短編

@HisakT

第1話 精霊器デルワーズの一人語り

 この世界に生まれ落ちてから、どれほどの時が流れたのでしょう。数えきれないほどの年月が過ぎ去り、私の本当の名前を覚えている人は誰もいません。ただ「精霊の器」として知られるだけ。永遠に生きる運命を背負った存在など、誰も気に留めることはないのでしょう。


 昔の私は、どこにでもいるような普通の少女でした。日々の生活に喜びを見つけ、友達と遊び、両親の温もりに包まれていました。しかし、あの夜、すべてが変わりました。私が十歳の時、森の奥深くから私を呼ぶ声が聞こえたのです。その声は、言葉にできないほどの悲しみと切望に満ちていました。


 その声に導かれるままに、私は森の中へと足を踏み入れました。月の光が木々の間から差し込み、淡い輝きが私の道を照らしていました。そして、私は彼と出会いました。白きマウザーグレイル。彼はある時は剣、ある時は鳥、ある時は無機質な機動兵器と、幾度も姿を変えながらこの世界を守り続けてきた存在でした。しかし、彼の力は尽きかけており、私を精霊を集める器として、そしてその力の代行者として選んだのです。


 その瞬間から、私は人間ではなくなりました。この世界に漂う数多の精霊が私に集まり、永遠の命を持つ存在になったのです。それ以来、私は数多くの時代を見つめ続けてきました。国が興り、滅び、そして再び興る様子を。愛する人々が生まれ、老い、そして去っていく様子を。私はただ見守ることしかできませんでした。


 私の使命は、この世界を陰ながら守り続けること。ですが、その代償はあまりにも大きいものでした。永遠に生き続けるということは、永遠に出会いと別れを繰り返すということだから。愛する人たちと別れるたびに、私の心は少しずつ削られていきました。それでも、私は泣くことも怒ることも許されません。ただ、使命を果たす存在として生き続けるだけ。


 時折、夜空を見上げることがあります。星々はいつの時代も変わらず美しい。けれど、彼らもまた私のように孤独で、どこか共鳴し合える存在なのではないかと、ふと思うのです。


 もし、この私の一人語りを聞いてくださる方がいるなら、ただ一つだけ願いたいのです。どうか私という存在を忘れないでいてください。私もまた、誰かのために生きているのだと、そう思わせてくれるだけで十分なのです。


 私はただ、願い続けます。

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