第6話 原宿ダンジョン②
「まあ、足が浸かるくらい浸水してるのは確かにやばいが......ドラゴンも倒されたらしいし、そこまで慌てる必要は無いんじゃないか?」
腰を上げ、びしょ濡れになった服とフィーナを交互に見る。
「いいや、これはダンジョンの存続に関わる大きな問題だよ」
フィーナは深刻な表情でそう言うと、ダンジョンの奥に横たわるドラゴンの遺骸を指差した。
折れた柱が突き刺さったその姿には、もはや竜としての威厳や神秘性などといったものは微塵も残っていない。
足元に流れてきた鱗は黒焦げになっていて、かつての輝きを完全に失っていた。
「理由は分からないけど、気温が急激に上がってる。このままだと......このダンジョンは崩壊する。あのドラゴンのようにね」
「崩壊、ねぇ......もし崩壊したらどうなるんだ?」
正直、ダンジョンなんて壊してしまった方が安全なんじゃないかと思いつつある。
何せこっちの世界には勇者も魔法使いもいない。モンスターのせいで明日国が滅んでもおかしくないのだから。
「地盤が沈んで街が1つ消える。ついでに私たちも死ぬ」
「めちゃくちゃヤバいじゃねえか!!え、死ぬの?こんな地下深くで?」
「そんな事言ったってしょうがないでしょ!このダンジョン、元々半分以上氷で覆われてたんだから!」
会話の最中にも、時折氷柱や雪崩が降ってくるのが見えた。
床も微妙に傾きはじめている。天井が崩れるのも時間の問題かもしれない。
「あら、まさかこんな所で知り合いに会うなんて。来てみるものね」
瓦礫の向こうから聞こえた声の正体は、背の高い金髪の女だった。
セットに時間が掛かりそうなハーフアップに、黒いドレスと鎧が一体化した派手な服。
そして何よりも、2mをゆうに超えるであろう、黄金の杖。
間違いない。彼女が原宿の魔法使いだ。
「イングリット......!一体どういうつもり?いつものアンタなら弱ってるドラゴンくらい、一発で倒せたはずなのに」
フィーナは足を滑らせながらも、イングリットと呼ぶ魔法使いの元へ向かっていった。
「そうね、これがただのドラゴン退治なら私もそうしたわ。でも今日は違う。だって......」
その時、頭上で大きな爆発が起きた。
脳が揺れるような轟音が鳴り響くと同時に、天井の破片が辺りに飛び散っていく。
「このダンジョンを破壊しに、って痛い!!ちょっと、貴女魔法使いでしょ!?どこの世界に腹パンしてくる魔法使いがいるのよ!!」
「これだからお嬢様は......ステゴロは喧嘩の基本だよ?」
すかさず2発目を喰らわせるフィーナ。
この不安定な地形でよくあんな鋭いストレートが打てるものである。
しかし今はそれどころではない。急いでここから脱出するルートを見つけなければ。
「そこまでにしてあげてください」
「なっ!?」
俺の後ろからやってきたその女は、リュックから一瞬でナイフを奪い取り、フィーナたちの元へと歩いていく。
完全に気配を消していたのか、それとも俺の注意力が極端に低いのか。
理由はともあれ、彼女がそこにいた事に全く気が付かなかった。
「フィーナさんと......もう1人は存じ上げませんが、とにかく今はここから出ましょう。
我々の事情についても、いろいろと説明しなくてはなりませんしね」
「エリー!遅かったじゃない!」
イングリットは子供のようにバタバタと手を振っていた。
心なしか顔色も良くなっているように見える。
「いやいや、待ってくれ。そもそもあんた達は何者なんだ?フィーナさんの知り合いか?」
エリーと呼ばれていた銀髪の女性——と言っても、小柄な体格も相まって子供にしか見えない。
とはいえこの中では彼女が1番大人びていた。
話しぶりからも気品が感じられる。
「ええ。ですがもっと適切な名があります」
エリーは軽く咳払いをして言った。
「我々はエーテル商会。財貨と自由を何より愛する者たち——とでも言っておきましょうか」
ぶらり東京ダンジョン紀行 おもち丸 @snowda1fuku
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