Under the Storm

ちかえ

不器用なの何とかならないかしら

 外は雨が降っている。いや、降っているなんてものではない。叩きつけるような音がしているし、風もすごい音を立てて、窓はガタガタと揺れている。


 普通、梅雨はしとしと雨が降るものなのに、どうしてこんなに嵐になっているのだろう、と恨めしく思ってしまう。


 だから外に出ることはできない。だから家で家族みんな大人しく過ごしている。

 夫はテレビを見ていて、娘は漫画を読んでいる。そして、私はハンドメイドをしているのだけど。


 手元のピンセットに挟まれた布を見てため息をつく。また端がうまく合わさらなかった。


 警報が出て学校が休みだったせいで、今日一日しょんぼりしていた娘を元気付けようと始めたのだが、これがなかなかうまくいかない。

 ただ、布を折っていくだけの事なのにどうして綺麗に出来ないのだろう。


 私が今やっている「つまみ細工」は針も糸も使わない。小さく切った布と、ボンドとピンセットがあれば出来る。

 折り紙の要領でやれば簡単だと思った。でも現実は厳しい。端と端を合わせるのが難しすぎるのだ。カットした布が小さいからだろうか。


 手作りだから不格好でもいいと言い訳したくない。出来れば娘には綺麗なものを作ってあげたい。


 だけど、現実はこれだ。だんだん気持ちも暗くなっていく。そのうち私の心の中も窓の外と同じような状態になるのではないだろうか、と変な事を考えてしまう。


「お母さん、何作ってるの?」


 そうしていると娘が声をかけてきた。どうやら気になったらしい。つまみ細工というものをしているんだよ、と答える。


「葉っぱ? でも何で紫なの?」


 私のつまんだパーツを見ながらそう呟く。どうやら花びらなのに葉っぱに見えるようだ。落ち込みそうになるが、まだ小学生の娘に気を使わせたくはない。

 素直に、これは花びらで、これからこれは紫陽花になる予定なんだよ、と答える。


「紫陽花!」


 娘が歓声をあげた。この子は紫陽花が好きなのだ。だから今回作ろうと思ったのだけど。


「これでヘアゴムを作ろうと思って。月曜日は晴れだから学校につけていけるでしょ」

「お母さんすごい!」


 そう感激してくれる。下手っぴなのに、それでもいいのだろうか。


「私もやってみていい?」


 娘はかなり興味を示したようだ。一緒にやりたい、と言ってくる。

 それは楽しそうだ。


 苦手ながらも本の図を見せながら丁寧に説明する。娘はそれをじっくり見て、楽しそうにパーツを作っている。


 この子がこんなに喜んでくれるのならそれでいい気がする。元々、喜んでもらうために始めた事なのだ。


 可愛いその姿に荒れ模様だった心が晴れ上がる気がした。

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Under the Storm ちかえ @ChikaeK

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