04_フェイスマッサージしてもらう

「フェイスマッサージするので、椅子を倒しまーす」


 カチッという小さなスイッチ音が鳴ったあと、静かな駆動音でゆっくりと椅子が背後に倒れていく。


 キュキュッポン:瓶の蓋を開ける音


「天然成分のフェイスマッサージオイルを塗りますね。えっとですね、これは何かというと、天然由来の成分を使ったフェイス用のマッサージオイルです」


「気持ち良すぎると思うんで、寝ちゃっていいですよー。では、マッサージ開始します。思う存分、リラックスしてくださいねー」


 ピトピト、ペタペタ、もちゃあっ……:顔にオイルを塗られる音


 俺がビクビクと身じろぎすると、ワラビーはお姉さんぶった口調で諭してくる。

「だーめ。くすぐったくても我慢してください。オイルは指先で顔全体に広げて馴染ませていくのが大事なんですから」


 そうは言っても、知り合いの女子から顔をペタペタ触られるのは緊張するし、そのせいで過剰にくすぐったさを感じてしまう。


 ピトピト、ペタペタ、もちゃあっ……:顔にオイルを塗られる音


「お肌、もっちもちになりますからねー。頬を左右から、円を描くように、もっちもち、ぐーるぐる」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:頬をマッサージされる音


「笑わないでくださいよ。リズムが重要なんですよ。もっちもち、ぐーるぐる。ほーら。先輩の頬が、私の両手に包まれて、もっちもちされて、とろけてきちゃいましたよ。もっちもち、ぐーるぐる」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:頬をマッサージされる音


「ふふふっ。せーんぱい。想像以上に気持ち良くて、驚いているでしょー」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:頬をマッサージされる音


「……先輩、知ってます?」


 ……?


「女の人がフェイスマッサージをするときの力って……。自分の胸を揉むときと同じ強さなんですよ……」


 えっ?!


「冗談ですよ。次は口角まわりを、もっちゃもちゃしますね。もっちもち、ぷるるーん」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:口の周りをマッサージされる音


「……あ。でも、いま先輩をマッサージをしている指は、いつも私の体のあんなところや、こーんなところに触れているんですよ」


「先輩、顔真っ赤ですよ。照れちゃったのか、血行がよくなったのか、どっちかなー。あははっ。新陳代謝もあがって、お肌が若返りますからねー」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:口の周りをマッサージされる音


「では、次は鼻筋。シュッとしますよ。シュッと。しゅっしゅしゅー」


 しゅるしゅる……:鼻筋を指先でマッサージされる音


「額も大きな円の動きで、ぐーるぐる。ぐーるぐる」


 もちゃちゃあっ……:額をマッサージされる音


「目の周りは、やさしく、やーさしく……。くーるくる。くーるくる」


「気持ち良すぎて寝ちゃいました? やさしめで、繰り返しますね」


「頬を左右から、円を描くように、もっちもち、ぐーるぐる」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:頬をマッサージされる音


「ほっぺた、もっちもち、ぐーるぐる。もっちもち、ぐーるぐる」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:頬をマッサージされる音


「口角まわりを、もっちもち、ぷるるーん」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:口の周りをマッサージされる音


「お口の周り、ぷるぷる、ぷるるーん」


 もっちゃ、もちゃ、もちゃちゃあっ……:口の周りをマッサージされる音


「鼻筋しゅっしゅしゅー」


 しゅるしゅる……:鼻筋を指先でマッサージされる音


「額も大きな円の動きで、ぐーるぐる。ぐーるぐる」


 もちゃちゃあっ……:額をマッサージされる音


「目の周りは、やさしく、やーさしく……。くーるくる。くーるくる」


「寝ちゃいました……?」


 ……ん?

 想像以上に気持ち良くて、寝落ちしかけてるけど……。

 まだ、かろうじて……。


「返事がない。寝ているっぽい」


「寝てます?」


 びっくりしたあ。声が近すぎて、耳に息を吹きこまれたかと思った。


「本当に寝ているっぽい……」


「それじゃ……。誰も見てないし……」


 小声で何を言っているんだ?


 ちゅっ……:唇に何か柔らかい物が触れる音


 キスされた?!

 俺は慌てて目を開く。


 目に飛びこむのは、本日最高の笑顔。

「やーい。ひっかかった。キスされたと思いました? こうやって人差し指と中指を合わせて、唇に触れただけですよ。あははっ。やーい、先輩のエッチー」


 ぐ、ぐぬぬ……。まんまと一杯食わされたか。


「あ。起きないでください。ホットタオルで顔を蒸らすので」


 カタカタ:ワラビーが背後の棚に行き、棚の蓋を開けるような音。


「熱ッ……熱ッ……。あっ、あっ」


「では、顔にっ、温かいタオルを、熱ッ、掛けますね。熱かったら言ってくださいね」


 ま、待て!

 おい!


 もふっ:顔に熱いタオルをかけられる音。……熱い?


 ……あれ?


「驚きましたー? 本当に熱いのを顔にかけるわけないじゃないですかー。ちゃあんと、気持ち良くなる感じの暖かさに調整しますよ」


 くっ。またしてやられた!

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