第19話 待ってた 【美涼】

 冴奈がここで待っていたことに驚くが、まさか美涼を放りだして行くとか言い出すとは思わなんだ。


 そこまで仲が悪いのか?


「ね、恭二くん。わたしといこ?」

「い、いや、ここへは美涼と来てるし勝手にいなくなるのはまずいと思う」


 俺が主導じゃないしさすがにとんずらするわけにはいかないだろ。


「……わたしと一緒なら、好きなだけシてあげられるよ? それでも駄目?」


 ――何をしようというのかね。


 単独で来ていればそれで良かったかもだけど、いくら何でもな……。


「恭二。手続きを終えたぞ〜……む?」


 あぁ、タイミング悪く戻ってきちゃったか。


「さ、冴奈…?」


 戻ってきた美涼が俺と冴奈の様子、特に冴奈が俺にくっついていることに気付くが、それよりも冴奈がここにいることに目を丸くしてる。


「恭二くん、わたしが連れてくけどいい?」

「いいわけない! ここへはあたしが連れてきたんじゃぞ! なぁ、恭二」

「え、うん」

「わたしと交代。それで問題ないの」


 ん?

 交代って言ったか?


「ふざけないで! そんなの、認められるわけない!」

「ううん、美涼よりもわたしの方が恭二くんといっぱい接触してる。だから、美涼はもう駄目。あとはわたしの番」


 むむ?

 姉妹で何らかの約束でもしてたんだろうか?


 気のせいか美涼の言葉遣いも古風じゃなくなってるような。


 言い合いが激しくなりそうなのに冴奈は俺からちっとも離れるつもりはないみたいだし、俺はどうすれば。


 そんなことを思いながら美涼をちらりと見たところで、彼女はわなわなと体を震わせ始めた。


 これはかなりキレてるな。


「え〜と、美涼? どうしようか? 冴奈が来てしまったわけだし、冴奈が一緒でも俺は――」

「ううん、わたしは恭二くんと一緒がいい」


 う〜ん……これは今世紀最大のモテ期がきてるのか?


「あたしは恭二だけがいい」

「え? それってどういう」

「あーっ……もうっ! もういい! 分かりやすく言ってやるけど、冴奈よりもあたしのことを構って欲しいって言ってんの!」


 これが古風キャラで通してる美涼の本当の性格なのか?


「あたしの方が恭二に甘えたいし、もっとくっつきたいって思ってんの! それを何で今さら冴奈が邪魔するわけ!」


 おおう、とうとう本性が!


 姉の冴奈にお前呼びとかこれは本気な奴だな。それにしても、古風言葉じゃない美涼の方がいいと思えるのは何でだろうか。


 双子姉妹で見た目が同じなせいもあるんだろうけど、美涼の方が俺への態度を明らかにしてるのが利いてるのかもしれない。


 冴奈はどっちかというと、人づてで聞かされたらしき俺に対するイメージが完全に寄りになってるのが気になるところなんだよな。


「恭二くん。どっちにするの? わたしと? それとも美涼?」

「え……」


 訊いてきたのは冴奈の方で、美涼は俺の答えを黙って待っているのか何も言わずに俺の顔を見ている。


 どっちを選ぶっていうのはあくまで一緒に行動するって意味だと思うが、一緒にここに来たのは美涼だし選ぶというか、この場に限れば彼女を選ぶしかないよな。


 冴奈はまた別の機会にしてもらおう。


「美鈴」

「え、本当?」

「あ、いや、ホテルへの手続きをしてくれたんだよね? だから美涼と行くのが筋かなぁと」

「……そうじゃろ?」


 あ、元に戻ってる。


「だからその、冴奈とはまた別の日ってことでいいかな?」


 俺の言葉はきちんと冴奈に通じてるよな?

 全然違う意味で取ってないよな?


「…………(恭二くんは美涼がいいの?)」

「えっと、今日は冴奈とは無理だからごめん」

「……ん、分かった。じゃあ、わたしは帰るね。明日、また訊かせてね」

「え、うん」

「じゃあまたね、恭二くん」


 分かってくれたみたいだ。


「美涼。明日、わたしと恭二くんのいるところに朝、来てくれるよね?」

「行く。行って恭二に言ってもらう。それで決まったらお互い文句言わない。それでいい」


 何の話だろう?


 俺に朝から決めてもらうとか、何を決めることになるんだろうな。


「恭二。あたしに決めてくれたの、すごく嬉しい。じゃ、ホテル行こう」

「ふ、普通のホテルだよね?」

「当たり前じゃん! どう見ても格式高いホテルだし、恭二って飢えてるの?」

「だよねえ……というか、美涼はその話し方の方が自然だと思うよ」

「――あ」


 気づいて無かったのか、俺の指摘に美涼は顔を赤くして恥ずかしそう。


「……恭二はどっちが好き?」

「古風言葉でも気にしてないけど、さっきのが美涼の自然だとしたら自然な方も好きかなあ」

「そっか。うん、分かった」


 何か納得したようで、美涼は自分で納得したかのように頷いている。


「恭二、腕を貸してくれる?」

「え」

「エスコートしてもらわないと認められないホテルなんだよね。だから」

「あ、あ~」


 なるほど、格式高いホテルっぽいな。


「言っとくけど、別にいやらしいことする為に行くんじゃないだからね? 勘違いするなよ?」

「も、もちろん」

「よし! じゃ、行こ!」


 ホテルの前で冴奈と美涼のどっちを選ぶのかという話になったものの、今日の話はあくまで一緒に行動していた方を選んだだけで、深い意味は無いはず。


 ……そのはずなのに。


「恭二はあたしを選んでくれたんだよね~! それなら学校でもあたしらしくしよっかな~うん、そうしよう」

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