第4話 暖かい時間と冷たい時間
「おい、へらへらしてどうしたんだよ? 俺が疲れているのがそんなにおかしいか?」
日付がもう変わろうかという時間にお酒臭く帰宅した旦那を出迎えるとそう言われました。
「いや、そんなことないわ。お疲れ様です。鞄、運ぶね」
玄関に落とした鞄を拾って、旦那の部屋に運ぶ。
「俺はな、グズのお前のために身をこにして働いてんだ!」
玄関から旦那の声が響く。
「大丈夫、大丈夫……」
私は小さく呟いて、旦那のもとに戻ります。
玄関に座って、ぐちぐちと言っている旦那を見つけて肩を貸してリビングに運び水を差し出します。
「ほんとに、お前はな~」
「あの、お風呂いれますか?」
「たりまえだろ、明日も俺は働くんだ!」
旦那は水のはいったコップを私に投げつけました。
だけどコントロールが悪く、水はかかったもののコップはベランダの戸ガラスを割って砕けてしまいます。
「ごめんなさい、すぐに準備しますね」
私は怖くなって、急いでその場から逃げたくて、風呂場に行きました。
準備を済ませた私がリビングに戻ると旦那はソファーでいびきをかいていました。
割れた破片を片さないと……。
戸ガラスの前に行き、ベランダに置いてある放棄と塵取りを持って、破片を片していきます。
それを終えた後、旦那を起こしてあげるため声をかけます。
「貴男、起きて! お風呂、沸きますよ」
「……うっせいな、今日は寝る! ベットに運べ」
言われるままに肩を貸して、旦那のベットにいきました。
ベットに座ってもらって、着ているスーツのジャケットを壁のハンガーに壁にかけようとした時名刺サイズの紙が床に落ちます。
私は拾って、驚きました。
それは見たことのない派手な色合いで、旦那の名前と愛してるの文字……。それと書かれた女性の名前の名刺でした。
私は自分の中で何かが壊れる音が聞こえた気がしました。
・・・・・・・・・・
次の日の朝、何故起こさなかったんだと? 罵倒を浴びせて出勤していくそれを私は見送り竜胆君に昨日貰ったアプリの連絡先にメッセをおくります。
『おはようございます。昨日の事で少し確認なのですが、毎週何曜日にお伺いすればよろしいのでしょうか?』
すぐに返信はないだろうと洗い物や家の掃除を片付けることにしました。
お昼ご飯を何にするか考えていると携帯が震えたので確認します。
竜胆君からのメッセでした。
『来週の火曜日に収録したいと思います。その後に編集して配信しようかと思いますが、ご都合は大丈夫ですか?』
何だか堅苦しい文面に少し笑いそうになってしまいます。
『大丈夫です。あの、じつはお昼を何するか悩んでて、竜胆君のお昼は何ですか?』
「えっと、今起きたところ何で、何にも考えてないです』
その文面を見て私は――
『あの、ご迷惑でなければお昼一緒に食べませんか?』
そう提案してしまいました。
・・・・・・・・・・
「おじゃまします」
「どうぞ、どうぞ」
竜胆君の家のチャイムを押すとすぐに出迎えてくれた。
リビングに通してもらって、買ってきた食材の袋をテーブルがなかったので床に置く。
自分の家と間取りは同じなのに家具が少ない分広く感じる。
「すみせん、食材を買ってきてもらって」
「いや、私が誘ったんだから気にしないで」
私はそう言いながら、手を洗って食材を取り出す。
「そういえば何を作るんですか?」
その様子に竜胆君がメニューを聞いてきた。
「オムライスにしようかなって思うんだけどいいかな?」
「嬉しいです。あ、試し撮りで撮影してみてもいいですか?」
竜胆君が目をキラキラさせてそう言ってくる。
「え? ああ、べつにいいけど……。顔は写さないでね?」
「もちろんですよ。料理の工程を口に出しながら、やってもらっていいですか?」
「わかった。やってみるね!」
スマホをかまえた竜胆君に返事をして、使う材料を並べていく。
因みにご飯と調味料は家から持ってきた。
「ではまず、野菜を切っていくので包丁を貸してもらっていいですか? 竜ちゃん」
そう言うと竜胆君は無言でシンクの下を指さしたので棚を開けるとフライパンと包丁が入っていた。
それらを取り出して気が付いた。竜胆君はボイスチェンジャーが無いと話せないんだと。
ここからは私の一人劇だ。
人参、ピーマン、たまね、ハムをみじん切りにする。
フライパンにオリーブオイルを軽くひいて、玉ねぎをしんなりするまで炒めていく。
竜胆君はその様子をスマホを使って、真剣な顔でずっと撮影している。
「えっと、いい感じに火が通ったら人参とピーマンを炒めてながら、冷凍ご飯をチンするんだけど、この家ってレンジありますか?」
見たところリビングには小さな冷蔵庫と壁の隅に置かれた掃除機しか見当たらない。
竜胆君はごめんといった感じで手を合わせてくる。
「生活感なさすぎだよ、ご飯は後でチンするね」
私がそう言うと竜胆君はスマホを下ろした。
「ごめん、よく考えたら最低限の物しかない。料理器具もまた買っておくよ」
「良いよ別に、私が持ってくるから。じゃ、ちょっと行ってくるからそれ炒めてもらっといてもいいかな?」
「了解です」
こういう役割分担。なんだか楽しいな。
ご飯を持ってきたら撮影が再開される。
野菜とご飯を炒めて、パラパラなケチャップライスを作り、せっかく撮影してるんだからと卵をドレスのような見た目にすると驚いてくれたのが嬉しかった。
「竜胆君はこの映像をどうしたいんですか?」
竜胆君の寝室に移動して、向かい合わせに座り写真を撮る竜胆君に声をかける。
「え? えっと、良ければ編集して次の配信に使ってみようかなって思ってます」
「うん、いいよ。で、どんなふうに編集するのか教えてくれませんか?」
「えっと、あ美味しい……」
手を合わせて一口食べて、すぐに何度も無言で口に運んでいく。
すごく嬉しい。
「よかった」
やっぱり竜胆君と食べるご飯は美味しい。
「えっと、話の続きなんですけど。さっきの動画に生放送で俺がアフレコしつつ、写真も使うつもりです」
「それは、また面白そう。今度は視聴者としてみるね」
「ありがとうございます――」
「ところで、何や悩みですか?」
急に真剣な目をして言われてドキリとする。
「え? どうしたの急に?」
「いや、勘違いかも知れませんけど、竹内さん何だかから元気な気がしたので」
竜胆君はもう食べ終わって、手を合わせてそう言ってきた。
鋭いな……。
「もう、何でそんなに鋭いの……」
私は半分くらい食べていたオムライスの皿にスプーンを置いて、、小さく声を出す。
「言いたくなかったら、言わなくていいですけど。俺は、竹内さんの助けになりたいって思ってるんで。俺ばっかいい思いするのはズルいですから」
そんなこと言われたら、言いたくないなんて言えない。
子供ぽっくて時々大人な竜胆君のペースに甘えているようで私の方がズルい気がするな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます