最終話 終わりと約束
「おい、帰ったぞ!」
玄関からあれの声がするけど気にしない。
私は部屋の中から出る気はない。
「人が疲れて帰ってきたのに出迎えなしか」
リビングでアホみたいに騒いでいる。
私が適当に買ってきたお惣菜を食べるがいい。
よくもまぁ、偉そうにできたものだ。
竜胆君の友人のおかげで色々分かった。いや、見ないふりをやめたという方が正しいのかな?
私はリビングの明かりをリモコンで消す。
「な、なんだ!」
リビングのテレビに映像を流す。
アイツのこれまでの浮気の証拠写真や動画をこの一ヶ月でまとめたものだ。
「おい、何のつもりだ! こんなもの用意して!」
「それは私のセリフかな? 毎日毎日遅くまでご苦労様!」
ドン!っとテーブルに離婚届を叩きつける。
「おい、後悔するぞ! 俺がいないと何もできない世間知らずのくせに」
「そうですか。そういえば、休日の事で会社に電話をさせていただきました」
「なに!?」
口をパクパクさせて、どう話すか悩んでいるようだ。
「会社の方は何も知らないようですね? あ、いちいち浮気の事は言ってないから安心して下さいね」
それでも彼の会社での印象は悪くなっていると思うけど。
「この、恩知らず。後悔しても知らないから! 今まで俺のおかげで生きていたくせに」
苛立たし気に離婚届を握る。
最後まで謝罪の言葉も感謝もないバカを置いて、私は竜胆君の家に向かうのだった。
・・・・・・・・・・
「竜胆君、終わりました」
「うまくいきましたか?」
「はい、緊張しましたけど何とか」
「それは良かったです。それでこれからどうするんですか?」
「とりあえず住むところを探して、バイトを頑張るつもりです」
「俺としてはここに住んでもいいんだけど、旦那さんと会いたくないよな……」
竜胆君は苦笑いを浮かべる。
「竜胆君にはこれ以上迷惑をかけられないよ! 動画の件は本当にごめんなさい」
「いいですよもう、後三回分収録もありますし。僕は楽しかったですよ」
「私も楽しかった。なんだか、異世界生活ってかんじだったよ」
「はは、異世界生活か……。いい表現ですね」
「今までありがとうございました」
私は深々と頭を下げた。
「お礼はいいですよ。それより晩御飯、最後に作ってもらえませんか?」
「私で良ければ喜んで」
彼との最後の時間、いい思い出になりそうだ。
竜胆君が用意していた食材で晩御飯作りを始める。
竜胆君が初めて作ってくれたナポリタンを作っていく。
玉ねぎ、人参、ベーコン、ピーマンをバターで炒めて、湯がいたパスタをいれる。
少しだけ顆粒コンソメを入れて、バターを足す。
最後にケチャップ入れて完成だ。
「お待たせ」
パソコンの前にお皿を置いて、自分はいつものようにベットに座る。
「ありがとうございます」
元気よく手を合わせて竜胆君は食べ始めた。
「美味しいかな?」
「はい、バターはやっぱ最強ですね! でも、なんか深い味わいが……」
竜胆君はいつも美味しそうに食べてくれて、こういうふうに感想をくれる。
小さな私の幸せだ。
「コンソメを少し入れてるからかな?」
「なるほど、竹内さんは本当に料理上手ですね」
「そうかな、ありがと」
この時間がもう終わってしまうのは少しさびいけど、私は大人で竜胆君はまだ学生。
その未来の邪魔はしたくないし、できない。
「あの、ところで一つお願いがあるんですけどいいですか?」
「なにかな?」
パスタを巻きながらそう返事を返す。
「……だいぶ先でいいんんで、またご飯作ってくれませんか」
少し間があったので、竜胆君の方を見ると少し顔を赤くしてまっすぐな瞳で私にそう言ってくれた。
竜胆君には本当にかなわないな……。
「分かった。またね」
私は立ち上がり空になったお皿を流しに置いて、竜胆君の部屋を出ていく。
これ以上ここにいたら出ていけそうにないからそうしたのだ。
私は前向きな気持ちで、街へとくり出すのだった。
(完)
私の事を家政婦と勘違いしてる旦那を捨てて、異世界生活? 星野しほ @zinro
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