第37話 ベルンで買い喰い




 マチルダとベルティンの街を探索して、紋章が一族を示すモノと学んだ翌朝小等学校の玄関で、リーサお姉様と一緒になりました。


「エルちゃん。おはようですわ」

「リーサお姉様。おはよう」


ベルンに引っ越してからは、リーサお姉様とライナー兄様と別々の馬車で通学することが増えたので、学校で朝の挨拶が増えました。


「エルちゃん。昨日の放課後は、マチルダさまにベルティンの街を案内したのね?」

「ふふふ。リーサお姉様。街の案内と言うよりも、食べ歩きでしたわ。

今日は、ベルンの街を探索予定です。

リーサお姉様もご一緒にいかがですか?」

リーサお姉様は、顎に手を触れながらちょっと首を傾けました。

「あたしは放課後、お兄様と約束があるのですわ。

お兄様は剣術の鍛錬。あたしは魔導書で学んだことを確かめるため魔法の練習をするのですわ」

「街の外で練習ですか?」

「街の壁の外で練習しようと考えているわ」

「わたしが言うのも何ですが、街の外は魔物もいますし、人さらいなど悪い考えを持っている者もいるかも知れません」

わたしは、秘密のポケットから空飛ぶ魔導具を二つ取り出しました」


「え? これは…… 」


「空飛ぶ魔導具です。

お姉様も兄様も登録していますので、すぐに使えます。

いざと言うときの為に、この道具を使う練習をしてから鍛錬すると安心です」


「エルちゃん。ありがとう。

空飛ぶ魔導具を使いこなせるようになると、すぐに逃げられますわ」


「兄様とお姉様は、オッドリア伯爵のご子息、ご息女なのですから必ず護衛を連れて行ってくださいね」

「ふふふ。エルちゃんに言われたくないわ」


「「おほほほほ」」


リーサお姉様は、いつもメリアと二人だけで魔物狩りに行く、わたしとメリアに突っ込みを入れました。


「リーサ様 小さく 魔法 全力 駄目」

「ありがとうメリア。エルちゃんと違って、あたしは自重できるから大丈夫ですわ」

リーサお姉様の発言にわたしとリーサは顔を見合わせました。



――数時間後 ベルンの街中――


「エルーシア。 オークの串焼き美味しすぎなのだ。

他の領地では、塩味か塩胡椒味しかないけれど、ここの醤油ダレは最高なのだ!」


醤油ダレを口のまわりにべったりと付け、ものすごい勢いで食べ続ける美少女は、学校帰りにベルンの街で調査中のマチルダ。

そして、片手にハチミツジュースを持って話しを聞く、メリアとわたし。


 今日の放課後はベルンの街中で調査後、お屋敷の奧の火事現場へ行く予定です。

マチルダはオークの串焼き、クレープみたいに手で持って食べることの出来る甘味、ジュースなどを次々食べ続けています。

(本当に調査なのかしら? ただ買い食いしたいだけ?)

 そんな事を考えたときです。


「エルーシア、メリア。

ベルティンは、すがすがしい空気感だけれど、ベルンには空気が歪んでいるところがあるのだ。お屋敷の近くやエルーシアが良く行くところは大丈夫だけれど、街の外れやお屋敷の奧にある森林は、禍々しい気を感じるのだ」

マチルダは街の外れに鋭い視線を向け語り出した。

「あっちの方に嫌な気がたまっているのだ。

瘴気かも知れないのだ」

マチルダは、口のまわりにタレをつけたまま走り出しました。

「待ってマチルダ」

「なんなのだ?」


「せめて、口元のタレを落としてから移動しましょう。

折角の美少女が、汚れた顔だと、残念古竜と呼ばれるわよ」


「そ、それは、大変なのだ」

マチルダは口元拭き、綺麗にしてから再び走り出しました。


走ること数分。

マチルダが足を止めたのは、住宅街の一番外側にある集合住宅でした。

見た目は、出来たばかりなのでとても清潔で綺麗な建物ですが、何故が嫌な空気が漂っています。


「エルーシアさま。 た、助けてください」


「ス スザンヌ?」


集合住宅の玄関先でわたしに声をかけてきたのは、ベルンに引っ越してから小等学校に来なくなったスザンヌちゃんでした。

彼女は、ガリガリで顔が真っ青です。

これだけやせているなんて、きちんと食事をとっていないのでしょうか?

「とりあえず、これを食べるのだ」

マチルダは、手に持っていた、オークの串焼きと、甘味をスザンヌちゃんに渡しました。


スザンヌちゃんは、串焼きをじっと見ています。 ――が、

「お母さんとお父さんに渡しても良いかな?」


「「先ずは、スザンヌが食べなさい(のだ)」」

わたしは、いざという時(家から追い出された時)に食べようと思って貯めていた食事を秘密のポケットの中にあるか確認をしました。

「食べ物は他にもわたしが持っています。

お母さまとお父さまの分はありますから、安心して」

スザンヌは、コクコクと頷いています。

頷くのを確認したマチルダが、スザンヌの口に串焼き、おやつ、飲み物を強引に口に運んでいます。

ピッカー

スザンヌちゃんがピカーっと光りました。


「エルお嬢 駄目! 人前」

メリアは、スザンヌちゃんに治癒魔法と回復魔法つまり、聖属性魔法を使ったわたしに注意をしてきました。


「メリア。目立ちたくないわたしの為に、ありがとう。

でもスザンヌは一刻も争うとおもったのよ」


「エルお嬢。 感情的 駄目」


「わかったわ。メリア」

わたしはメリアに謝り、スザンヌちゃんに

「ご両親にも、お食事をしてもらいます。

家に案内してください。スザンヌ」


「でも…… 」


「どうしたのですか。 スザンヌ?」


「お母さんとお父さんが、エルーシア様、公爵家をよく思っていないのと、ヴァン神教の悪口を言うので…… 」


「スザンヌ 空より広い心 エルお嬢 大丈夫」

(スザンヌちゃん、大丈夫。エルーシア様の心は空より広いよ。

両親が、エルーシアお嬢様のアンチでも、ヴァン神教の信者でなくても大丈夫よ」


「エルーシアさま。メリア。ありがとう」

スザンヌちゃんの不安が消えたのでしょうか?

表情が明るくなりました。

「案内します。汚いお部屋ですが、お許しください」


スザンヌちゃんは、自身の住む、集合住宅に案内をはじめようと歩き始めました。



――――――――――――――――――――


明日より、約一週間お休みいたします。

次回の投稿までお待ちください。

作者


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聖女の紋章Ⅱ 『逆襲のエルーシア』 ~小等学校に通うことになったけれど、世界の理も学ぶことになっちゃった~ I。ランド @yacchi1024

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