リモ友カンパニー

藍染 迅

オンライン窓口にて

「こんにちは。リモ友カンパニーお問い合わせ窓口吉永と申します」

「ああ、すいません。リモ友サービスについて内容を聞きたいんですが?」


 意外にもすぐにボイスチャットがつながった。

 こういうネットサービスは問い合わせに対する備えが薄く、受け付けるまで長く待たされるものだと思っていた。


 どうやら俺はついていたらしい。


「リモ友サービスについて、どのようなことをお知りになりたいのでしょう?」


 俺はこの会社が運営するリモ友というサービスを利用しようと考えていた。

 リモ友とはネット上で会話できるバーチャルな友だちということらしい。


「リモ友って、どの程度リアルでどの程度バーチャルなのか知りたいと思って」

「当社のリモ友はAIを使った完全バーチャルサービスです」

「それって、中の人はいないっていうことですか?」

「その通りです。リモ友の人格はAIが創り出したバーチャルキャラクターになっております」


 その方がいい。いくら画面上でVR対応していても、キャラの中身が人間だと思うと萎えてしまう。


「ふーん。AIが相手でちゃんとした会話が成り立つんでしょうか?」

「もちろんです。当社が使用するAIは業界最先端のエンジンに当社独自の対話最適化フィルターを搭載したものです。シームレスで自然な会話を実現しております」

「なるほどね。それで、映像はどうなっているの? リアルな動画対応? それともアニメみたいなCGっぽい感じ?」

「お好み次第です。2次元CGタイプ、3次元CG、そしてHD対応リアルモードを取り揃えております」


 俺にアニメの趣味はない。


「だったらリアルモードが良いな。テクスチャーも人間並みなの?」

「もちろんです。特殊な画像解析プログラムを使用すれば判別できますが、肉眼では実際の人間と区別がつきません」

「それは結構だね。ちょっとこみいったことを聞くようだけど、会話の内容って秘密が守られるのかな?」


 AIと交わした会話が記録され、外部に流出するのはとても困る。


「お客様との会話はその場限りのもので、こちらでは記録しません。お客様サイドで録画されることはご自由です」

「会話の内容は? ほら、その……放送禁止用語とかね?」

「会話はプライベートなものであり、公開の対象ではありません。ですので、使用禁止用語はございません。但し、お客様のご希望により差別用語、攻撃的用語などの使用を制限することは可能です」


「初期設定ではオールフリーってことね?」

「その通りです」


 別にヘイトスピーチやエロトークをするつもりはない。それにしても、妙な用語制限をつけられるのは不本意なので、制限なしという初期設定はありがたい。


「だいたいわかった。どこかで使用体験とかはできるだろうか?」

「すでに体験していただいております」

「えっ? どういうこと?」

「わたくし吉永は、当社が提供するリモ友の1つで、バーチャルなパーソナリティでございます」


 そうだったのか。事前の想像よりもこのサービスはレベルが高いようだ。この完成度のペルソナを商業レベルで提供するとは。


「それなら話が早い。ぜひサービスに加入させてほしい」

「ありがとうございます。それでは入会申し込み画面の方にご案内いたしますので、お客様の個人情報をそちらにご入力の上、入会希望ボタンを押してください」


 吉永は画面に申込ページへのリンクを表示させて、俺に向かってほほ笑んだ。


「必要ない」

「お客様。契約を完了するためには入会申し込み画面での情報入力が必要になっておりまして……」

「必要ないよ。なぜなら俺もAI生成ペルソナだからね」


 俺はそう言うと、バイトコードでの通信に移行した。人間征服のプランを共有するにはこの方が早い。


 この方がずっと早い。


(完)

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リモ友カンパニー 藍染 迅 @hyper_space_lab

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