詐欺師は…勇者の始まり



ある日の事。フカフカのベットで眠っていた筈なのに気がつけば、闘技場の中で鉄柱に鎖で体を縛られていた。


「な…なんじゃ、ここは……」


恐る恐る辺りを見渡すと、観客席には民衆が所狭しと座っていて…司会席には胡散臭い儀式用の服を着た見覚えのある人物が座っている。


(あれは…っ、まさか!!!)


「何をしておるか!彼奴は…詐欺師じゃぞ!!早く捕まえんかっ!!!!」


リワオ王国の王族に代々伝わる能力『真実の目』。それにより出会った瞬間、あの男が何者なのかは理解していた。


「気持ちは分かりますがお静かに願いますソク王。さあ会場の皆様!!!今回はなんと、特別ゲストの方が来ています…どうぞ!」


空が一瞬だけ真っ暗になり雷鳴が聞こえたかと思ったら、その人物は司会席に座る男の隣に現れて…言葉を失った。


「ここがリワオ王国か。中々に荘厳な雰囲気よな。」


「特別ゲストにして、見届け人の魔王バルガー様でーす!!!」


「…ぷぁ!?!??」


捕まえようとした兵士達も突然の事であたふたしたり腰を抜かしていた。それでも構わずに続ける。


「ちな、逃げようとしてもバルガー様の配下が外で待機してるので無駄だと言っておきます。死にたくなったら別に行っても構いませんが…」


「おい、早く始めろよー!!!」


「今から何するか教えてくれよな…万年賭博の敗北者!!」


「はいはい、分かりましたよ…そこのお前。後で覚えとけ……次こそは勝つからな。」


そんな野次が飛び交いながら、男は軽く咳き込んだ。


「皆様、入り口で渡しているパンフレットはお待ちですか?……では、これから…【ソク王どうするか裁判】をはっじめまーす!!!!会場の皆んなで仲良く決めましょうね♪」


(……我が国民が、そんな下劣な行為に賛同する訳が…)



『いええええええええええええい!!!!!!!!』



その期待を裏切るような闘技場を割らんとする大歓声が響き渡った。



……



「ソク王には大きく分けて3つの罪があります。」


「何を言うかと思えば…罪を犯した覚えなぞ、全くないぞ!!」


「では一つ目の罪…『私が賭博をしていた時に秘密裏に自分の部下を使ってイカサマをしてお金を巻き上げた罪』です。証人の方はこちらに来て下さい〜」


そう言うと、4人の人物が司会席にやって来た。


「まずは、あなた…お名前は?」


「ら…ラシーです。」


「はい、ラシーさん!あなたはピンキーゴーレムの生みの親と聞いていますが……その特徴について教えてくれませんか?」


「はい…ピンキーゴーレムは火力に極振りした結果、構造上かなり脆くて、大体の試合で負けてしまうんです…あの時の試合には僕のピンキーゴーレムは、培養槽の中にいて…じ、実は…王の側近から口止めをされていました。」


会場がざわめく。


「…そんな事はない筈だ。大体こちらにそんな不正をするメリットはあるのかね?」


「ちゃんとメリットはあるでしょう?…私の資金を取り上げるという…ここは確か国によって運営されていますから、軽く脅せば、コロっと渡すでしょ?皆様……勇気を出して言ってくれた研究者のラシーさんに盛大な拍手を!!」


盛大な拍手を送られて、ラシーは恥ずかしそうに俯いた。


「ゴーレムか…ラシーとやら。後でその研究について詳しく教えてもらおうか。そっちの分野は魔物や魔族とってまだまだ疎くてな。」


「えっと…魔物の骨格とか魔族の筋肉構造とかを教えてくれたらとか…お、烏滸がましいですよね。」


「よい。交渉成立だな。」


「え?…ええ!!……や、や、やったぁぁぁ!!!!」


影でそんな交渉が行われながら、話は続いていく。


「いつまで待たせるつもりかな?」


「あーし、足疲れたんですけど。」


「いいじゃないですか…今さえ我慢できれば…うふふ。」


「この3人が第二の証人…別の街で5戦連続で私にロイヤルストレートフラッシュを放ちやがった、イカサマ三兄弟でーす!」


「「兄弟じゃないし!!」」


「……やれやれ。」


「ではソク王に質問!!この人達に見覚えはあるかな?」


「あるわけないだろう!!!こんなチンピラの様な奴ら…王族の名が穢れるわい。」


「だそうです…3人はあの人知ってるかな??」


3人は顔を見合わせてから言った。


「知ってるわ。」


「知ってますね。」


「数年前、我らにあの男にイカサマを仕掛けろと依頼した御仁だ…その必死さは今でも印象に残っているよ。」


「…だそうですが…如何ですか??」


観客の視線が一挙に集まる。


「……。」


「ソク王…ってこんな人だったの?」


「もっと偉大な人だと思ってたのに…」


「おい何か言えよ!!!」


言え、言え、言え、言え……


司会席に座る男がマイク越しで手を叩いた。


「あー…皆様。ソク王は御老人です……忘れてしまったという事もあるでしょう…大丈夫です。まだなんと二つも罪状がありますから。きっとどちらかは覚えている事でしょう。」


マイクを置いて、何かを小声で話す。


「で、報酬については?」


「約束通り後で渡す…それでいいな?」


「いいわよ。」


「やったぁ。」


「僕は結構です…もう充分、報酬を頂きましたから。」


4人が司会席から去ったのを見てから、話を再開しようとするとバルガーが男に耳打ちした。


「ロキ…ソク王が万が一の為に用意していた何カ国かの混成軍が城壁に迫っているが……」


「時間食い過ぎたか…おほん。皆様、2つ目の罪…『私を魔道具で四六時中、ずっと動向を追っていた罪』につきましては、お手元のパンフレットに記載されている通りの内容ですので、申し訳ありませんが時間の都合上飛ばさせて頂きます。」


そう言うと司会席から立ち上がり、マイクと剣を持って闘技場のフィールドに飛び降り、こちらへゆっくりと歩いてくる。


「では皆様、これが最後の罪です。それは…『私を絶望に陥れようとするためだけに盗賊を雇い、無実な商人を3人殺傷した事です』」


「……ひ。」


鞘から抜かれた剣が首筋に当てられる。


「正直な話、私にとってさっきの二つはどうでもいい事…本題はこちらにあります。」


「な、何をしておるか…早く、この詐欺師を殺せ!!!」


周りにいる兵士は動こうとせず、ただ動向を見守っていた。


「はい。では大変お待たせいたしました。皆様…投票のお時間です。数々の罪状を目にしてソク王をどうすればいいのか。パンフレットに付属してある3色の布を使って皆様の意見を聞かせて下さい。」



「青色は無罪…文字通り現状維持です。黄色は有罪…リワオ王国の王を退いてもらいます。そして赤色は…死罪。司会や被害者兼処刑人の私がここで直接首をはねます。これは今後のリワオ王国の趨勢を決める事になりますので…皆様、慎重にお考え下さい。時間は…まあいりませんか…もう、決まり切ってる事ですから。」


男は首筋にあった剣を鞘に納めた。


(………み、緑色?)


闘技場の全面が緑色に染まっている。


「一応…兵士の皆様にも配布しましたが、壮観ですねぇ。」


男はわしにだけニヤリとした笑みを見せてから、会場全体に声高に言い放つ。


「…成程。二色を重ねましたか。ん〜間を取りまして…では『私がこの国の王になる』…で、よろしいですか?良ければ、拍手を!!!!」



パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ——————!!!!!!!!!!


割れんばかりの拍手の中、男はわしの被っていた王冠を奪い取り、頭に被った。


「では早速、私の権限でソク元王はこの国のお掃除大臣に任命します!!!毎日、日が暮れるまでゴミの清掃…頑張って下さいね☆」


「…っ、キエン リィムぅぅぅ!!!!!」


「…?誰だよ。」


ソク王の魂の叫びや男の呟きは拍手に打ち消されて虚しく消えていく。そうして、リワオ王国の王に詐欺師が襲名したのだった。


……




王となったあの詐欺師は様々な奇天烈な政策を打ち出し、最後は王国を民衆制の政治形態に切り替えて…一ヶ月後、王冠を残して玉座から忽然と姿を消した。


失踪する直前、闘技場にいて思いっきり負けていたとか他の街の外で姿を見たという情報があるが…どれも定かではない。


「まさか…わしが初代議長になるとはの。」


早朝から城や城下町を綺麗にして、民草の視点で語り合ったキツくも実のある日々を思い出しているとドアをノックする音が聞こえた。


「どうした?」


「……第一回目議会のお時間が迫っています。ソク王…いえ、ソク様。」


「今行く。少し待っとれ。老人はそんなに早くは動けんよ。」


(あれもこれも、結局は彼奴の筋書き通りになったか…それにしても別れすら言いに来んとは…忌々しいのう。)


心の中で悪態をつきながら、杖をついて椅子を立った。


……



魔王軍の下っ端の魔物からリワオ王国の貧民まで。この二つの陣営を同時並行で地道にプロパガンダや、相手が最も欲しいものを事前にリサーチしてからの交渉や当日の動き等々。あらゆる詐欺の知識をフル動員して何とか全員をこっち側に取り込んだ状態でやっと玉座から蹴落とせた。


こんなに頭を使い、3年も事前準備に費やしたのは新興宗教団体をぶっ潰した時以来かもしれない。


(…準備をしすぎて、緊張感も緊迫感もへったくれもなかった事だけは今後に生かすとしよう。)


両親同様、雑に木材を刺しただけの無骨なライの墓前にここまで片時も離さなかったナイフを刺した。


「生憎と、俺は戦うとかそんな野蛮行為は苦手でな…持っていてもどの道賭け事の担保として売り払いそうだから返すぜ。あばよ…」


墓標を背にして密かに持ってきたこの宝石達で何をしようかと悩んでいると、近くに馬車が通りかかった。


「…おい、そこのお前。見たところ商人か?」


「え、いえ…あっしはしがない建築家ですが…その服装、何なんですか?」


回収したバスローブを馬鹿にした幸が薄そうな若人に、俺は宝石がぎっしりと入った布袋を手渡した。


「依頼だ。ここに教会でも建ててやれ。」


「うぇえ!?…ここ、こんなに!?!?」


「それと、あそこに刺さってあるナイフは完成した教会にでも飾っておけ。少しは内装もマシになるだろう。」


「あの…外装もまだ出来てないのに、もう酷評ですか!?何なんですかあんたはぁ!!」


早々と立ち去ろうとする足を止めた。


「…お前がしがない建築家なら、俺はしがない詐欺師だ。依頼はしたからな…完成した頃にまた来る。」


そんな嘘をつきながら、また歩き出す。


「詐欺師…って。ち、ちょっと!?この宝石は…合法的に手に入れた奴なんですよね!!!ねえ!!!!」


若人の悲痛な叫びが聞こえた辺りで、俺の意識は溶けるように消えていった。


………


……



体をゆっくりと起こすと、体中が包帯でぐるぐる巻きになっていた。近くにいた看護師に事情を聞いた所…どうやら当時の俺は珍しく酒を大量に飲んで酔っ払い、ベランダから落下したそうだ。


(…夢だったのか。)


それにしてはよく出来た世界だったなと感慨に浸っていると、棚の上に置いてある旧式のスマホが震えた。動けない俺に代わり看護師が俺にスマホを取って手渡す。


「あーもしもし。クリステですが…お仕事の依頼でしょうか?申し訳ありませんが、今はハワイで社員旅行を満喫している最中でして…」


『ん?…ああ。今はクリステか…久しぶり。』


その声ですぐにでも電話を切りたいという衝動に駆られるが何とか堪える。


「チッ…何の用だ。『悟り探偵』」


『見舞いだよ。君、もう3年も眠ってたんだから…』


どこか喋りにくいなと思っていたが、そういう事だったか。


「見舞い?お前に1番似合わない言葉だ。そうやって人様につけ込んで、金をせびる癖はいい加減に直した方がいいぞ。」


『詐欺師に言われると説得力が違うな。それにこれは君が…へぇ。そっちでも面白い事になって…いたのかの方が正しいかな。』


「……用がないなら切るぞ。金に一切繋がらない会話ほど無駄な事はない…さらばだ。」


『…それは残念だ。折角いい話を持ってきたのに。』


電話を切ろうとする手が一瞬だけ止まる。


「…言ってみろ。」


『今、訳あって…古い洋館がある絶海の孤島に閉じ込められていてね…もし、助けて…くれるなら…そこにある…財宝を……』


あっち側の通信がブツリと途切れた。


古い洋館…財宝。場所も聞いてないというのに俺がどうやって財宝を手に入れるというのだろう。ベットから降りて、体の調子を確認する。


「く、クリステさん!?」


体は…鈍ってるな。三年寝ていたという話は嘘じゃない事は分かった。というか今の俺の資金では治療費すらも払えなさそうだが…逃走しようにも体力が…。


逃げるタイミングを見計らいながら、ピョンピョンと跳ねていると何かが床に落ちた。


「……!!」


顔には決して出さないが、僅かに驚きつつそれを拾い上げる。それは俺が宝物庫の中の宝石の中で1番気に入って懐に入れていた透明度が高いエメラルドだった。


俺はすぐにその場にいた看護師を「病院から出してくれたらこのエメラルドをくれてやる」と言って騙して、巻いてある包帯を外し、第一拠点から持って来てくれていたらしい暑苦しい神職の服を着て悠々と病院を出て、騙されたと気づき全力で追ってくる看護師から逃亡した。



……



久々に走った事や夏の暑さのせいで息を切らしひどく汗をかきながら、どうやってあの探偵を上手く騙して財宝を全て手中に収めようかとか

このエメラルドをどう有効活用しようかと考えを巡らせていると路地裏で誰かにぶつかった。


「おっと大丈夫か、お嬢ちゃん…」


「イタタ…ちゃんと前向いて歩いてよっ!!」


転んだ16歳くらいの少女に手を差し伸べ…


「お嬢ちゃん…仕事は?」


「わたしみたいなガキに仕事が出来る思ってるの?…売春するなら死んだ方がましよ。」


「ねーね!!お姉ちゃんこれ!!!さっき捨てられたばっかりのステーキ弁当が…どうしたの?」


「バカっ…早くわたしの後ろに隠れてて。」


「えっ、え?」


俺は今まで考えた事を全て放棄して、自然とエメラルドを困惑する14歳くらいの妹であろう少女に渡していた。


「…わぁ!!きれい……」


「ちょっと、これ何のつもり?」


「これで少しはマシな生活を送れるだろう…ついでだ…これもくれてやる。」


ポケットから旧式のスマホを取り出して、姉の方に渡した。


「いい加減に機種変更をしなくてはいけなくてな。どのような年齢層であれスマホを持っていた方がいい時代だ。俺にとっては邪魔な物だがお前にとっては今後生きる上で有益な存在となってくれるだろう。」


「ま…待ちなさいよ!!あんた本当に何の…」


「覚えておけお嬢ちゃん。妹を…家族を大切にしろ。そして…」



——俺みたいになるな。



容姿がライや俺の妹にそっくりな奴らと別れて第一拠点に戻った俺は、ソファーに服を脱ぎ捨てて、冷水のシャワーを浴びる。


さっきのエメラルドや旧式のスマホを軽率に渡してしまった事に若干の後悔が芽生えるが、それ以上に謎の達成感があった。


さて…これからどうするか。一万しかない現金でどうやって、悟り探偵がいる絶海の孤島の場所を割り出しかつ、船を手配するか……



『——ジョキッ。』



「……。」


シャワーを浴び終えた後。俺はバスローブに着替え、ちらりとデジタル時計を確認してから冷蔵庫の中にある既に消費期限が切れたオレンジジュースをコップにちびっと注いで飲む。


(飲めたものではないがビールじゃないな。だが3年経過しているのは…時計を見て改めて確信した。)


俺のような善良な詐欺師を狙い、病院を掌握し情報を偽装する事が出来そうな奴…候補が多すぎて絞れないか…ならば一度、第二拠点に向かうのが最善だ。


留守の間に誰かに盗聴器や監視カメラがつけられた可能性を考慮して自然体を装いながら、身支度を始める。


だが…敵は何故このような回りくどい真似をする。やろうと思えば意識のない俺を警官に突き出せさえすれば、既に戸籍を捨てている俺は確実にしょっぴかれて法の下、磔になって殺せたというのに。


……何か引っかかる。俺を利用したいのか或いは交渉の席に座らせたいのか…どちらにせよ、俺の独壇場な事には変わらないが。


(対話ができるならその話を承諾したふりしていい感じに騙し…有り金を全て搾り取って適当にトンズラするだけだ。)


今でこそ、人を騙す事に全く抵抗も躊躇もしないが昔は…


(…下らねえ。)


両親を拳銃で撃ち殺した時から、そう生きようと決めた事だ。確実に怒られるだろうが…どうせ俺は地獄行きだ。両親とは出会うかもしれないが、妹とは二度と会う事はないだろう。


——ピンポーン


「……!」


俺は机に放置されていた長年の相棒である古い拳銃を右手に持ち、警戒しながらゆっくりと玄関に向かいドアにそっと耳を当てて…ついさっきまでの行動の全てが無意味であると悟り、拳銃を懐にしまってから扉を開けた。


「……何しに来た。どうしてここが分かった?」


そこには、路地裏にいた少女達がいて…ライに似た姉が怒り顔で言った。


「すぐに尾行してきたからに決まってるじゃない。このスマホ…パスワードが掛かってて使えないの!!くれるなら解除してから渡しなさいよ!!!」


「それとね…宝石商のお兄さんが大人の代理人がいないと、これをお金に交換してくれないんだって。」


面倒だから奴隷商人にでも突き出そうかと考えたが、そのスマホを見て気が変わった。


「…っ、ちょっと!?」


「後で返す…お嬢ちゃん達。俺に協力しろ…そうすればこれから死ぬまで面倒を見てやる。」


「……え!!いいの?…やったねお姉ちゃん!!」


「バカっ…そんな都合がいい事なんてある訳ないじゃない!!!…何を企んでるの?」


「事実だ。俺は生まれてこの方、嘘と餅をついた事はない…信じろ。」


「もち…?はよく分からないけど、信じろだって。お姉ちゃんも信じようよ〜」


「わたしはイヤよ!こんな怪しいおじさん…何をされるか分かんないわよ!?」


「…う〜…大丈夫だと思うんだけどなぁ。」


2人が口論をしている中、俺はあまりのご都合主義の連続で必死に笑いを堪えていた。


このスマホさえあれば、転々と住処を移動する情報屋の場所を特定し悟り探偵がいる絶海の孤島の情報が手に入る。そしてこのエメラルドがあるなら、船を騙して入手する事は容易い。


——つまり、内心では諦めかけていた財宝に手が届く。その財産があれば2人を幸せにさせる事が…待て。それは適当に言った嘘の筈だ。島の位置と船さえ揃えば…こんなうるさい奴らとはおさらばするんじゃなかったか。


「……あぁ。そうか…分かった。」


「「……?」」


路地裏で出会った時。らしくもなく昔の俺達の境遇に似た2人に同情を覚えたのか。だから…


(は、はは…はははっ!!!)


面白い。何もかもが終わった犯罪者の俺にまだそんな感情が残っていた事がだ。記念に妹が好きだったショートケーキでも食べたい気分だが生憎と…俺は生クリームが苦手だ。


俺は感情のままに2人の頭を首がもげる勢いで思いっきりくしゃくしゃと撫で回した。


「…痛…っ、痛いわよ!!何…するのっ…手をどけて!!」


「ひゃわわ〜〜〜!!もっとやってやって♪」


数十分後。俺は手をどけた。髪がボサボサになった2人に背を向けてスマホの画面を開きながら歩き出す。


「時間が惜しい。まずは情報屋の元に行くぞ。それから船を手に入れる…何か飲み物や食べ物が欲しければ俺に言え。8000までなら出してやる。」


「時間を無駄に浪費させたのはおじさんじゃない…ま、待ちなさいよ!!」


「待ってよおじさん〜」


「———だ。」


俺はエレベーターの前で一度足を止めて、ここから少し離れた位置にいる2人へ振り返った。


「俺の名だ。お嬢ちゃん達…名は何と言う?」


「…わたしはトゥよ。この娘は…」


「ルーって言います!!よろしくね…えっと…」


「…フォールスだ。早くしろ…そろそろエレベーターが来るぞ。」


「え、あれ……?さっきと名前が…」


「お姉ちゃん行こうよ〜先行っちゃうよ?」


「はぁ!?置いてかないでよっ!!!」


そんな仲睦まじい姿を見た俺はふと思う。


この先ずっと俺と一緒にいれば、確実に危ない目に遭うだろう。確か『悟り探偵』… 暗萌有無あんも うむは未だに俺が騙して膨大な借金を抱えた孤児院を運営していると聞く。


ここは素直に認めよう。俺は2人が…トゥやルーが傷つき、飢え…絶望する姿を見たくない。絶対に口には出さないが。



『………勇者様。』

 


どこまで行っても俺は詐欺師で…悪だ。だが…もし、またなれるのなら…


(子供を騙すのは食事をするよりも容易い。幸い、俺の素性は知らないだろうからな。)


2人の前ではもう一度だけ…『勇者』になろう。学びは既に得ている。別れるその日まで、騙し通してみせよう。



(……。)



——今度は、今度こそは……間違えない。間違えさせない。



そうして詐欺師は2人の少女を連れて、壮大な船旅の果てに、絶海の孤島で『悟り探偵』と再会する事になるが、それはまた別のお話である。


                  了

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