故人の遺したメッセージ

MALIA

 みなさん。

 本日は、わたしのお別れ会に参列いただき、ありがとうございます。

 といっても、このメッセージは生前に撮っておいたものですけどね。

 

 そうですね。

 余命宣告をうけて、VRで暮らすと決めてから5年間、わたしは“大地の民”――現タイトル“HEAVEN&EARTH”――を、ほとんどひとりで生きてきました。

 やっぱり、もうすぐ死ぬのは怖かったですから、“死”に慣れるためにファンタジー世界でモンスターと戦っていました。

 未練がのこるのも怖くて、野良の即席パーティを渡り歩いて、固定の知人を絶対に作らないようにしていました。

 そんなときでしたね。

 ゲームのクエストで、スパイみたいな感じでHARUTOハルトさんのパーティにまぜていただいたのは。

 わたしが事情を説明したとき、みなさん、あっさり元いた勢力をすてました。

 わたしと、仲間でいつづけてくれるために。

 うれしかったです。

 同時に、“この時”から逃げたらダメだと、気づいたんです。

 そして、みんなでラスボス、やっつけちゃいましたね。

 わたしたちの全財産が舞い散る中、KAIカイさんの黒歴史が炸裂したあの光景は、痛快でしたよね。

 あのときの6人だけの、一生ものの思い出です。

 RYOリョウさんは、スキルの代償で途中退場したからしかたがなかったのですが、一緒に見れたらなおよかったですね。

 でもきっと、口伝で余さず伝えられていますよね? INAイナさん。

 

 ひとつの世界ゲームに縛られるな。

 現実とゲームを混同するな。

 HARUTOハルトさんは、そうも言いました。

 そのときから、止まっていたわたしの時間が動いたのです。

 

 The Outer Godsでは、期せずして“あの超有名テーマパーク”にいけました。

 ゲームの性質上、ウォルト・ディズニーからHPラヴクラフトの作風へと塗り替えられていたことに目をつむれば、ぜんぜん遊べましたよね。

 わたくしごとですが、あこがれの人魚にもなれました。

 まぁ、正確にはディープワンですが。

 あと、なんといってもHARUTOハルトさんの作ったオチが最高でしたね。

 旧支配者とか外なる神をほぼ全部のせのB級クトゥルフ映画を超まじめにセッティングしたのは、らしいというか、さすがというか。

 

 わたし、それまでは巨大ロボットものとか門外漢でしたが、オルタナティブ・コンバットでまた新たな世界がひらけた心地でしたね!

 最近では人型高機動兵器もDIYする時代なんだなって、勉強になりました。

 いくらHARUTOハルトさんが一緒とはいっても、こんな未知の世界にいきなり飛び込んで大丈夫なのか、スタート時はひじょーーーに心配でしたが。

 頼もしい先輩がたに恵まれて、なんとかなったものです。

 この頃になると、HARUTOハルトさんのしでかす暴挙にも耐性がついて、わたしもムチャにつきあっている感覚がマヒしてきてましたね。

 運営AIが管理する勢力にたった三機で特攻とか、あるあるですよね。

 ロボットものらしくKANONカノンさんの名演説とか、YUKIユキさんの黒歴史機体がトレンドになっちゃって、人型機体が衰退しちゃったりとか、結構スケール大きい見所が満載でした。

 

 クレプスクルム・モナルカをはじめる前に、余命のことを伝えようかちょっと迷いましたが……いよいよ身体が弱ってごまかしも効かなくなってましたから、話しました。

 HARUTOハルトさんとKANONカノンさんが、わたしのためだけに、あの世界の“神”の座を獲りにいってくれて。

 みなさん、それぞれ自分を殺してまで助けてくれました。

 わたしは、本当にいい仲間をもちました。

 あのまま“大地の民”として余命を消費していたら、みなさんとは巡り会えなかった。

 ちなみに、クレプスクルム・モナルカの世界なんですが、わたしがクリアしてゲームマスターにしてもらった関係上、好きなようにいじくっていいと言われました。

 なので、あそこの運営AIに、クレプスクルム・モナルカの世界を平和で、思い切り休養できるようなのに魔改造しといてください、とお願いしてあります。

 みなさんなら、すでに情報を入れてるかもしれませんが、戦いに疲れたら、ぜひ使ってやってください。

 すごく、景色のきれいな世界なんですよ。

 あ、でも。

 MAOマオさんは、勉強や部活に影響出ない程度にするんですよ?

 ゲームは1日1時間……はきびしすぎますが、節度をもって!

 草葉の陰からしっかり見てますからね。

 きっと、最初にクレプスクルム・モナルカを、その運営AIを作った人は、とても、哀しいことを考えていたのでしょう。

 願わくば、わたしたちの残した“ログ”が、いつか初代“黄昏の君主”を解き放ってほしいとも思います。

 人は、信じてもいいんだって。

 

 わたしって、すごく幸せ者です。

 だって、少なくとも本来の4倍くらいの密度で生きられたんですから。

 こんなにお得な人生、そうはないですよ。

 

 さて。

 これで、本当にお別れです。

 HARUTOハルトさん、LUNAルナさん、KANONカノンさん、INAイナさん、

 GOUゴウさん、KAIカイさん、JUNジュンさん、MAOマオさん、YUKIユキさん、TERUテルさん、AOアオさん、JOUジョウさん。

 みんな、本当に、ありがとう。

 

 わたしは、幸せでした。

 

 またいつか、会いましょう。

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【※読む前に紹介文を熟読してください】ある女性のVR告別式 聖竜の介 @7ryu7

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