第5話 村の暮らし

「アルーー!!今日も行くわよー!!」


優美な長い金髪をポニーテールにまとめた少女がこちらに勢い良く走ってくる。

少女はズサーーッと足で急ブレーキを掛けると

俺の方に向き直る。


「アル!行くわよ!」


「……エリカ、一応どこに行くか聞いても?」


この少女はエリカ・ユーベルク、うちの隣に住んでいる美しい金髪と力強い黄緑色の瞳をした女の子だ。整った顔立ちとクリクリとした大きな目が相まって非常に可愛らしい。めっちゃ可愛い。何でこんな田舎に産まれて来たのか不思議に思うくらいに可愛い。

性格は正に天真爛漫てんしんらんまんが服を着ているような子で元気がいい、良すぎるくらいだ。

歳は俺と同じ7歳で家が近い事もありよく一緒に遊んでいる。

所謂いわゆる、幼馴染だ。こんな可愛い子と幼馴染とか俺は前世で膨大な徳を積んだのかも知れない。そんな記憶ないけど。


「決まってるでしょ!剣を教わりに!」


「デスヨネー」


やっぱりか。

エリカは2週間程前から剣を教わりに行っているのだが、行く時は必ず俺を誘いに来る。

父親の方を見てみる。


「いいぞ、行ってきても」


「だって!」


エリカは満面の笑みを浮かべると俺の手を引っ張って連れて行こうとする。


「分かったから、行くから。その前に道具を片付けるから待って」


「しょうがないわね、手伝ってあげるわ!」


「あぁ、ありがと」


「えへへ」


多少強引な所はあるがそこも可愛いし、優しい所もある。完璧か?将来はモテモテだろう。

2人で如雨露やバケツなど道具を片付けると剣を教えてくれるリグルさんという人の元へ向かう。


「最近ずっと剣を教わってるけど、楽しい?」


「うん!楽しいよ!」


7歳の女の子が剣を教わるのが楽しいのか。

普通7歳と言ったら友達と遊ぶのが楽しい時期だと思うが。まぁ近所に居る同年代は俺とあと1人しかいないし、仕方ないのかもしれない。

エリカが純粋に剣を好な事もあるか。


「アルは楽しくないの?」


「うーん、普通くらいかな」


「えー、楽しいじゃん!」


正直言って剣の稽古はあまり好きじゃない。理由は俺に絶望的に剣の才能が無いからだ。

何回か剣の稽古に行った時に分かった事だが、俺には全くと言っていいほど剣の才能が無い。他人と比べて剣がふにゃふにゃというか、芯が無いというか、明らかに他の子と違っていた。よわい7歳にして才能の大きな差を感じた。精神年齢20歳でも泣きそうなくらい才能が無かった。

こと剣に関しては厳しいリグルさんにも「うぅん、もうちょっと頑張ってみよっか」と7歳児なのにめちゃめちゃ気を遣われた。気を遣われる7歳児ってなんだよ。

では何故剣の稽古に今も向かっているかというと、前にさりげなく剣の稽古に行くのを断ろうとしたらエリカが今にも泣きそうな顔で「ほんとに行かないの?」と、とても悲しそうな顔をされてしまい断るのは無理だった。まぁやる事も他にないし、多少は体が鍛えられるだろう。

そういう訳で体作り兼エリカのご機嫌とりで剣の稽古に行っている。


雑談をしながら歩いているとリグルさんの家に到着した。


「おっ、来たか2人とも」


「こんにちは!」


「こんにちはー」


2人でリグルさんに挨拶する。

リグル・フォルトさんはシグナ村出身で元々クレウトス王国の騎士団に所属していた騎士だったらしい。今はこの村にいた父親が他界した事と足に怪我を負ったことでシグナ村に帰ってきたらしい。

そして騎士だった経験を活かして無償で剣を教えているのだ。


「はいこんにちは。じゃあいつも通り2人とも木剣を持って裏庭に来てくれ」


「はい!」


「はーい」


リグルさんは木剣を持って来て俺達に渡してくれる。木剣と言っても子供用の小さくて軽い木で作られた物だ。

木剣を持って裏庭に行くと既に数人が素振りをしていた。居るのは俺と同い年位の少年が1人とそれより背が高い子が4人ほど。


「あっ」


同い年位の子が此方こちらに気づき近づいて来る。


「なんだアル、また来たのか?」


「来ちゃいけないのか?」


「別に~?ダメダメの癖によく毎回来れると思って」


この子はリド・フォルト。名前から分かる通りリグルさんの息子で短い橙色の髪をツンツンにしている男の子だ。俺やエリカと同い年歳の幼馴染で一緒よくに遊ぶのだが、最近は俺を目の仇にして突っかかって来る事が増えた。理由は………


「アルは来ちゃいけないの?」


エリカが不思議そうに言う。


「そ、そうじゃ無いけどさ、どうせ練習したって意味無いだろ?」


「やってみないと分かんないじゃん!」


「それは、まぁ……」


リドはエリカと話すと途端に挙動不審になる。エリカの目も見ていないし頬も若干赤い。前は普通に話せていたのだが。

……何となく察せるがこっちに矛先を向けないで欲しい。

ちなみに俺はそういうのは無い。中身が20歳なのでエリカは年の離れた妹みたいなものだ。前世では妹が居なかったので実際の妹はどういう感じか分からないけど。


「リド、いつも言ってるだろう。剣術を修める上で1番重要なのは継続する事だ。剣の稽古を欠かせない事で剣術のみならず己を鍛えられる。アルもこれから上達するかも知れないだろう。ほら、謝りなさい。」


「………アル、ごめん」


「いいよ、気にしてない」


剣がダメダメなのば事実なんだけどね。

一応真剣にやっているが、エリカのご機嫌取り目的で来ているのが少し申し訳ない。


「ほら稽古を開始するぞ!」


「はい!」


「はーい」


「はい…」


若干気まずくなったが俺達は稽古を開始した。




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眷属達は世界を喰らう。 ウルシの木 @urusinohappa

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