第2話 誕生

(ん……。ここ、何処だ?)


俺は謎の場所で目を覚ました。

そこは何処どこまでも暗いが、ポカポカして暖かくて居心地は悪くない。


(俺、一体どうしたんだ?)


自分の状況を確認しようと思考を巡らせるが上手くいかない。


(うん?上手く考える事ができない。なんというか思考が纏まらない。まるで考える事が出来ない体みたいだ)


自分がいる場所も、置かれている状況も何も分からない。

何回も試していると突然、急激な眠気に襲われる。


(うっ急に眠気がっ。ダメだ、抗えない……)


何とか眠気に耐えようとするが、抵抗叶わず俺は深い眠りに落ちてしまった。



…………………………………



(んっ、ここは……そっか俺、寝てたのか)


寝てしまってからどれくらい経ったか分からないが、俺は再び謎の場所で目が覚めた。前と変わらず暗くて暖かい所だ。


(前は……自分の状況を確認しようとしてたら急に眠気に襲われたのか。うーん、もっかい試してみるか)


もう一度自分の状態を確認しようと思考を巡らせるがやはり上手くいかない。

途中で頭に靄がかかったように思考を制限されてしまう。


(普通に考える分には大丈夫みたいだけど、深く考えようとすると途端にダメになるな。)


どうやら今の俺は深く思考する事が出来ないらしい。


(考えるのが出来ないのなら他の事をしよう)


取り敢えず自分の身体を確認する。まずは手を見てみるが何も見えなかった。


(俺の身体はどうなってるんだ?身体の感覚はあるけど何も見えないし。目が開かない?もしくは目が無い?)


どういう事だ?と考え始めると、また思考を邪魔される。


何にも見えないし思考は制限されるしで何もする事が無い、というか出来ない。


(……………暇だ)


仕方なく暗闇をボーっと眺めていると、また眠気が襲ってきたので俺は大人しく眠りについた。




それから何回か目が覚めては眠るのを繰り返した。

起きている時間が目が覚める毎に長くなっているように感じるが、時計なんて無いので正確には分からない。


(俺、いつまで此処ここに居なきゃいけないんだ?俺、生きてるのかな?)


真っ暗な空間にずっと居て、そろそろ精神に異常をきたしそうである。

何も出来ない自分と何も無い空間に苦痛を感じるながら過ごしていると、突如今までと比べものにならない程の眠気を感じる。


(何だこの眠気はっ、今までとは、ちが…う……)


俺は瞬く間に睡魔に飲み込まれると意識を手放した。



………………………………………



「…чЁ#М&$ЩцЖЙ」


「…ДЪ;*ЙЖ♯Щцъ」


声がする


その声は2人分あり、何を言っているか分からないが、優しさを感じる声色だ


今度は優しく顔を触られる


まるでこの世で1番大切な物を愛でるかのような優しい触り方だ




…………うん?触られる?触られてる?俺が?

段々と意識が覚醒してくる。


(触られた?ずっと謎の空間に居た俺が?一体誰に?)


考えても仕方が無いので意を決して目を開ける事にする。


(目、ちゃんとあるっぽいな)


恐る恐る目を開いていく。

すると……


「ォギャァ!」


目に飛び込んできたのは2人の大人だった。

それぞれ緑色の髪を持つ男性と長い茶髪の女性だ。2人と心の底から安心したような、愛おしいような、微笑みを浮かべて俺の頭を撫でている。

だが俺はそれどころではなかった。

なぜなら茶髪の女性は服が大きくはだけている。つまりおっぱいが丸見えなのである。


「オギャオギャァ!(どういう状況!?)」


少し上を向いた立派なおっぱいが、そこにはあった。

目覚めた瞬間に謎の女性のおっぱいを目に出来るとかどういう事なんだ。


(と、取り敢えず現状を確認しよう)


俺はまた自分の手を見てみる。

そこには、


「オギャァ!?」


ふっくらした小さな小さな赤ちゃんの手の平が存在していた。


「オギャオギャァァァァ!!(俺、赤ちゃんになってるぅ!!)」




◇ ◇ ◇ ◇




「ふふっ、見て?気持ち良さそうに寝ているわ」


茶髪の女性が緑髪の男性に話しかける。


「そうだな、さっきまで驚いたような声を上げて泣いていたのにな」


茶髪の女性の腕の中では、薄らと黒い髪の生えた赤ん坊がスヤスヤと眠っていた。


「ねぇ、この子の名前どうしようかしら?」


「う~ん、男の子だからな。カッコイイ名前がいいんじゃないか?」


「え~、こんなに可愛いんですものカワイイ名前がいいわよ~」


どうやら2人は子供の名前を決めるらしい。


「そうか?じゃあ……そうだな、あの伝承から取るのはどうだ?たしかあの伝承に出てくる英雄も黒髪だった筈だ」


「あっ!いいわねそれ!」


「よし、決まりだな。じゃあこの子の名前は」


「アルリアね」


「アルリアだな」


この日、とある村に異なる世界の知識を持った小さな命が誕生した。

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