第40話:責任放棄の引き籠もり・佐藤克也視点

「克也様、何かやりたい事はありますか?」


「何もしない、責任をとらなければいけない事は何もしたくない!」


「申し訳ありません、よけいな事を口にしました」


「もういいよ、今こうして生きているのはイワナガヒメのお陰だから。

 でも、もうあんな辛いのは嫌だよ。

 心臓が治ったのに、またあんな痛くて苦しい思いをしたんだ。

 イザナギとスサノオノミコトがやらせた事だと聞いたけれど、みんなが認めた事なんだよね、イワナガヒメも認めた事なんだよね!?」


「……はい……私たち全員の責任でございます」


「だったらもう何も言わないで!

 僕からお願しない事は何もやらないで、言うのもダメだよ!」


「はい、克也様を死なせかけたというのに、また私から催促するような事を聞いてしまいました、申し訳ございません。

 心から反省いたします、お許しください」


「分かっているのならもう少し離れていて。

 城の中でもここは奥で、誰も来ないのでしょう?

 イワナガヒメたちが側にいなくても、誰も襲ってこないよね?!

 安全な場所では離れていて、側にいないで、また胸が痛くなる!」


「……はい、申し訳ございません、離れさせていただきます」


 イワナガヒメが悪いのではないとイザナミノミコトから聞いた。

 でも、だからといって、また死にかけた事は忘れられない。


 もう心臓病が治っていて、元の世界、日本に戻ったら元気に駆けまわれると聞いていたのに、こんな所で死にかけた。


 それも、僕を守るためについて来たと言う氏神様たちの言葉に追いつめられてだ!

 氏神の言葉で心が病んで死にかけていたと聞いたら、側にいられるのも嫌になる。


 本当は、できるだけはやく、こんな世界から日本に帰りたかった。

 心臓が治っているのなら、日本に帰ってお父さんやお母さんに会いたかった。

 でも、でも、それでは、多くの人が困るのを知っている。


 繫一大爺ちゃんや光孝大爺ちゃんから教わった、男らしい生き方じゃない。

 タブレットで観たヒーローは、こんな時に逃げ出したりしない。

 この世界の人たち、特に女の人や子供を見捨てて逃げ帰ったりしない。


 本当なら、イワナガヒメたちを許して一緒にこの世界を良くするべきだ。

 僕のあこがれていたヒーローならそうする。

 だけど、弱い僕はそんなヒーローにはなれない、絶対になれない。


 イワナガヒメたちに言われた事をやろうとしただけで、心が病んで死にかけた。

 あこがれのヒーローのような事をしたら、また死にかける、いや、死ぬ。

 今度こそ間違いなく死ぬ、心臓が治ったのに、こんな所で死ぬのは絶対に嫌だ。


 死にたくはないけれど、かわいそうな女の人や子供を残して日本に帰れない。

 少なくとも、僕の代わりに国を守ってくれる人が現れるまでは帰れない。

 

 僕の後で国を守る人は、シャルロッテかアレクサンダーと決まっている。

 僕と同じような歳、12歳だから、今直ぐは無理だけど、2人のどちらかだと決まっているから、彼らが強くなるまでは、ここにいないといけない。


 いつ日本に戻っても、ここに来た直ぐ後に戻れると聞いた。

 イワナガヒメたちがウソを言うとは思わないから、本当の事なんだろう。

 だから、ガマンして、シャルロッテかアレクサンダーが強くなるまでここにいる。


 嫌な事はやりたくないし見たくもない。

 優しい世界だけを見て穏やかに暮らしたい。

 汚いモノ、人が殺し合うようなモノはもう2度と見たくない。


 5年になるか10年になるか分からないけれど、シャルロッテかアレクサンダーが強くなるまでここにこもっている。


 生れてからずっと病院に入院していた。

 病室から出た事もほとんどないから、部屋にこもっているのは苦じゃない。

 タブレットさえあれば、城の奥深くにこもっている事も平気だ。


 最初は草原を駆け巡りたいと思っていた。

 でも実際は、魔獣に襲われ殺されるような、とても怖いところだと分かった。


 殺されたくなかったら、魔獣を殺さないといけない。

 そんなとても怖いところだと分かったから、もう行きたいとは思わない。


 でも、日本の病院にいた時とは違って、身体は元気だ。

 ずっと城の奥にこもっていると、だんだん動きたくなって来た。


 病院にいた時には、少し元気な時はタブレットで動画を観られた。

 でもここでは、身体が元気なのにタブレットも観られない。

 だんだん身体を動かしたくて仕方がなくなって来た。


 だから、腕立て伏せや腹筋を繰り返した。

 スクワットや股割りをやって体を動かした。

 城の奥深くの部屋の中でやれる運動をやった。


「イワナガヒメ、タブレットが欲しい。

 日本の動画を観たい、タブレットをちょうだい」


「申し訳ありません、タブレットを取り寄せる事はできますが、この世界ではリアルタイムで動画を観る事はできないのです。

 録画した物、取り寄せた動画は観ていただけますが、リアルタイムで好きな動画を選んで観る事はできないのです」


「だったら、録画したものでいいから、アニメと時代劇を取り寄せて。

 以前観たモノで良いから、僕の大好きな、ヒーローが悪い奴らを退治するアニメや時代劇を取り寄せて」


「はい、分かりました、直ぐにこれまで作られたアニメと時代劇を全て取り寄せますので、1日だけお待ちください」


「分かった、1日待つ」

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寝たきりだった難病少年は勇者召喚されて大活躍する:神主の孫で氏神様が陰から支援しています 克全 @dokatu

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