなくても美涼って俺のことを――?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます