第17話 それなら、ほてるか
姫乃妹である美涼に連れられ、俺は学園近くの繁華街に来ていた。普段はあのバカップルもとい、堀川と貫太とで時々来たりしているせいで緊張感は無かったりする。
そんなにヤバい所なんて無い――そう思っているのに、美涼は人目のつかない裏路地をあえて目指しているかのようにかなりの早歩きで俺をどこかに誘導している。
「美涼さん、一体どこへ?」
「そう急くな。今から行くところはあたしにはもちろんのこと、貴様……恭二にとってもとてもイイところなのだぞ! もうすぐたどり着くから黙ってついて来るがいい!」
美涼だけじゃなく俺にもいいところってことは、本屋とかカフェとかそういう所だよな、きっと。
……って思っていたのに。
「さぁ、脱げ!」
美涼に案内されたのは、サウナ付きのフィットネスクラブだった。会員制らしく、裏路地の地下に店がある。
しかも客のほとんどは、結構な額の会費を払わないと利用出来ない店らしい。それを聞いた時点で、姫乃姉妹の家が何となく想像出来た。
「うええっ!? え、下も?」
「当然だ。この期に及んで脱がない奴などいないぞ?」
出入り口にいるスタッフ曰く、サウナだけ利用する女性客が多いらしい。美涼がまさにそれで、受付を済ませたと思ったら俺を置いてすぐに着替えを済ませていた。
「今日は運がいいぞ! あたしと恭二の貸し切りだ! 恥ずかしがる必要はない!」
……とか何とか言ってる美涼はすでに準備万端。全身バスタオル姿で俺の着替えを促している。
「は、裸じゃなくていいんだよね?」
「恭二が裸でいいなら好きにしろ。あたしは先に行くぞ!」
「じゃ、じゃあロッカールームに」
「……いいや、恭二は男子だから上半身裸で入れ! 下はそのままでいい」
下はスラックスだから汗をかいたらとんでもないことになりそうなんだけど、それは大丈夫なんだろうか。
「せ、せめて、短パンか何か無い? 替えが利かないのはさすがに~」
「すでに雨で濡らしているのにか?」
ずぶ濡れ状態で何を流してくれるかと思いきや、まさかのサウナ。確かに濡れて冷え切った体から汗ごと流せそうだけど、かえって具合が悪くなりそうな気が。
「いや、まぁ……」
「あたしは恭二と一緒に汗を流したいぞ! 遠慮しないでこのまま入れ」
放課後の、それも早い時間なだけあって他の客はいない。そう考えると覚悟を決めてサウナに突入するしかないかも。
俺だけ上半身裸になり、下はパンツになってタオルで隠すことにした。
「よし、あたしと一緒にほてるか!」
「ほ、ほて?」
「火照るくらいまで汗をかけば、気持ち良くなるぞ!」
何だかいちいち言い回しが紛らわしいんだよな。冴奈よりも美涼の方がその傾向が強いのはわざととかじゃないんだろうけど、何だか気になってしょうがない。
……それなのに。
「む~むむむむ……た、耐えられない……」
肌を直にさらけ出しているせいか、相当な汗が流れまくってかなり熱い。
それに引き換え、バスタオルを取ったと思ったらちゃっかりとサウナ浴衣を着ている美涼は慣れたような表情で俺の上の段に座っている。
座っている所が段差の高いところなせいか余裕さえ感じられるが、どうやら上の段はそんなに熱くないらしい。
「サウナ浴衣って……あるならあるって言って欲しかった」
「すまんな。女性用しかないんだ。それに、スタッフにこの店の特徴を聞いていたじゃろ?」
「うむむむ……それはそうだけど」
それを聞いた上でも納得がいかず、ただただ汗を流しながら俺は思わず美涼を睨んでしまった。
「……ふむ。それなら分かち合ってやるか」
「えっ?」
汗と熱さに耐えながら座っている俺の真横に、美涼がピッタリと体をくっつけてきた。
「ええっ!?」
「恭二が感じている熱さを感じてみようと思った。深い意味はないぞ」
「っていうか、浴衣の中ってその……」
上半身裸だから分かってしまったが、サウナ浴衣の中は間違いなく……。
「うむ。貴様と同じ姿じゃな。興奮したか?」
つまり下着すらつけていない状態――と。
「…………少し」
「ふん、素直じゃない奴め。冴奈には興奮するのにあたしにはしないというのか?」
姫乃姉妹の胸を屋内プールで無意識に揉みまくったという記憶はあるものの、冴奈の方にだけ神経がいっていたせいで興奮度は冴奈の方が高かった。
胸の大きさが関係しているせいかもしれないけど。
「してるしてる。今は興奮してますって!」
「……どうだか。それならば、この後ほてるか?」
「火照るって意味なら今まさに火照ってるけど……」
ただでさえ熱いのに、美涼が俺に密着してきてるから余計に火照ってる。
「ホテルに行くかって意味じゃけど、どうする?」
「うえっ!? ホ、ホテル……? え、何故急に?」
冴奈でも言いそうにないことを古風な美涼が言うとは驚きだ。
「貴様は冴奈にしか興奮していないようじゃからな。それを正す為にじゃ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます