第18話 待ってた 【冴奈】

「ホ、ホテルに?」

「そうじゃ! そう遠くない場所にあるからの。貴様と一緒に行きたいと思ったから行くだけじゃぞ。行かんのか?」


 ホテルってホテルのことだよな?


 しかも古風言葉な美涼から誘ってくるとか、急転直下どころか急沸騰に好感度が上がったとしか思えない。


 こうなったらなるようになれだ。美涼がそのつもりなら、俺はその身を差し出してでも……。


 ……などと思っていたのに、たどり着いた所はやはりな所だった件。


 しかも周辺を見ると高級車や偉そうな人が見えていて、俺だけ来ちゃいけない世界に思える。


「何じゃ? 何を残念そうにしておる? ホテルと言ったら格式高い高級ホテルしかなかろう?」


 そう言うと美涼は、憐れみの目を俺に向けた。


 ですよね。うん、エッチな方じゃないホテルってことくらい分かってた。


 火照るとか言ってたから勝手に勘違いした俺の負けだよ。


「そのとおりでございます」

「……変な奴じゃな。まあよい。あたしは中の手続きをしてくるからここで待っとれ」


 高級ホテルの受付に行くと言って、美涼だけ中に入って行ってしまった。


 それにしても格式高いホテルって。やはり姫乃姉妹はどこかの令嬢ってことなんだろうか。


 それを本人たちに聞く度胸は俺にはないけど。


「……恭二くん、恭二くん」


 ……おや?

 どこかで俺を呼ぶ声が聞こえてくるな。


 どこだ?


 美涼は中に入って行ったから違うとしても、他に誰が――


「――えっ」

「恭二くん!」


 俺の背中から聞こえてきた声に加え、俺の腰に手を回してがっちりと抱きついてきてるのは、冴奈だった。


「冴奈? なぜ……?」

「ん、待ってた」

「待ってた? ここで?」

「うん。恭二くんと一緒に来ると思ってた。だからここで待ってた」


 ――つまり、ここで見張っていたわけか。美涼に抜け駆けさせないつもりで待っていたとしたらなかなかの策士だな。


「えっと、そうするとこれからどうすれば?」

「恭二くん。ここのホテル入る?」

「あ、ああ……美涼が今、手続きを……」


 姉と妹で張り合ってるっぽいけど、ここで抜け駆けしてもホテルのロビーに美涼がいるだろうしどのみち鉢合うことになりそうな気がする。


「……美涼より先に入れるなら、わたしと一緒に行く?」

「そ、それは……でも、美涼と来てるから俺の判断で勝手に動けないよ」

「わたしと一緒じゃ、嫌?」

「嫌……じゃないけど、でも」


 こんな積極的にくる子だったっけ?


「とりあえず、そろそろ俺の腰から離れてもらえると〜……」


 場所柄あまり俺たちに視線を注いでくる人はいないが、後ろから抱きつかれている光景を不特定多数の人に見られてしまうのはさすがに俺の心臓がもちそうにない。


「こうしてると恭二くんが嬉しいって、クラスの女子たちが言ってた。こういうの、嫌?」


 誰だよ、そんな助言した女子は。


 まさか堀川じゃないだろうな?


「い、嫌なわけないけど、その……こんな密着されると変に期待しそうで……」


 何を言ってるんだ俺は。


「……いいよ? 美涼はここまで許さないけど、わたしなら恭二くんに全てを――」

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