美容師になった後輩ちゃんがカットしながらからかってくるけど、俺への好意がだだ漏れでは?【マッサージ・耳かき・咀嚼音】
うーぱー(ASMR台本作家)
01_後輩ちゃんの働く美容院にやってきた
カランカラン:出入り口ドアのベルが鳴る音
「本日は癒し美容院リラクゼーションガーデンへようこそ」
「わたくし、
一瞬、本当に俺の知っている後輩か分らなくなるくらい、丁寧な口調で店員に挨拶された。
かと思いきや、すぐに表情と口調は砕ける。
「えへへ。ありがとうございます。先輩は、私の初めての実験台……ではなくお客様ですから、丁寧にもてなま、もてあましますよ」
「初見さんは最初に問診票を書いていただくんですが、先輩のことは分っているんで割愛して、お席に案内しますねー。こちらです」
俺は小学校、中学校時代の後輩、早蕨洋子ことワラビーの誘導に従い、美容院の奥へ向かう。
清潔感ある制服を着ているからか、ワラビーが本物の美容師に見える……。
俺が素直にワラビーの制服姿を褒めると、彼女は唇をツンと膨らませた。
「もー。ワラビーって言わないでくださいよー。まあ、ワラビー可愛いからそれでもいいですけど……。あと、本物の美容師ですよ」
ワラビーは自分の髪の毛のサイドを指先で軽く持ち上げて、微笑む。
「でも、私のサイドから跳ねた髪って、ワラビーというよりダックスフントみたいで可愛くないですか? なでなでしたくなるような、子犬っぽショートヘアーです。どうです? なでなでしたいです?」
「またまた、遠慮しちゃってー。撫でたくなったら言ってくださいねー。わん! わんわん! ほら、可愛いでしょー。はい、そこに座ってください」
ゴソゴソ、ギシッ:俺が椅子に座る音
「えへへ。先輩も私とおそろで、子犬っぽにします?」
「もー。また、ワラビーって言うー」
美容院特有の爽やかな匂いが濃くなったと思ったのと同時に、吐息混じりの声が耳元に届く。
「先輩。ワラビーって呼ばれたら、私のアカウントが特定されちゃうかもしれないでしょ?」
体温すら感じられそうな距離に俺は驚く。
俺の反応が楽しかったらしく、ワラビーは顔を離すと、上機嫌そうにニンマリと微笑んだ。
「私、こう見えてもけっこうモテるんですからね? 私目当てでご来店するお客様だって多いし」
「ほら。クアッカワラビースマイル。にこっ。にこにこっ」
鏡の中でワラビーがニコニコ笑う。
クアッカワラビーって、世界で最も幸せそうに笑う動物だっけ。
「毎日のように、『連絡先教えてー』って言われてますよ。でも、お客様はもちろんプライベートの知り合いでも、男の人で私のアカウント知っているの、先輩くらいなんですからね?」
「だから、今日は早蕨さんか、洋子って呼んでくださいね」
そういうことなら「分ったよ。洋子」と俺は、名前で呼ぶことにした。
ワラビーはわざとらしく、仰け反る。
「うおっとお。からかってみたら、まさか洋子の方で呼ばれるとは、びっくり」
「ん~? なんで先輩が特別か~? 分らないんですか~? 洋子、泣いちゃいますよ?」
メソメソした演技があざといなあ――。
――かと思えば、すぐにからっとした笑顔になり、表情がコロコロ変わって面白い。
「小学校の頃、私がこのねっとり声で虐められたとき、先輩が庇ってくれたんですよ。メスガキが初恋するには十分すぎる理由ですよ~」
「え? 今? ふふっ……。ひ、み、つ……。ヒントはぁ……。SNSで、先輩とずっ……とつながり続けているってこと……」
うっ。ワラビーのくせに妙に色っぽい声を出すから、軽くドキッとしたじゃないか。
「進学とか就職とか色んな知り合いが疎遠になっていったけど、先輩との繋がりだけは、小まめに連絡して、ずっと維持しているんですよ」
「これだけ言ったら、鈍感な先輩でも少しくらい気づいてくれました?」
「ふふっ。まあ、安心してください。気心のおけない知り合いでも手抜きせずに、ちゃあんとお客様として丁寧にお仕事しますから。頭さっぱりして、癒やされていってくださいね」
「あははっ。別に緊張しなくてもいいですよ。そんなに堅苦しいお店じゃないですし。髪の毛を切ってマッサージして……って普通ですよ。お店だって入りやすかったでしょ?」
俺が軽口を言うと、ワラビーは拗ねたように頬を膨らませる。
「ひっどー。緊張しているのは、私が新人だから? 先輩、私の技量をあなどっているなぁ……」
ワラビーはふふんと、自信ありげに息を吐く。
「すぐに私の技量を思い知らせて、緊張なんてパー、からの、とろっとろにリラックスさせてあげますよ」
ワラビーはニヤニヤと微笑みながら、俺に頬が触れそうな程接近してくる。
「リラックスして、ぜーんぶ……。ワラビー洋子に任せてください」
うーん。調子が狂うな。制服マジックなのか、ワラビーがやけに可愛い。
ワラビーは俺のことを兄のように慕ってくれている。しかし、こうも近くで微笑まれると、俺に特別な感情を抱いているかもしれないって勘違いしちゃうだろ。
ワラビーは俺の後ろの方に行き、鏡に映らない位置で何かを始めた。
「アイスティーでいいですか?」
「あ。サービスで出るんですよ。先輩、コーヒーより紅茶ですよね?」
「……当然、知ってますよ。だって……いつも先輩のこと、視線で追ってましたから」
何か言ったようだが、よく聞こえなかった。
というか、俺、美容室なんて来ないから、飲み物を出されても飲むタイミングが分らないんだが。
「あー。けっこういますよ。飲むタイミングが分らないお客様。このあとご希望の髪型をヒアリングしたらシャンプーですから、喉が渇いているなら今飲んじゃってください。ウェルカムトゥードリンクです」
それなら遠慮なく。俺はアイスティーを飲む。砂糖やミルクは入っておらず、俺好みの味だ。
「今日はカットですよね? どんな感じにしますか?」
うーん。いつも床屋に行くと「いつものですか?」と聞かれて、なすがままにしているからなあ。自分に似合う髪型が分らない。だから……。
「お任せ?」
ワラビーは一瞬、きょとんとするが、すぐにグッと拳を握った。
「……分りました! 先輩をもーっと私好みにします!」
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