陰陽師 安倍良晴 後編
ゴウッ!という音と共に僕の中へと吸い込まれていく式神達。
『な、なんだ、この力は⁉』
あまりに強大な力の波動を前に土蜘蛛が狼狽の声を上げる。
「この力は陰陽師の秘儀の一つ『式神喰らい』という技でな、簡単に言うと喰った式神の力を自在に操ることが出来るんだ」
そう言いながら、僕は全身から溢れ出る式神の力を形にしていく。
「けど、式神を喰らうって言うのはかなり難しい技でな。歴史上でも限られた者にしか使うことが出来なかったんだ」
『……だが、お前は使えているだろうが!』
「そうだな。お前を殺せる技を、俺は使える」
『チッ! 子蜘蛛よ、奴の息の根を止めろ!』
無理だと分かっていながら、土蜘蛛は眷属へ命令を出す。
僕は迫りくる子蜘蛛に対し、喰らったことで手にした力を解き放つ。
「複合呪装―――『
高らかな宣誓を告げた次の瞬間、両手に白炎を放つ巨大なガントレットが現れ、僕はそれを子蜘蛛に目掛けて思いっきり振りぬく。
「フンッ!」
『キィエエエエエエエエ!!!!!!!!』
『な、一撃だと⁉』
塵も残さず消し飛ばした僕は驚愕で硬直する土蜘蛛の懐に潜り込む。
「驚く暇、あるの?」
『チィ!!!!!!!!』
振りぬかれた拳を紙一重で躱した土蜘蛛。
しかし、僕はすかさず新たな呪装を解き放つ。
「複合呪装―――『
僕と土蜘蛛の間に生まれた巨大な盾。黒く、光を一切通さない巨大な盾の取っ手を掴み、全体重を乗せる。
「吹き飛べ!」
『グッ、ハッ……⁉』
所謂、シールドバッシュと呼ばれる技で吹き飛ばされた土蜘蛛が口から紫色の血が飛び散る。
『く、そがぁああああ!!!!!!!!』
「一方的にやられる屈辱は分かるが、そんな直線的な攻撃、簡単に対処できるぞ?」
『グハッ⁉』
僕の拳が土蜘蛛の身体を完璧に捉え、骨の折れる音と共に再び吹き飛ばす。
『ァ、ッ———』
「流石、伝説の妖。ギリギリだけど、まだ生きてるみたいだな」
『くそっ、くそっ……くそくそくそがぁああああああああ!!!!!!!!』
伝説の妖という
「さてさて、伝説の妖、土蜘蛛さん。貴方に一つ、問題を出します」
『なんの、つもりだ……?』
「いえいえ、ただの興味で聞きたいだけです」
そう言いながら、僕は呪装を掲げる。
「貴方は昨日、私の師匠である安倍三月を殺したと言っていましたね?」
『あぁ……? 言ったも何も、お前の目の前で殺しただろうが』
「えぇ、そうですね。では、お聞きしますが———私が先ほど難しい技と称した『式神喰らい』を私の師である安倍三月が使えないと思いますか?」
『……何が言いたい?』
質問の意味が分からない、と怪訝な顔をする土蜘蛛。
それに対し、無言の笑みを浮かべながらスマホを取り出す。先ほどから細かく振動し、着信を知らせてくるスマホの画面を僕は押す。
そして、スピーカーにした次の瞬間、スマホを通して華厳の焦燥を孕んだ声が夜の街に響き渡る。
『すみません、良晴様! 先ほど、三月様のご遺体が突然、消えまして……!』
「監視はしていたんだろ?」
『勿論です! 妖に狙われてもすぐに対処できるよう十数人で監視していましたが……』
「突然、お前達の前で消えた、と」
『は、はい……』
スマホの向こうで肩を落とす華厳が想像でき、僕は思わず苦笑いを浮かべる。
「安心しろ、師匠の身体が消えたのには心当たりがある。ただ、悪いな、こっちも土蜘蛛とやり合ってる最中なんだ。説明は後でする」
『わ、分かりました! ご武運を!』
慌てた様子で一言送ると通話の終わる音が響き渡る。
「今のを聞いて、何か気づけたかい?」
『……』
「まぁ、気づけないよね。普通に考えたら、あり得ないことだからね~」
『……もういい。お前が何を言いたいかは知らん。今、ここで殺してやる』
「そうカリカリしないでおくれ。それに―――」
我慢の限界を迎えたのか、攻撃の構えを取る土蜘蛛を制し、視線を後方へと移す。
「―――僕の言いたいことは、代わりに言ってくれる人がいるんでね」
『どういう、って……馬鹿な⁉ なぜ、お前がここにいる―――』
突然、現れた人物を目にした瞬間、土蜘蛛は信じられないと目を見開きながら、その者の名を口にする。
『―――安倍三月!』
「よっ、土蜘蛛。昨日ぶりだな」
豪快な笑みを浮かべながら、『最強』はその場に現れた。
―――――――――
『なぜだ⁉ お前は死んだはずだろう⁉』
元の姿に戻り、困惑の声を上げる土蜘蛛に三月は軽い口調で答える。
「あ~あれ、俺の分身だから。血やら感触やら、全部を綺麗に再現しているから気づけなかったんだろうな~」
『なっ⁉』
その言葉に驚く土蜘蛛を無視して、三月は僕へ話しかける。
「ったく、お前も少しは騙されればいいものを……」
「いや、数分は騙されましたよ。『し、師匠―――ッ⁉』って叫びましたし」
「数分しか騙されていないから腹が立つんだよ」
「理不尽」
互いに軽口を叩いていると、不快な鳴き声と共に数千の子蜘蛛が襲いかかってきた。
『くそっ、だったら、今度こそ殺してやるっ!』
「ははっ、無理無理~」
『あぁ⁉』
土蜘蛛の発言に僕は思わず失笑を零す。
「だって―――僕に圧倒されるような
そう口にした次の瞬間―――
「【失せろ】」
『き、キェェェェェエエエエエ!!??』
―――全ての子蜘蛛が、消滅した。
『……は?』
「分かっただろ、土蜘蛛。これが『最強』と言われる陰陽師の力だ。お前程度の妖が勝てる存在じゃないんだよ」
『……そっ』
「?」
『くそくそくそくそっ!!!!!!!!』
響き渡る土蜘蛛の怒声。しかし、僕はそんなものに欠片も興味がないので気にせず話を続ける。
「最初から師匠は幻惑にかかっていないし、分身を使って殺されたフリをしたのにも理由があるんだよ」
『幻惑にかかっていなかった……? 殺されたフリをする理由、だと……?』
困惑の表情を浮かべる土蜘蛛に僕はその理由を教える。
「それはな―――僕の目的を叶えるためだ」
『お前の、目的だと……?』
「あぁ。一つは僕が陰陽師として強くなること。自慢じゃないが、そんじょそこらの妖では相手にならなくてな。お前ぐらいの相手が丁度良かったんだ」
「そうそう~だから、俺は一芝居打って良晴の鍛錬する機会を用意したってわけだ」
『この俺様を、鍛錬の機会だと……っ!』
「まぁ、そう怒るなって。で、もう一つの目的だが———」
僕は一枚の何も書かれていない霊符を取り出しながら、笑みを浮かべ、
「―――土蜘蛛、僕の式神になるつもりはないかい?」
屈託のない笑みで、そう口にするのだった。
―――――――――
『……は?』
流石の土蜘蛛も理解できなかったのか、唖然とした顔で僕を見てくる。
『俺様を、式神だと? 一体、なんのつもりだ……?』
「別に何か考えがあるわけじゃないぞ? ただ、僕の本当の目的のために
『……頭、おかしいんじゃないか?』
絞り出すように吐かれた言葉に僕の隣に立っていた三月が大笑いする。
「ぶはははっ! そうだよな! 厄災にも等しい伝説の妖を式神にしようなんて、馬鹿げているとしかいいようがないもんな!」
「……師匠?」
「事実だろ?」
「はぁ……まぁ、見方によってはそうかもしれませんけど……」
ボソボソと文句を言う僕を無視して、三月は土蜘蛛へ話しかける。
「なぁ、土蜘蛛。信じられるか? この馬鹿はお前みたいな妖と―――
『……はっ、それは笑えない冗談だな』
「もちろん、ただの妖じゃなくてある程度の知能を有した存在って言う条件はついているが、それを加味しても
『人間相手に同意するのは癪だが、間違いないな』
「言いすぎだろ!」
一人と一匹の笑い声が響き渡り、僕は思わずツッコミを入れる。
「なんだよ、事実だろ?」
『っていうか、どんな思考回路をしていたらそんな考えになるんだよ?』
「お前ら、揃いも揃って酷いな! 別に仲良くなりたいって思うこと自体は自由だろ? だから、やろうと思ったんだよ」
『……ぷっ、あははははははっ! おいおい、なんだよその理由! 子供かよ!』
僕の理由を聞いた土蜘蛛はさらに笑い声をあげ、耐えきれなくなったのかその場で転げ回る。
「おい、そこまで笑うな! 恥ずかしくなってくるだろうが!」
『あー、笑った笑った。こんな風に心の底から笑ったのは久しぶりだぜ』
そう言いながら立ち上がると、真剣な顔で問いかけてくる土蜘蛛。
『で、お前は本気ってことでいいのか?』
「あぁ、僕は本気だよ」
『そうか―――分かったぜ。お前の式神になってやるよ』
「ありがとう、土蜘蛛」
了承した土蜘蛛に礼を言い、僕は霊符を用いた儀式を始める。
「我が求めに応じよ―――汝の名は?」
『―――土蜘蛛』
土蜘蛛がそう答えた瞬間、ゴウッ!と、辺りに巨大な暴風が吹き荒れた。
風が吹き止み、視界が確保できるようになった僕の前には新たな姿―――人型へと生まれ変わった土蜘蛛がその性格を表すかのように、獰猛な笑みを浮かべながら立っていた。
「これからよろしくな、土蜘蛛」
『精々、俺を飽きさせるなよ?』
「心配するな。嫌になるほど楽しませてやるよ」
そう言い、僕達は互いに手を握り合うのだった。
―――後の世。
―――数多の妖と共に『始まりの妖』と戦った陰陽師がいた。
多くの者、そして一匹の『妖』を救ったその者の名は―――
―――陰陽師 安倍良晴
~~~~~~~~~
全3話、読んでいただきありがとうございます!
(多分、かなりグダグダだった気がする……)
今後も様々な物語を書いていくので、応援よろしくお願いします!
面白いと感じたら、♡や☆もお願いします!
現代陰陽師の妖物語 苔虫 @kokemusi
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