正義の暴力行為

「なにやってんだお前らぁぁぁぁぁぁ!!!」


カズローチャは見事な飛び蹴りを繰り出した。

その一撃は見事いじめていた生徒達の頭に的中し、全体重の乗った重い攻撃により地面に転がった。

そしてもう一人のいじめっ子の生徒が声を荒げる。


「なっ、何してんだお前!」


「うるせぇ!黙れ!てめえとは一切話したくねぇ!」


そう言って彼は拳を力強く握りしめて飛び掛かる。

相手の急所を的確に狙いつつ、怒りに任せるように。


僕はその光景を見ながら呆然とする演技をしつつ、脳内ではぐるぐると思考していた。

悠長に考える暇はないのだが、数秒程度なら「いきなりのことで驚いてしまった」とでも言い訳できるだろう。


しかしどうしたものか、どうやって止めるべきだ?

ここは戦場ではない、まして人を殺しても蘇るような装置が稼働している訳では無い。

殺そうとするな。相手は学生で軍人じゃない、兵器でもない。

ただの学生で、ただの子供だ。


ならば、学生の頃僕がして欲しかったことをするのが正解だろう。


「どうしたぁ!?やっぱいじめるようなやつは性格が悪いだけじゃなくて賢くねぇのかぁ!?」


「なっ!がっ!ふざけているのかお前ぇ!」


元々、喧嘩っ早い所があったのか、慣れた動きで放たれる打撃は着々と相手にダメージを与える。


だからといって、相手も無抵抗というわけではない。

その苦し紛れに放った握り拳はカズローチャの顔面を見事に捉えた。


「――――――甘ぇんだよなぁ?」


だが、

口角を上げて、憤怒の表情を浮かべながら。


そう、彼は顔を殴られているというのに、一切怯まずに相手を殴り続けている。

少なくとも、タネや仕掛けはあるのだろう。

でなければあのような狂気が生まれる悲劇があったということになる。


「クソが⋯⋯!調子に乗るなよ劣等生⋯⋯!」


先程、飛び蹴りを受けて蹲っていた生徒が地面に転がった杖を握っており、その杖の切っ先と視線の先はいじめられていた二人の生徒、ラプラスと秋津だった。

魔術によって作り出された火球は、煌々と光りながら加速する。


いくら子供同士の喧嘩とはいえ魔術を扱うとなると話は変わってくる。

人間は火だるまになれば死ぬし、心臓を貫かれても死んでしまう。

僕が知っている一部の例外でもない限り人間というのは簡単に命を落としてしまう。

だからこそ、僕はその行為を止めなければならない。


僕はいつのまにか背負っているのが癖になってしまっていた、身の丈ほどある古めかしいトランクケースで魔術を相殺することにした。

ただひたすら頑丈さを求めた結果、棺桶のようになってしまった特注品。それで魔術を叩こうとする。

のだが、それを邪魔する影が唐突に割いて入ってきた。


「あらよっとぉ!」


カズローチャがその火球を、叩き落とすかのように握りこぶしを振り下ろした。

ギラギラと光を放ちながら、好奇心で触れた赤子すら害する火球に、なんの躊躇もなく触れたのだ。

しかし不思議と、彼は痛がる仕草など微塵も見えない。

それに驚きつつもあるが、それはさておきやるべきことはある。


「大丈夫か?ラプラス、秋津」


僕は二人の手を取って立たせようとすることにした。

カズローチャは荒事に慣れているだろうが、一歩間違えたら魔術によって命を落としてしまう可能性がある。

しかし肉体的損傷はまだ直せるが精神の方はそうはいかないだろう。

いじめのせいでトラウマになるなど、加害者は笑い話にできるが被害者は笑えない。


「まぁ、はい、怪我は平気でありまする」


「一部肯定、腰が抜けて立てない」


「⋯⋯そうか、なら担ぐぞ?いいな?」


二人が独特な喋り方をするものだから少し困惑したが、すぐにラプラスを担いで僕は早足にその場から離れることにした。

子ども一人担ぐくらいなんてことはない、死体を担ぐわけでもないのだから。


あとに残るのは憤怒の表情を浮かべながら他クラスの教師陣に押さえつけられるカズローチャだけだった。

――――――――――――――――――――

あとがき

結局の所、何を持って子どもと規定しているのでしょうかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

特別補修教室の問題講師 久慈氏 @kataritezaregoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画