能登の今

 8月11日。墓参りのため実家に帰省することにした。能越道は比較的早く開通したので、それほど違和感はない。ただ、氷見から七尾にかけても比較的被害の大きかった地域であり、ところどころ道路の補修痕などがあったし、なんなら地面が波打って段差になっているところもあった。

 七尾市内はそれほど違和感はない……と思っていたが、買い物に入ったドラッグストアでは床が波打ったようになっており、天井や床には応急処置したままのベニヤ板が貼り付けられていた。床のタイルもひび割れがあり、駐車場と建物の境界部分はおそらく液状化の影響と見られる亀裂が入っていた。

 専門家ではないが、見た感じで本格的に補習をしようとするならば一度更地にしての立て直しになるのではないかと言ったところだ。水道にもまだダメージがあるのか、トイレは封鎖されていた。

 そのまま七尾市内からのと里山海道に入る。つい先日の7月半ばに全線が開通したと聞いていた。この道路自体は何度となく走った道であり、見慣れた景色であったはずだが、ところどころで震災の爪痕が色濃く残っていた。

 まっすぐ走っていたはずの道が急カーブを描き、本来進むことができていた道のあったところにはぽっかりと穴が開いている。山の尾根を盛り土で繋ぐ工事をしているところも多く、ぽっかりと山肌が崩れているところも見えた。

 目の前を走っていた車が居なくなったかのように見えるような急な坂もあり、まるで初めて走る道を行くかのようで、非常に神経を削られた。

 隣に座っている妻が息をのむ。ちらりと助手席側を見れば、ガードレールが本来地面に打ち込まれている部分を残して宙を繋ぐ。元の地面は大きく崩落し、ぽっかりと口を開けている。

 正月のニュースで見た道路が板チョコのように割れて重なり合う光景がそのまま残っている場所もあり、大きく崩落した穴の中におそらく地震の際にはまり込んだ車が遺されていた。


 この状況だけを見れば復興なんて進んでいない。元通りの綺麗な道路じゃないじゃないかという人もいる事だろう。

 しかし、もともと山と海の隙間に無理やり割り込んで人が住んでいるような場所が能登半島である。半島という地形上、大きな道路が寸断されればその先端に当たる奥能登は陸の孤島となる。自身の初動で救援が遅れたと言われている由縁もそこに在るのだ。

 とにもかくにも主要な道路である里山海道を通れるように復旧させたことが大きい。それこそ支援物資の輸送に多大なコストを払っていたことを考えれば復興に向かった大きな一歩であると思う。

 そして、先述した通りであるが、この道路が開通しないと奥能登の人々の生活を支えるあらゆる物資の供給が滞る。それこそ食料や飲料水、復旧に必要な建材、逆に震災で出た膨大な廃棄物の処理で運び出すことも容易になる。

 開通にこぎつけたのは7月半ばであるからわずか半年で奥能登につながる最も重要なインフラを回復させたということで、能登への支援は忘れられていると声高に喧伝する人々に対しての反論としてこれ以上の者はないのではないか。


 穴水にたどり着くと、インターを降りた先のコンビニは休業していた。道をまっすぐ行けば輪島へとたどり着く中継地点で、こう言っては不謹慎だが稼ぎ時ともいえる。営業を再開できないのはもしや経営している方に何かあったのだろうかとも考えてしまう。

 

 道路はところどころひび割れ、真新しいアスファルトで補修されていた。途中道の駅に入ると、県外のナンバーが目に付く。ここまで道路が復旧していることからも観光客の来訪は現地の人たちの生活を支える意味でも歓迎したいところではないかと思う。


 生まれ故郷の街に入ると、大きな爪痕は見えないように思えた。街並みは大きく変わっていないように見えた。それでも古い建物で大きく壁が崩落していたり、友人の実家も大きく傾き、立ち入り危険の赤い張り紙がされていた。

 筆者の実家は崩壊した隣の家に巻き込まれる形で大きく傾き、先日公費解体の作業が完了した。ちなみに、崩壊した隣の家はいまだにがれきが放置されている。


 あちこちに残る震災の大きな被害はあったが、それでもこの地に住む人々は前を向いている。お盆休みの期間ということもあって、県外から帰省していると思われる車も多く見かけた。

 能登は政府に見捨てられている。ということであれば少なくとも主要道路の復旧をあれほどの強行軍で進める意味が分からない。少なくとも前向きに生きている人がいると言うだけでも救いはその先にあるのではないかと思うのだ。

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