怪異に道理あり

本作は怪異事件を追いかけるシリーズの第一章。とすると、読者には一抹の不安もよぎります。

デウス・エクス・マキナとは、演出技法の一つである。古代ギリシアの演劇において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在(神)が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法を指した。
(Wikipedia 「デウス・エクス・マキナ」2024年9月16日 (月) 13:30版 より引用)

要は「怪異で何でも起こせるなら、事件のトリックも解決も一発じゃん?」という不安が。

ですが、ご心配なく。怪異を上手く使う作家は、物語における事実や登場人物の心情を折り込み筋を外しません。これなら、当然だ。そう納得する結末へと導きます。

道理。物理法則や社会科学により発見された社会現象というより、私たちが生きている現世を成り立たせている、あるべき筋。私たち人間は科学を発達させても世の道理からは逃れられません。そして怪異が世の一部であるなら、むしろ道理に沿っています。

そして、主人公である鏡堂達哉は、筋を通す人物です。その言動が作中世界に緊張感を持たせます。

文章表現は硬質でありますが平易。読者は難しい事件の背景を深く考えずとも追えます。読者は道を踏み外さず物語の結末まで案内されます。

少し怪しい世界に、です。

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