【勇者=アルミー☆ホイルン♪♪春日ッ!!!】による『創世世界』死闘舞踏冒険譚
蠱毒 暦
嘘つきは詐欺師の始まり
ある話をしよう。資産を全て奪い、膨大な借金で両親やその娘を心中に追い込んだにも関わらず、生き残った娘を生かし、本来なら復讐するべき相手の筈なのに、最初の相棒になった…男の話を。
ん?……聞きたくない…か。その気持ちも含めて最初から分かっていた事だから何の感慨もないけど…一度会った事があるだけで嫌いすぎじゃないかな。圭のような一般人には刺激が強かったとはいえだ。
——まあ、どうせ島に閉じ込められて館の中には特に解決の糸口もないから、休憩ついでに勝手に語らせてもらうとしようか。暇つぶしに付き合ってくれ…圭。
………
……
…
「これで、娘は助かりますか?」
「ええ。明日には完治しているでしょう。では私はこれにて失礼します。」
「ありがとうごさいます…ありがとう、ごさいます…っ。」
涙を流して喜ぶ夫婦に一礼してから、現金が入ったキャリーケースを持って私はその家を後にした。
……
家に戻るとキャリーケースを適当な床に置き、すぐに暑苦しい神職の服をソファーに脱ぎ捨てて、冷たいシャワーを浴びる…そんな仕事終わりのルーティーンを自然とこなしながら思考を巡らせる。
つい先月、この国が『詐欺師粛清法』を成立させた所為でやりにくい事この上ない。本来なら後6件程向かう予定だったというのに。
他の同業者もすでに何人か捕まり、磔にされて殺されていると聞く。今までは運よく私…俺の事を言わなかっただけで、次は俺の番ではないか。
——そろそろ…潮時なのではないか?
タオルで体を拭き、バスローブに着替えた俺は冷蔵庫からキンキンに冷やしたビール。ではなく、オレンジジュースの瓶を取り出して、コップに注いでから、高価な机に置いた。
今日の稼ぎは1500万。だが帰りに意気揚々と行きつけの賭博場やカジノを回って学ばず大損して残り101万になり…そこから情報屋からの手数料を支払うと…
キャリーケースの中身を覗いて、一枚の紙幣を取り出してため息をついた。
「…1万か。」
これなら深夜のコンビニバイトをやった方が儲かるなと思っていると、唐突にドアベルが鳴った。
現在時刻は深夜の0時48分。こんな時間に配達を頼んだ覚えもない…
考えられる可能性は、四つ。
一つ、俺が詐欺師であると知った警官連中。
二つ、今日まで騙してきた奴ら。
三つ、同業者。
四つ、『零落園』の関係者。
こうして考えたが、2つ目だけはありえないと断言できる。何せ、仮に名刺に書かれた情報で居場所を特定された所でその情報…名前を含めて全て嘘で出来ているからだ。
去年、知ってる同業者全員を詐欺に引っ掛けて金を騙し取った時もだが、俺は常に偽名を使っている。同業者どもに金を大量に積まれて情報屋が俺の居場所を教えた可能性は…ないか。アレの主義に反する。
零落園…都合がいいから加入しただけで他の奴とは交流した事はないが、『悟り探偵』とはあっちで色々と悪い意味で世話になった記憶がある。俺に似て極度の拝金主義を掲げる奴なら…依頼されたらやりかねなくもないが、身体的に海外まで出張ってくるとは思えない。
なら、可能性が高いのは……残った一つ。
俺は考えながらドンドンと叩かれる扉の前にソファーを押して塞ぎ、ベランダから下を眺めて誰もいない事を確認して適当な場所にロープを縛ってから、下に落としたそれを伝って下へと降りる。
幸いな事に風は吹いていなかった。地上から680mにある第一拠点にいるとこういうデメリットもあるが、汗水垂らして働く奴らを見下せる愉悦感に浸れるので俺の中では、プラマイゼロだ。
…それにしても、訪問者の正体は一体何者だったのだろうか。後で第二拠点であの部屋に置いてある監視カメラの内容を見るとしよ…
————ジョキッ。
その音は、今後の事を思考する俺の耳を強く打った。
……
…
「…そうして今に至ります。」
「……ふ、ふむぅ?」
俺がここにやってきた顛末を荘厳な玉座に座る人物に聞かせ終えた。無論、詐欺師云々の部分は言ってないしその内容も着色、改変、捏造したものだが。
「…つまり、勇者であるそなたが何者かの罠にかかり、ここに来た…と?」
「はい。私がこの世界を救う勇者なのです。」
70代程の王は近くに待機していた部下と小声で何かを話してから俺を見据えた。
「………よかろう。何か欲しい物はあるか?」
「ある程度の資金さえ貰えれば後はこっちで何とかします。兵士や部下も不要です…私の足手まといになりかねませんので。」
周りの連中の視線を受け流していると王が手を叩いた。すると近くのイラついた兵士がジャリジャリと音を鳴らしながら大量の硬貨の入った布袋を持ってやってきた。
「…これでよいか?」
「ええ、充分ですとも。」
「勇者よ…そなたの名は?」
「…
「ジュンペイか。では魔王討伐に向かうがいい。」
「はい。必ずや魔王を討伐してみせます。」
布袋を受け取った俺は、突如やって来た王城から逃げるように硬貨を使って馬車に乗りその国を後にした。
……
『うおおおおお!!奇跡の大逆転っ!!!勝者、ピンキーゴーレムだぁ!!!!』
闘技者にいる民衆の歓声が上がる。
「しゃあ!!逆張りで賭けたら大勝利!!!…んん…おい兄ちゃん?その表情…負けたのか?」
……
「…っ、フルハウス。」
「ほいロイヤルストレートフラッシュ。」
「あーしもロイヤルストレートフラッシュね。」
「奇遇だねぇ。実は僕もさ。」
「五戦連続で…っ、これ…イカサマじゃないか。私を嵌めたな…早く金を返してくれ。」
「いやいや、気づかずに負け続けた君の方が悪いでしょ。」
「…何だと?」
「っ…お、乱闘する?しちゃう??」
「もうお金もなさそうだし、身ぐるみ全部剥がそうか。」
……
…
沢山あった筈のお金は気づけばあっという間に無くなり、バスローブからボロ布一枚に降格されて体中が酷く痛む中、俺は街中を歩く。
「なにあの人…」
「うわぁ…汚い……」
「貧民がなんでこんな街中に…」
「石でも投げましょうか?」
誰かが俺に石を当てた途端、それに乗じて他の人々も石や物を投げつけてくる。痛みはあるが、全く気にもならな、
——ごめんね…お兄ちゃん。
「……!!」
気づけば俺は、街から外へ逃げるように駆け出していた。
……
…
何も考えずに走っている内に夜になり、足の裏の痛みで蹲るように立ち止まり、激しく息を吐き出しながら倒れる。
食料や水を買う為の資金は既に無く、全てを奪われたこの状況。
「……詰みか。」
突然、異世界に飛ばされたのにも関わらずこの世界の常識や情報を知る事から目を背けて息をするように王を騙し、飛ばされた焦燥感のままに闘技場やギャンブルに溺れた時点で間違っていた。
「……?」
遠くから誰かが啜り泣く声が聞こえた俺は、ゆっくりと体をなんとか動かして、ふらつきながらその場所へ向かう。
「っ…お父さん……お母さん…っ、うっ…」
そこには暗くてよく見えないが、壊れた馬車っぽい何かが打ち捨ててあった。
「…どうした…何で泣いている?」
「……っ!!盗賊っ!」
馬車の中で蹲っていた少女が持っていたであろうナイフを俺に向かって振るって来た。
「…待て、私…俺は盗賊じゃな…」
「うわぁぁぁぁ!!!!!」
錯乱しているのか、何度も何度も俺の肌を浅く斬りつけてくる。
「……っ。離してっ!!!」
「もう大丈夫だ。大丈夫だから…」
俺に出来る事は、斬りつけられる痛みを口に出さずに抱きしめてあげる事だけだった。
……
…
俺と16歳くらいの少女は壊れた馬車の天井から星も月すらもひとつも見えない夜空を眺める。
何とか落ち着かせた少女曰く、故郷である田舎の村で育てた野菜を売るべく両親と共に町に向かう途中で、謎の盗賊集団に襲われたそうだ。
「……。」
両親は少女を荷台の底に隠し、最後まで盗賊に悟られないように…命尽きるまで守り通した。
「違うな。これはそんな美談じゃない…歴とした無駄死にだ。」
「……そうよね。わたしもそう思う。」
俺の独り言を返されて、わずかに俺は驚く。
「てっきり、怒ると思ったが…」
「怒ってる…けど、当事者の気持ちも理解せずに、勝手に誰かがそれを美談として語って周りから同情されるよりかはマシなだけよ。」
「同感だ。他者が俺を分かったように語る姿を見るのはいつだって反吐が出るからな。」
「それは拗らせてない?おじさん。一人きりで死ぬまで籠りっきりだったわたしのおじいちゃんみたい。」
「いい祖父を持ったな。いつかそれを理解出来る日が来る…お嬢ちゃん。とりあえず今は寝てるといい。俺が見ていてやる。」
「ぷっ…あははっ。おじさん、わたしより弱そうだから心配かも。」
俺は体を起こした。
「ならそのナイフを寄越せ。それがなければ俺は勝てる。これでも27歳だ。」
「いーやっ。これおじいちゃんの形見だから。そんな事でムキにならないでよおじさん。」
「……ぐ。」
「あ…わたしのおばあちゃんはね、とっても優しい人らしくて…でもわたしが産まれる前に、見知らぬ誰かを庇って魔物に殺されちゃったんだって。」
「…へぇ。」
「興味なさそうに言わないでよ。だからわたし、成人したら冒険者になって魔王を倒したいんだ。」
俺は思わず息を呑んだ。
「お嬢ちゃんが…?やめておけ。ああゆうのはカッコいい勇者様が勝手にやってくれるさ。」
「むう。そんな事言わないでよおじさん…」
そうして話しながら、夜を明かした。
……
早朝。青空の元、俺は馬車の外で手についた土を払っていると眠たそうな少女が俺の方にやって来た。
「…おはようおじさん。ここで何してるの?」
「俺は土いじりが趣味でな。土の感触を確かめていた…」
少女の目が見開いた。
「もしかして…埋葬してあげたの?」
「…ああ。善悪はどうあれ、死ねば皆平等に死体だからな。」
高級ベットじゃない硬い床の上だと全く寝付けずに、あまりに暇だった俺は、日が地面を照らし始めた頃に、辺りに散らばっていた木材をスコップ代わりにして、穴を掘って亡くなった奴らを埋葬していた。
「わたしの…お父さんとお母さんは?」
「恐らくあの穴の中だ……お前が埋めるか?」
少女は黙って頷くと木材を持って、その穴の方に行くのを確認して、俺はすぐに馬車の中に戻った。
……
「食え。」
「……ん。」
数分後。目を真っ赤に充血させて、両親の墓標の前でさっきまで泣き崩れていた少女に馬車の中にかろうじて残っていた小さいパンと飲み物を差し出した。
「さっきは…ありがとう。席を外してくれて。」
「何を言っているんだ?お嬢ちゃん。それにしても夜だったからこそよく分からなかったが、薄汚れているとはいえ、いい容姿をしてるじゃないか…そのミルクココアの様な茶色の長髪といい、特にエメラルドみたいな緑色の目がいいな。」
「途中はよく分からなかったけど…茶化されてる事くらいはわたしでも分かるわよ?」
「茶色だけにか?…とにかく食え。」
ジト目で見られながら、俺は先にパンを齧った。
「硬いが…食えるだけマシか。」
「商品に勝手に持ち出して勝手に文句つけないでよ……ねえ、オジさん。どうしてわたしと一緒にいてくれるの?」
そんな事を言うべきではないと分かっていたが俺は自然と口を滑らせていた。
「昔の俺の妹に…少し似ていたからだ。」
「……え?」
両親が悪い新興宗教に引っかかり、莫大な借金が生まれた当時。大学生だった俺と中学生の妹は家を出ざるを得なかった。
勿論、学校は中退。日雇いのバイトをしながら公園を転々としながら捨てられた弁当を食べる日々。それでも苦しくて死にたくならなかったのはひとえに…
——ねぇねぇお兄ちゃん。この牛丼弁当まだ食べれるよ!!
影ではいつも泣いてる癖に、俺の前にいる時だけは気丈に振る舞ってくれた妹がいたからだ。
「……っ。危ない!!」
ある夏の夜。忘れもしない七夕の日。
呑気な気持ちで日雇いのバイトを終えて妹が待つ公園に戻ると、ベンチで高熱にうなされている妹の姿があった。
——ごめんね。お兄ちゃん…
俺は聞いた。自分も俺の為に何かしたいと。それで、先月から両親が嵌った新興宗教に足を運び、体を売って…お金を得ていた事を。
違和感はあった。あったのに…気づけなかった無力感に打ちのめされながら、俺は急いで妹を抱えて近くの病院に行った。
「お願いです…俺の…っ、たった1人妹を……助けてやって下さい。」
俺達には保険証もなければ、医療費すらない。それでも俺は懸命に頭を下げ続けた。
数時間後、俺の願いが通じたのかようやく医者の人達が動き出した。
———ありがとう…お兄ちゃん。
俺の頬に手を当てて微笑みながら言ったそんなささいな言葉が妹の最期の遺言になった。
治療するには全てがもう手遅れで…さっきまで生きていたのが不思議だと医者が口々に述べる病院を後にする。
(……俺がもっと稼げていれば。)
日雇いバイトでは限界がある。切り替えろ…次に死ぬのは俺だ。すぐに稼げてかつ、リスクがなるべく少ない職場に就職を…そんな気持ちは一瞬で砕け散った。
『…あら、あの子死んじゃったのね。大丈夫…神様がまた誰かに転生させてくれるわよ。それに代わりならいくらでもいるじゃない。』
『そうだぞ。また妹が欲しければ、また母さんと子作りすればいいからな。弟が産まれるかもしれないが…ガッハッハ!!』
それが後日、病院の院長が善意で開いてくれた葬式にも参加せず、珍しく俺の旧式のスマホにかけて来た両親からの言葉だった。
……はらわたが煮えくり返るような怒りが俺を塗り潰し、気づけば俺は…自ら新興宗教の信者となって巧みに上層部を取り込み教主の座を手に入れて、金になるものを奪えるだけ奪ってから内部からじっくり腐敗させるように瓦解させて、トンズラこいて空っぽの財布を潤わせる。
——そんな唾棄すべき詐欺師になっていた。
……少女にドンと体を押されて、頭から地面に落ちて少し気を失っていたらしい俺は、昔の事を思い起こして、若干嫌な気持ちになりながら体を起こした。
「何をする。まだ会話の途中…」
少女は倒れている。
「…お嬢ちゃん。何をしているんだ?」
軽く声をかけてみても返事がない。俺は急いで駆け寄り体を抱き寄せると、弱々しく目を開けた。
「…日なたぼっこか。あまりやると日焼けで後で風呂に入る時に後悔するぞ…お嬢ちゃん。」
「…うるさいよ……お嬢ちゃんじゃなくて、わたし…ライっていうの…おじさんはなんて言うの?」
少女…ライは青ざめながら激しく吐血する。その原因である心臓を射抜いた一本の矢をあえて見ずに俺はライを尊重して最初にやるべきだった、自己紹介を行う。
「俺は——」
「ふふっ…変な名前。」
「実は俺はな、魔王を討伐する為に遣わされた勇者様だ。だから後は俺に任せておけ。」
「そ…そうだったんだ……頼りなさそう…で、嘘をついて…るようにしか…聞こえないけど…うん…なら、任せるね……勇者様。」
俺の言葉にライは弱々しくも、可憐に笑って…安心したように俺の胸の中で生き絶えた。
「……。」
無意味な時間だと分かっていても暫くの間、俺は冷たくなるライを抱きしめていた。
……
——ガシャァァン!!!
「うぶぇ……ろ…ロキ…!!!我らに一体何を…」
魔王や側近だけの宴で振舞われた飲み物にこの世界の色んな毒を配合しては蒸留してを何度か繰り返して作った猛毒を入れた結果、このザマだ。
最初は側近達を上手く煽って魔王に消しかけようとしたが、その結束力の硬さを目の当たりにしてから計画を変更。そこから3年間の下準備に加え、魔王軍の為に様々な貢献をして、人間だと悟られないように警戒しながら地道に地位を高めて…今日やっと実行に移す事が出来た。
「こんな、事がぁ……何者だ…お前は……」
つけていた鬼の仮面を脱ぎ捨てた。
「…流石です、魔王バルガー様…側近は即死したのに、ここまで喋れるなんて…ちなみに、私は勇者ですよ。簡単に騙せてマジで拍子抜けでしたよ……その点だけはがっかりです。」
「こんな…こんな勇者がいてたまるか!!!!!!我は正々堂々と、勇者と戦いたかっ…」
ジタバタと喚くバルガーの頭目掛けて飾ってあった儀式用の剣を何回か突き刺して止めを刺した。
「ロキ様!!宴の最中にどこに向かうので?」
「…そうですね、少しリワオ王国に散歩へ。皆さん中で酔い潰れていますので、厨房から水を持って行ってあげて下さい。」
「あ…っ!!了解ですぅ!!!」
何事もなかったかのように門番と会話をしてから魔王城を後にする。
「私は勇者だったでしょう…ライ。でも…俺には似合わないな。」
そんな事を呟きながら勇者の皮を脱ぎ捨てて、詐欺師として…黒幕がいる始まりの地へと向かった。
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