ぶらり東京ダンジョン紀行
雪野おもち
第1話 渋谷のダンジョン
「おいマジかよ......会社吹き飛んじゃったよ」
渋谷駅の地下5階にいたため、隕石の破片による被害は受けなかったが、SNSには地上の酷い有り様が次々と流れてくる。
辺りが騒然としている中、立花はホームに起きたある異変に気づく。
「何だあれ......?こんな所に階段なんてあったか?」
この階のホームには、線路を挟んだ所に何も無い空間が存在する。
本来は換気のために作られたスペースで、普通ならそこに階段があるはずがない。
しかし、そこにあったのは確かに階段だった。
それも石造りの、古城にあるような階段である。
Twitterに上げるために撮っとくか......そう思ってスマホを向けた瞬間、階段を駆け上がってくる1人の少女が見えた。
「うわっ!?何ここ!?」
少女は辺りをキョロキョロ見回しながら、何やら本をパラパラと
なんとなくヨーロッパっぽさを感じさせるワインレッドの服に、自身の背丈くらい大きな杖。
クオリティの高いコスプレだなぁと思いながらも、彼女があんな所から出てきたのは少し不可解だった。
声をかけるべきか、それとも目を逸らして関わらないようにするべきか......おそらくその場にいた多くの人がそう思っていただろう。
その時だった。
女性の叫び声に驚いて顔を上げると、少女の背後に、何やら巨大なクモのような生物がいた。
少女の倍近い大きさで、カチャカチャと音を立てながら階段を上っている。
その姿はまるで......モンスターだった。
「危ない!」
地上が崩壊して全部どうでもよくなってしまったのか、それとも単に自分が馬鹿だからなのか、俺には分からない。
ただ、身体が勝手に動いていた。
ホームドアを飛び越え、線路の上を走って向こう岸に渡る。
ざわめきが聞こえる。大勢の視線が集まるのを感じる。
だがそんな事を気にしている暇は無かった。
「早く逃げろ!よく分からないけど、とにかくどこか安全な場所に!」
俺はできるだけ大きな声で呼びかけたが、彼女は怖がる素振りも見せなかった。
それどころか巨大グモに杖を向け、倒そうとしている。
「おい、無茶だって!魔法使いじゃあるまいし!」
「その魔法使いが私です!そんなとこにいたら死にますよ!」
そう言うと彼女は杖を前にバッと突き出し、巨大グモに叩きつけた。
「爆散しろ......!ランバルディア!」
耳が痛くなるような爆発音、そして周囲に飛び散るクモの破片。
気づけば既に巨大グモは原型を留めておらず、焦げ臭い匂いがホームに充満していた。
「......え?ガチの魔法使い?てか本当に大丈夫なのこれ」
「ガチです。ちゃんと免許も持ってますし......まずい、どっかに落としたかも」
少女はあたふたしながら服の中や巾着袋の中を探していた。
しかし今はそれどころではない。
当然あんな爆発が起きたら辺りは騒然とする。
こんな状況も相まって、パニックは人から人へと伝染していった。
「もしかしてテロか!?冗談じゃない、逃げるぞ!」
「おい、押すなよ!誰か駅員呼んでくれ!」
上の階に逃げようとする人々でホームはもみくちゃになっていた。
何人か転んで起き上がれなくなっている人も見える。
「もはや地獄絵図だな......厄介なことに巻き込まれる前にどっか隠れとこうぜ。俺も写真撮られまくっちゃったし」
「分かりました。じゃあついてきてください」
彼女は杖についた砂埃を軽く手で払うと、早足で謎の階段の奥へと歩いていった。
仕方なくついて行くと、そこには洞窟のような空間が広がっていた。
眩く光る蓄光石が照明の代わりになっているため、それほど暗くはない。
壁の至る所にダイヤモンドが埋まっており、蓄光石の光を洞窟全体に反射させていた。
「ははっ、すげえなここ。本当に駅の中かよ」
あまりに美しい光景に思わず笑みが溢れた。
まだ自分が幼かった頃に、鍾乳洞に連れていってもらった思い出が蘇る。
俺が洞窟の景色に目を奪われているのを察してか、少女は足を止めて、こちらに向かって微笑んだ。
「ようこそ、ダンジョンへ。欲望渦巻く、地下の世界へ」
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