第3話 転生

「今日も平和だ」


俺は木製の如雨露じょうろで小麦に水をやりながらそうつぶやいた。

今は家の畑で親の手伝いをしている。手伝いといっても水やりや草むしり位しか出来ないのだが。


「転生してもう7年か、早いな」


転生。

俺は前世の記憶を持ってこの異世界に転生した。前世は何の変哲もない大学生だったが、死んでこの世界に転生したらしい。死因は……ハッキリとは思い出せないが空から何かが降ってきて、それにぶつかった事は覚えている。間抜けというかなんというか、まあそれはいいとして重要なのは俺の現状だ。


俺のこの世界での名前はアルリア・テレークス。

父親ルード・テレークスと母親ミナ・テレークスの間に産まれた一人っ子で、艶のある黒髪と紫がかった瞳が特徴的だ。両親の髪の色は緑髪と茶髪で、俺とは違うので当初は母親の不貞ふていを疑ったのだが、どうやらルードの父親、俺のおじいちゃんが黒髪だったらしく俺の黒髪はおじいちゃんのものが出たんだそうだ。隔世遺伝というやつだろうか?ちなみに俺の名前はこの地域に伝わる伝承の英雄からとったものらしい。英雄の名前とかキラキラネームみたいで恥ずかしい。


話を変えよう。今俺が住んでいるのはクレウトス王国の東南にあるシグナ村という村だ。もちろん地球にはクレウトス王国なんて国は無かったのでここは本当に地球とは違う世界なのだろう。

シグナ村は人口600人位の小さな農村で四季はあるが1年を通して過ごしやすい気候だ。

転生するなら田舎じゃなくて都会が良かったと思わなくもないが、この村の長閑のどかな雰囲気も結構気に入っている。

シグナ村に産まれて7年、つまり俺は7歳になった。だがそれは肉体的な話で中身は20歳の大学生。どこぞの名探偵のような状態だ。

7歳の体で出来るのは会話と家の手伝いくらい。会話が出来るようになったと言っても言語が違うので覚えるのが結構大変で、物覚えの良いこの体を持ってしても一から言語を覚えるのは難しかった。

現在は問題なく言葉を喋れるが文字を書くのは出来ていない。というか父親も母親も出来ない。この村で文字を書けるのは村長と商人くらいのもので両親に聞いた所、この世界の識字率は低いらしい。個人的には文字が書けるかどうかは将来に大きく関わると思うので文字は書けるようにしておきたい所だ。


「あ、水無くなった。父さんに貰わないと」


如雨露じょうろの水が無くなったので水を貰いにこの世界での父親、ルードの元に向かう。


「父さーん、水ちょうだーい」


「ん、水か?よし如雨露じょうろをこっちに」


「はい」


如雨露じょうろを渡すと父親は手をかざす。

父親の手の平に魔力が集まり淡く光り出す。


「【ウォーターボール】」


「………」


父親は水魔法で如雨露じょうろに水を入れてゆく。


この世界が異世界である所以。

そう、この世界には魔法が存在している。俺が転生した世界は剣と魔法のファンタジー世界なのだ。魔法には様々なものがあり日常的に、当たり前のように使われている。


俺は父親が如雨露に水を注ぐ様子をじっと観察する。何も無い父親の手の平に水の玉が生み出され如雨露じょうろの中に落ちてゆく。魔法の無い世界で生きてきた俺からすると何とも不思議な光景である。


「アルは本当に魔法が好きだな」


「うん」


「毎度言ってるが、10歳になってからな」


「分かってるよ」


父親には魔法は10歳からと言いつけられている。まぁこんな面白そうなものに好奇心を抑えられるはずも無く、何回か使ったけどね。


「ほら、水が入ったぞ」


「ん、ありがと」


「アルは偉いな。いつも手伝いをしてくれて」


「そんな事ないよ」


だって他にする事ないし。

父親から如雨露じょうろを受け取ると水やりを再開する。小麦への水やりは週に1、2回ほどで、他の日は草むしりや母親の家事の手伝いをしている。なんと出来た息子だろうか、まぁやる事無くて暇なだけだが。

正確には出来る事はある。出来ればあんまりしたくない事だが、


「アルーー!!今日も行くわよー!!」


噂をすればなんとやらだ。






----------------------------------------------------------

表現を修正しました




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る