第3話 真夜中の蛍
古びた病院の事務の当直、それが私の仕事だ。厨房から出された夕食を食べ、外部に続く鍵を閉め終えた後は、電話がかかってくるのに応対するくらいだ。
今日は何もなくこのまま終わりそうだ。
当直室の風呂から出て、テレビを見ながらベッドに座る。
テレビの横にはたくさんのモニターが並び、病院内のあちらこちらを映し出している。
特に何も映ることはない。この田舎の病院は周囲が田畑なので、歩いているのは猫くらいだ。
時計を見ると夜の十一時を過ぎていた。
そろそろ寝ないと、朝は五時に起きねばならぬ。
朝食を作り終えた厨房の調理師達が、六時にはエレベーターで病棟へ上がる。私はそのエレベーターを動かす為の鍵を開けねばならないのだ。
部屋の電気を消して布団をかぶる。
廊下の非常灯が、ドアのすりガラスを通して入ってくるのが少し眩しいが、もうだいぶん慣れた。
ほどなくして私は夢の中へ引き込まれていった。
ドンドンドンドン
どれほど眠っていたのか、時計を見ると夜中の十二時をまわっている。
一時間ほどしか眠っていない。
何故かというと、天井からドムドムと音がするのだ。
うるさい。
当直室の上は体育館になっている。入院患者がリハビリなどで運動するのだ。
そこでバスケットボールでもしているような音がする。
こんな深夜に?
私は天井を見上げてため息をついた。
一向にボールをつく音は止む気配がない。
誰かが走るような足音も聞こえる。
外部からは入れない。これは病棟の誰かの仕業だ。
だれか不真面目な職員がふざけているに違いない。
私は意を決してベッドから起き上がった。
安眠を妨害する奴らに抗議せねば。
当直室を出て二階への階段を上がる。
気づかれないように出来るだけ足音は立てないようにした。
重い金属の扉に鍵を差し込み、ゆっくりと回して開く。
体育館はこの扉のすぐ向こうだ。
一体誰がこんな時間に遊んでいるのか。
開いた先のフロアに明かりはなかった。
体育館のドアは閉まっており、誰もいる気配はない。
そんなはずがない。
私は体育館のドアに近づき、ガラスの窓から中を覗いた。
中は暗く、誰もいなかった。
と、その時、背後の廊下の先にあるトイレの水がザザーッと流れる音がした。
誰かが歩く足音もする。
私は何故かホッとして振り返る。
やっぱり誰か遊んでいたんだ。
しかし、いつまでたっても私の目の前の廊下に出てくる人はいなかった。
電気のついていないトイレに近づき、中を見る。電気のスイッチをつけて、中に隠れているであろう人を探す。
しかし、どこにも誰もいなかった。
ざわりと背中に冷たいものを感じなから、電気を消して階段へ戻る。
ふと、目に入った体育館の中に、白い小さな光が飛んでいるのが見えた。
蛍のように小さい光は、少し瞬いて、すぐに消えた。
真夜中の蛍 藤夜 @fujiyoru
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