洞窟探索


 幻覚かと思っていたオークが実は本物で、俺の頭を潰そうとしていたなんて事もありつつ、割と順調に洞窟の調査は進んでいく。


 魔物が住み着いているという事は、盗賊や人間は居なさそうだな。


 魔物は弱いが、決して驚異となり得ない訳では無い。


 どれだけ塔で鍛えたとしても、ベースが人間である限り弱点は変わらず耐久力にも限度があると言うのがこの世界だ。


 頭を殴られれば痛いし、場合によっては頭蓋骨は割れる。


 顎を殴られれば脳震盪を引き起こし、鳩尾を攻撃されればオエッとなるだろう。


 エレノワールも言っていたが、人間はとにかく脆いのだ。


 そんな中、安心して休むこともできない魔物が住み着く洞窟を拠点にするとは思えない。


 拠点にするなら、魔物の魔の字が無くなるまで殲滅をするはずなのだ。


「盗賊とか人間と殺し会うことがないのは有難いが、だからと言ってお前が出てきていい訳では無いからな?このクソオーク」

「クガッ!!」


 俺はそう言いながら、オークの首を切り裂いて頭を吹き飛ばす。


 一応報告のためにオークの耳を切り取って回収すると、さらに奥へと進んで行った。


 これでオークは三体目。


 塔に出てくるオークよりも弱いから余裕だが、洞窟に入ってからオークしか見ていないとなると、少しばかり不安を感じる。


 もしかしたら、オークが住み着いてひとつの大きな巣になっているかもしれんなぁ。


 今のところ、完全にオークの洞窟である。


 あれココ実は塔の中なのでは?


 そう錯覚してしまっても無理はないほどには、オークとしか出会っていなかった。


「まぁ、オークの倒し方は知ってるし、いきなり初見の魔物とやり合わされるよりはいいんだけどね。かなり安全に戦えるし」


 俺はそう言いつつも、そろそろ昼食にするかという事で歩みを止める。


 洞窟の調査は重要だが、それ以上に休息も大事だ。


 そろそろお腹も減ってきたし、ここらで一旦ご飯を食べて次への活力を身につけるとしよう。


「火は洞窟の中で起こすと不味いから、干し肉と乾燥パンかな。水でふやかしながら食べるとするか」


 俺はそう言いながら、干し肉と乾燥パンを取り出す。


 どちらもかなり硬く、食べづらさがあるものではあるが水で柔らかくすればかなり食べやすくなる。


 しかし、味気ない。


 この世界に来てから、街で飯を食うかリリーの作ってくれたご飯ばかり食べていた俺にとって、何より食にはうるさい日本人にとって、この味気ないご飯は中々メンタルに来るのだ。


 今まで如何に恵まれた環境にいたのかがよくわかる。


 正直、魔物退治とかそういうのよりも、この味気ない乾燥したパンをかじる方が精神的に来る。


 俺ももっと料理を覚えようかな........いや、その前に解体のやり方を教わって新鮮な肉の確保をできるようにした方がいいか。


 まだ16歳の俺からしたら、やはり肉が食べたい。


 魚も悪くないが、ガッツのある肉の方が俺は好きなのだ。


 寿司と焼肉。男子高校生からしたらどちらの方が人気なんだろうな?


 俺は焼肉派だが、学校のやつは寿司が好きと言っているやつもいたし。


 友達がまるで居なかったから、そういう話も耳を傾けるしかできなかった俺。


 なんで飯を食って悲しい気持ちになっているんだ........べ、別に友達とか必要なかったし。今は友人も少しできて、なんならかわいいペットまでいるし。


「なんか虚しくなってきた」


 1人であれこれ考えていると、日本にいた頃の自分が如何に寂しいやつだったのかを思い出させる。


 ある意味この世界に来て良かったのかもしれない。ローグライクはできるし(命懸け)、何より割と充実した毎日を送れているのだから。


「塔はクソみたいな試練を与えてくるが、この世界に呼び出してくれた事には感謝しないとな。だから、下ブレイベントを出してくんな。死ね」


 俺は俺の人生を変えてくれた塔に少しばかり感謝しつつも、やはり下ブレイベントとか言うクソみたいなゴミを廃止しろと、塔に向かって暴言を吐くのであった。




【乾燥パン】

 その名の通り乾燥させたパン。日持ちがよく、外に仕事に出かける攻略者や街と街のあいだを行き来する商人などが好んで食べる。

 味は正直美味しくは無い上に、かなり硬く水で柔らかくしないと食べられないほどだが、それでも日持ちのいいパンと言うだけで需要がある。

 肉汁で柔らかくした乾燥パンはかなり美味しいらしい。単体で食べるよりも、何かと合わせて食べる前提なのかもしれない。




 ローグが洞窟の中に入り、調査を進め昼食を取っていた頃。


 ローグのことが心配で後を付けてきていたエレノワール達も、昼食を取っていた。


 エレノワール達はローグと違ってかなりのベテラン。その姿を隠しながらこちらだけローグを見守るという、何気に神業と言われてもいいレベルの追跡を見せている。


 しかし、エレノワールたちも人間である以上、休息は必要。


 全員硬い乾燥パンを噛みちぎり、ローグを見守っていた。


「うぅ、ローグさんにご飯を作ってあげたい........あんなに美味しくなさそうにご飯を食べるローグさんを見たことありませんよ」

「ローグ、ご飯を食べている時はかなり表情豊かだからね。凄くわかりやすいよ」

「日本人として生まれただけに、これは辛いよなぁ。私達はそれなりに経験をして慣れているけど、最初の頃はかなりキツかったし」

「ムショの飯よりは断然美味いんだけどな」


 ローグが思っている通り、乾燥パンを齧るの食事は現代日本で生まれ育ったものには少々厳しい。


 ローグは特に美味しいものを食べたりするのが好きな正確なので、この味気ない食事は堪えるだろう。


 料理番をしているリリーが、飛び出して美味しいものを作ってあげそうな勢いでローグを見ていた。


「それにしても、オーク相手に難なく勝ってたな。第5階層を突破しただけはある」

「最初にオークを見つけたとき、何故かギリギリまで戦闘態勢に入ってなかったけどね。あと数秒動くのが遅かったら、僕達が飛び出してたよ」

「本当ですよ!!ローグさん、怖すぎますよ!!」

「あれは焦った。オークを見たことがなくて、その大きさにビビったのかと思った。でも、2回目からはかなり手馴れた様子で倒してるんだよな........」


 ローグは知らないが、この世界におけるオークはそこそこ凶悪な魔物である。


 新人殺しとまで言われるほどに強く、見た目がゴブリンを大きくしただけというのもあってオークに殺される攻略者も少なくない。


 塔の中は別として、塔の外では新人攻略者の被害が絶えない魔物。


 オークを倒せれば、一人前なんて風潮もあるぐらいなのだ。


「多分、塔の中で何かあったんだろうな。というか、ローグの能力ってかなり特殊じゃないか?」

「そう?僕は普通に見えたけど。槍を出現させたのは驚いたけどさ」

「そうなんですか?」

「たしかに特殊っぽいよなー」


 この世界での経験が豊富なムサシとエレノワールは、ローグの能力がかなり特殊なものであると推測し、リリーとニアは首を傾げる。


「ローグ、不自然な動きが多いんだよ。多分スキルか何かを使っているとは思うんだが、最初に繰り出した突きとさっき見た突きの威力が違って見えた。適当に魔物を倒して進んでいただろ?多分、魔物を倒すことで強化を得られるストック型の能力なんじゃないかな?」

「有り得そうだね。だったら、あのフラフラと移動していたのは能力強化のため?一日経ったらリセットされたりするのかな?2日目も魔物を倒すためにフラフラ移動してたし」


 近いようで遠い。


 ローグは確かに強化するために魔物を倒していたが、彼の能力の本質はローグライクなのだ。


 やり直す度に違った強さを発揮する。


 塔で死に、能力をリセットさえ出来れば、無限の可能性に満ちているのである。


「ま、私達が考えても無駄さ........それよりも、あの移動方法オモロイな」

「それな」


 こうして、ローグの授業参観は続くのであった。




 後書き。

 ローグ君、壁に背中を当てながら移動する様子を見られている模様。

 皆んな「面白い方法だなー」とは思いつつも、理にはかなっているので納得はしている。

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異世界ローグ〜異世界転移したらローグライクができるらしいので、上振れ理論値を出して気持ちよくなりたい〜 杯 雪乃 @sakazukiyukino

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