第2話 人生初のダンジョン探索

 少女に連れられダンジョンの中を歩いていると、比較的開けた場所に出た。

 上に続く階段はあったが、傾斜が急すぎて奥に何があるかはよく見えない。


 「この階層はモンスターも少ないですし、そんな警戒しなくても大丈夫ですよ。もし現れても私が倒しますし」


 「そりゃあ安心だけど......そもそもここは本当に東京の地下なのか?渋谷にこんな洞窟があるなんて話、聞いたこともない」


 「トーキョー......?ここはヴァルシア王国のマクベス領ですけど」

 彼女は怪訝そうな表情で答えた。


 「待ってくれ、あんた一体どこから来たんだ?」


 「それはこっちのセリフですよ!大体、そんな小さな鞄しか持たずにどうやってここまで来たんですか?上の階層にはもっと危険なモンスターだっていたのに」


 あまりに話が噛み合わないので、一旦お互いに自己紹介をすることになった。

 彼女が言うには、『細かい疑問から解決していくのが大事』らしい。


 「俺は立花。22歳で、仕事は......ついさっき無くなったが、本当はシステムエンジニアとして働く予定だった」


 「システムエンジニア?」


 「職人みたいなもん」


 「ああ、なるほど」


 彼女は少し首を傾げつつも納得したようで、これといった反論もなく自身の話に移った。


 「私はフィーナ。さっきも言ったとおり職業は魔法使い。よく子供と勘違いされるけど、これでも25歳だから。気を遣わなくていいよ」


 「へぇ、意外」


 自分の方が年上だと分かった瞬間タメ口に切り替えてきたのが少し気になったが、ひとまずそこはスルーしておいた。

 今はそれ以上に大事なことがある。


 「ところで......フィーナさん、このダンジョンからはいつ出るんだ?」


 「うーん、今回はもう帰還かな。立花がいた場所についてもいろいろ調べたいけど、その前に地上で薬とかを補充しなきゃならないし」

 

 彼女は背負っている大きなリュックを漁りながら話した。

 かなり使い古しているようで、服の端切れなどを縫い合わせて補強しているのが分かる。


 「俺も一緒に行ってもいいかな?どうせ駅に戻っても窮屈な避難生活を送るだけだ。だったらこの先に何があるのか、俺は見てみたい」


 「そうだね......うん、良いよ。その代わり私の荷物も運んでもらうけど」


 そう言うと彼女はリュックを地面に下ろし、軽くなったと言わんばかりに身体を震わせた。


 「OK、決まりだな......って重っ!?何入ってんのこれ!?」


 「実は私もよく分かってなくて......」


 「地上に出たらまず大掃除だな」


 そんなやりとりの後、俺たちはダンジョンから出るために上の階層へと進んだ。

 さっきまでいた階層とは比べ物にならないほど広大な空間が広がっていて、上を見上げると無数のコウモリが飛んでいるのが分かる。


 「あのコウモリもモンスターなのか?」


 「いや、あれは普通のコウモリだよ。毒持ってるから噛まれたら普通に死ぬけど」


 「なにそれ怖い」


 フィーナによると、この階層はやたら広いのでトロッコが通っているらしい。

 かつてドワーフの鉱山として栄えた名残りなのだと彼女は言うが、俺はそんな話よりも、SNSで広まったあるニュースに夢中になっていた。


 「おい、見てくれこのニュース!なんかとんでもない事になってるぞ!」

 

 そう言って俺はフィーナにスマホの動画を見せた。

 ここら辺はギリギリ電波が通っているようで、時間はかかるが一応情報は手に入る。


 「うわ、すごいねこの板。写真が動いてる」


 「違う違う、それはそうなんだけど俺が伝えたいのはこっち!ほら、これってフィーナさんが言ってるダンジョンなんじゃないの!?」


 動画に映っていたのは原宿の竹下通りだった。

 コンビニの床を壊すようにしてできた階段は古い教会のような空間に繋がっていて、撮影者がしばらく進んだところで突然動画は終了する。


 「嘘......どうしてこんな所に!?」


 フィーナは俺からスマホを奪い取ると、ループ再生されている動画に釘付けになっていた。


 「何かあったのか?」


 「この場所には一度行ったことがある。北部第8ダンジョン、通称“氷の教会”。

 ベテランの冒険者でも深層に行くことは困難とされている超危険なダンジョンだよ」


 「ヤバいじゃん!そんなダンジョンが街のど真ん中に現れたらどうなるんだよ」


 「その街は......3日もあれば消えて無くなるだろうね」


 正直、そんなダンジョンには行きたくないが、原宿には数少ない俺の友人がいる。

 そいつが無事か確かめるためにも、原宿に向かわなくてはならない。


 「......俺は原宿に行きます。俺の大事な友達を、助けに行かなくちゃならない」


 「待ちなよ、今危険って言ったでしょ」


 「でも!!」


 彼女は右手を勢いよく前に出すと、俺の口を抑えた。

 手のひんやりとした感触がダイレクトに伝わってくる。

 「だから私も行く。案内してくれる?立花くん」


 惚れたかもしれない。いくらなんでもイケメンすぎる。

 

 そうして俺たちは来た道を戻り、再び渋谷駅のホームへと歩き始めた。

 原宿で何が起こるのかなど、まだ知るよしもなく。

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