現状と今後
災害対応の初期対応といえる部分はほぼ終わりつつある。もちろん輪島や珠洲で水道が通っていないなど完全復旧には程遠いだろう。
ただ、何を以て完全な復旧と呼ぶのか。街並みがもとに戻ったとき? 避難所が全て片付けられて全ての人が日常に復帰したとき? 仮にそうだとすると、そこまでには東日本や熊本、なんなら阪神大震災の例を参照するまでもなく、年単位の時間がかかるだろう。
よくSNSでは地震から半年がたってそれでもまだ町並みはがれきだらけだ。行政は、市は、県は、国は何をしているのだと声高に主張する人がいる。
その人は現状をどの程度把握しているのだろう? はっきりと言えば閲覧数を稼いで自分のためにしたいのではないか? 被災者のために声を上げると言えば聞こえは良いが、それならば尚更、現状をしっかりと伝えるべきだ。
仮設住宅の建設が遅れていることを全て行政の怠慢や無能のせいだと言いたそうであるが、そもそも物理的に不可能であるということに目を向けているのか。
無論、私の言い分も客観的な根拠はない。自身の知る現地の人たちの、友人や知人からの伝聞がほとんどだ。
今どういう状況だ。どこそこはこうなっている。そういう話は折に触れ耳に入る。それは、道路が開通した。水道が出た。電気が通ったというような話で、意地汚い不平は不満ではなかった。
なんならそういうセンセーショナルな見出しで閲覧数を稼ぐ人たちは、現地の被災者を乞食か何かだと言いたいのだろうか? 少なくとも消費期限が差し迫っているような食品であっても、傷んでいなければそれでいい。逆にそういうところに目が行くのであるなら、それは相応の余裕が生まれている証左ではないか。
災害支援の撤退時期は、人々に不平不満が現れ始めたころだという。被災して、大きな被害に遭った状態であるならば、日々時々を生き抜くのに必死で、細かい不平不満などを感じる余裕すらないのが実情だからだ。
もちろん、雑魚寝の避難所などのプライバシーの無い環境は今後改善されるべきだろう。非常時の精神状態による治安の悪化もあるだろう。
ただ、うちの母から聞こえてきた不平の類は、どこそこの誰かさんは一人1回の列にこっそり2回目並んでた、位の話だった。私の実家も、地震の被害を受け全損の認定を受け先日公費解体された。被害が軽かったとは思わない。終の棲家を失った母の心労は推して知られるところである。
若干話がそれたが、仮にがれきであっても個人の所有物であるからには、法律に定めるところで持ち主の確認が取れなければ撤去も勝手にできない。公費解体はすべからく持ち主からの「申請」によって行われている。
いまだに街の中は倒壊した家屋であふれているという。であるならば極論であるが、国が強権を振るって、一律で全ての倒壊家屋を解体し、撤去するということでもしなければらちが明かないのかもしれない。
逆に言えば国がそれを行わず、法に則って対応しているから、いまだにがれきは撤去されていないのである。
そも物理的には業者の手が足りていない。作業を行う人間の絶対数、そもそも工事を請け負える業者が少ない。
外部から呼び寄せようにも宿泊できる場所がない。何なら仮設住宅を設置する作業者が路上で寝ているくらいだと聞く。
そのような劣悪な環境下で働く皆様に敬意を払うべきだと思う。
今後について、まるっきり元通りとはいかないだろう。かといってやみくもに手を出すこともできない。ある程度の青写真が無ければ限られたリソースが空転することにしかならない。そして、リソースを投入するということはリターンが無ければならない。
慎重な現地調査と、現状確認はどうしても時間がかかる。さらには先述した工事業者の人手不足もある。どうしても時間がかかるのだ。
少なくとも、最も焦れているのは現地の人間で間違いはなく、野次馬の類ではない。そして、そこで騒ごうが喚こうが状況は好転しない。そこを理解したうえでじっと耐えているのだ。
人も多く亡くなり、現地での生活基盤が崩壊して親類の所に身を寄せる人も多い。奥能登は高齢化が特に進んでいる地域でもあるので、これから再び能登で生活基盤を立て直せる人は少数派であろう。
要するに投下したリソースに対するリターンが全く見込めない状況だと言える。ということであれば、復興に行政が二の足を踏むのも理屈としては理解できる。できてしまう。
感情だけでものを言っても何も始まらないと言ってしまうとドライに過ぎるが、現実はいつだって非常なものだ。集落を放棄して、ある程度の集住をさせるなどの案も出ているが、無尽にリソースを投入できない以上、そういった手立ては否定されるものではないと思う。
なんにせよ、もっとも恐れるべきは耳目が完全に現地から離れることではある。そのための発信の一つとして微力ながら筆を執った次第であるというのはいささか自意識過剰であろうか。
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