葉月賞 惣山性癖賞
惣山性癖賞 選評
すういむ 押田桧凪さま
今回私が選んだのは、押田桧凪さまの「すういむ」です。
五歳の女の子「小春ちゃん」が生まれて初めてプールに行く、というお話。
私、まさに今、五歳児の母親をしておりまして、しかもこの夏に初めてプールに連れて行きまして……。ド直球に撃ち抜かれました。うちの息子は物怖じせずざっぷーんとプールに飛び込んだのですが、それはさておき。こんなにタイムリーな作品くることある⁉ と驚きましたね。こういった作品との出会いも自主企画の面白さです。
では、内容に移りましょう。
まず感嘆したのが、作中の「小春ちゃん」の言動が、まさにザ・五歳児だったことです。ごっこ遊びが凝ったものになり、お友達との関わりが複雑になり、異性を意識し始める。五歳とはそういう時期なのです。それがきちんと描写されている。子供と関わったことのある読者は、ごく自然に「小春ちゃん」の姿を思い浮かべることができるでしょう。子供を主軸に置いた作品で、この辺りのリアルさが欠けていると、どうも没頭できないのが面倒な大人というものです。それがすんなりクリアされている。フランクに言うと「五歳児の解像度が高い」ことが高評価をつけた理由の一つです。
そして「小春ちゃん」への語りかけ、という形式。手紙とは明記されていませんし読み取れませんが、書簡体形式に近いですね。「小春ちゃん」を平仮名で「きみ」と呼ぶのは、優しさと柔らかさがあってとても好感が持てました。「私」の喜びや驚きといった感情もストレートに読者に伝わりましたし、この親子を応援したい、という和やかな気持ちにさせられました。
一点だけ気になるのが、「私」が「ママ」であるということが、後半まで確定しないことです。五歳児の世話してるねんからママやろ、とは予想はできるものの、ハッキリしないことには読み進めにくい……というのはこれが葉月賞だからです。どんなギミックの作品がくるかわかりません。疑り深い私は「親族でも何でもない近所のお兄さんの可能性もある」と思ってしまいました。途中で「パパ」が出てきたことでパパは除外。ようやく「ママ」への呼びかけがあったのでここで一安心、といったところです。後半まで「ママ」であることを断定できない作りにしてあることが、果たして意図的なものかどうかは気になるところです。
ともあれ、この作品を一番に推したい! ということは変わりません。何度も何度も読み返しました。子供にも親にも必ず「初めて」がある。その瞬間を目にすることができた「私」の感動。そして「小春ちゃん」の成長。こんなにも温かくて幸せな気持ちにさせてくれる内容と筆致は、押田さんの才能だと思いますし、これからも作品を書き続けて頂けたら、と応援しております。
二丁目スナックさいかわ チーママ沙樹編 惣山沙樹 @saki-souyama
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