第4話 クラスメイトたち

 そこにいたのは、保険室登校になった俺と一緒に昼飯を食べにわざわざここまで出向いてくれる愛すべきバカ達だった。


「よう。よく来たな。いつもありがとよ」


「べっつにー? 俺らがここで食べたいからきてるだけだもんなー? ここのソファ気持ちいいしさー?」


 語尾に星がついているような喋り方をするこいつは狂嵌くるはめ京歌きょうかという。


 京歌はサンドイッチを広げながら茶色のソファに勢いよく座った。


「京歌さん、ちょっとは遠慮しましょうよ。ここ一応相談室っすよ?」


 わたわたと注意をするいかにも優しい顔をしているのは赤目あかめ晴人はるとだ。今年から同じクラスになったはずなのにいつの間にかここで共に昼飯を食うようになっていた。すごく良い奴。本人曰く、「優しすぎて不安」という理由で彼女が出来ないらしい。


「やぁ健也。元気?」


 開青は後ろ手で扉を閉めながら挨拶をしてきた。手には購買で買ったのであろう、カツ弁当がある。


「元気元気。じゃあ俺も弁当食お」


 鞄から保冷バッグを取り出して、二段弁当を机の上に展開した。母さんはいつも美味い弁当を作ってくれる。感謝だ。


「いただきまーす!」


 四人揃っていつも通り挨拶をする。京歌はガツガツ、赤目はもぐもぐ、開青はもくもく、と三者三葉に食べ始めた。俺の食べる表現はなんだろう。モグモグかもしれない。


「もう6月だねー」


 大きめのサンドイッチをもう半分まで食べた京歌はポツリと呟いた。


「そうっすねぇ。あ、そういや俺、弓道部の昼練があるので早めに行きます」


「高総体近いもんね。僕も毎日練習してるからさ。インターホン目指して」


「うるせぇよ」


 帰宅部でお気楽な開青に、空手部でピリピリしている京歌は突っ込む。俺はトマトを箸でつまむのに夢中で会話に混ざれない。


「そういえばさ、〝陸上の花〟の件知ってる?」


 開青の突然の話題転換に、せっかくつまめたトマトを落としてしまった。弁当箱でキャッチしたからセーフだけども……。


「知ってます知ってます。あれっすよね。人探しの」


「そうそう。なんでも、ヒーローがなんちゃらでさ」


 俺の汗がダラダラと垂れていくのを感じる。やばい、バレるか……?


「失礼しまーす。あっかーめ先輩。OB訪問の件でお話がありまーすっ」 


「りょーこまさん!? どうしましたか?」


 急に相談室の扉が開いて、赤目が連れていかれた。早く話題を変えないと……!


「二人はさ! 好きな人いる!?」


 開青が飲んでいたお茶を吹き出した。おっとこれは……?


「おや〜? かいせいくんったら、好きな人がいるのかにぁ〜?」


 京歌がここぞとばかりにニヤニヤと追い詰め始める。いけいけどんどん。


「い、いや、まぁほらね。まぁ、いるけどさ……」


 赤面しながらも認めた。ここでからかわずにいつからかえってんだ。


「ほほう? どこの誰だい? ここの学校の人?」


「たぶんそう……かな? 屋上の……いや、もういいでしょ!? やめてよ!」


 開青は嫌がるが、京歌の笑顔はどんどん歪む。この調子で吐いて欲しい。


 赤目が戻ってきてバタバタと片付けをし始めた。


「すみません、お先失礼します。俺らの弓道部の、伝説級の人が指導しに来てくれるんですよね。今日。阿部青斗さんという人が……。それの準備とか色々あって……」


「おういけいけ。じゃあねー」


 いちごルクを吸いながら、京歌は雑にひらひら手を振った。俺もそれに倣って見送る。赤目は何度も小さくペコペコしながら去っていった。


「それでそれで〜? 開青は誰が好きなの〜?」


「まだ続けるの……? 言わないよ!」


 どうやら開青は本気で嫌がっているらしい。仕方ない。助け舟を出してやろう。


「そういう京歌は? あんまりお前の噂聞かないけど」


「えぇ〜? 俺はまぁ三大美女狙ってっからさ」


 パチーンッと星を飛ばした。あんまりかっこよくないけど……。


「三大美女って……」


 開青が俺の顔をチラチラ見ているのを感じる。それを無視して梅干しを口に放り込んだ。


「〝氷上の花〟は無理。俺には氷を溶かせない。俺は〝机上の花〟を狙うぜ!」


 またもパチーンッと星を飛ばした。 


 すかさず二年生徒会副会長の開青が口を挟んだ。


「僕生徒会で一緒だけど、そう簡単な人じゃないよ? 頭いいし」


「おっや〜? もしや開青くん、俺のライバルなのかなぁ?」


「違うよ!! 別の人だよ!!」


 あの美少女と一緒に行動しても好きにならないとは、開青はよっぽど別の人に惚れているらしい。すごく良い奴なのでどうにか成就して欲しいものだ。


「開青は生徒会長なるの?」


 ふと気になったので訊いてみた。開青は愛想笑いをしながら頬をかく。


「今のところなる気はないなぁ……。薬師寺生徒会長が優秀過ぎて、気後れして……。よっぽどの事がないと立候補する気にならないよ」


「ふーん……」


 開青が生徒会長になったらいい学校づくりができる気がするけどなぁ、と俺が呟いたところで意味が無いことはわかっている。


 京歌は興味なさげにイチゴミルクを吸った。


 その時、コンコン、とノック音が響き渡った。


「失礼しまーす」


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《コラボ企画》保健室登校の俺になぜか学園の三大美女が惚れています。でも俺の本命は保健室の先生です 野々宮 可憐 @ugokitakunaitennP

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