第3話ようこそ異世界へ・私の人生はここから変わります

 インターホンが鳴って、玄関に行くと竜胆君が来てくれた。


「こんにちは、学校お疲れ様」


「はは、ありがとうございます。それでは俺の部屋に行きましょうか?」


「あ、うん。そうだ、ちょっと待ってて」


 私はそう言ってリビングからクッキーのはいった袋を持って戻る。


「これ、お菓子作ったの良かったら食べて?」


 少し緊張しながら竜胆君に手渡す。


「うわぁ、手作りじゃないですか! ありがとうございます……。うまいッ!」


 早速袋を開けて星形のやつを本当に美味しそうに食べてくれる。


「良かった。それじゃ、竜胆君の部屋に行きましょうか?」


 竜胆君はまた一つ食べながらうなずいて、歩き出した。


 私はその後ろについて行く。


 何だか緊張するな……。


 年下とはいえ、男の子の家に自分から行くなんて今更ながら何だかダメな気もする。


「どうぞ、ここで待っててください」


 前に私が寝ていた部屋に案内してくれて、竜胆君はどこかに行ってしまう。


 前にも思ったけどアニメのポスターや、パソコンのモニターが何だか物珍しくって、私は緊張を忘れてポスターをの前に行きじっと見つめる。


「やっぱり、キモイっすかね?」


 ドアが開いて竜胆君が私の事を見ながら聞いてきた。


「ううん、そんなことないよ。なんていうか、珍しい? 私こういうの全然知らないんだけど、アニメなんだよね?」


 竜胆君は部屋の真ん中に置いていた折り畳み式のテーブルに手に持っていたカップを置いて座って、私を手招きする。


 クッションを置いてくれていたのでその上に座る。


「アニメじゃないんですけど……。そのVチューバ―って知ってますか?」


「ごめんなさい、分からない」


「いや、謝らないでください。アーチューブは知ってますか? 動画サイトの」


「ええ、旦那が前に見てた気がします」


 私はパソコン自体さわらないのでよく分かってないけど旦那が前にそんなことを言っていたのは覚えている。


「そこで配信をする二次元の体の配信者がⅤチューバーなんです」


「なるほど、なるほど」


 私はそう相槌を打って、だしてくれたコーヒーを飲む。


 インスタントのそれは何とも言えない美味しさだ。


「それで、今日時間欲しいって言ったじゃないですか?」


「う、うん。何かあるのかな?」


 私はカップを置いて、平常心を取り繕う。


「俺、実は……。Vチューバーとして配信しているんだけど、一緒に配信してくれませんか?」


「……はい? え? 私が? 無理だよ、顔だしとか特に……」


 旦那に見つかったら何を言われるか分かったもんじゃない。


 それに私が動画なんて、できる気がしない。


「顔出しはしない。ただ、旦那との事を濁して話してくれたら、バズるって思ったんだ。もちろん嫌ならいいんですけど……。一回だけお願いします」


 朝見たギラついた眼で私の手を取ってそうお願いしてくる。


「今日だけ……。前のお礼だし、一回だけだよ?」


 私はつい、根負けしてしまうのでした。


 ・・・・・・・・・・


「え~、今日もお前ら来てくれてありがとう! バ美肉Vの竜だよ~」


 竜胆君がカメラの前でそう声を出すと、モニターの中で部屋に飾れられたポスターの女の子と同じ顔の女の子が笑う。


 声もどういう原理か分からないけど、スピーカーからは女の子の声がしている。


「今日はね、お友達の人妻を連れてきたよ~」


 画面に文字がいっぱい書かれていく。


 コメントという機能だと説明を受けている。


「興奮しすぎ、キッモ~。童貞君ん乙~。さて、じゃぁ、自己紹介をお願い」


 目を私の方に向けてきた。


 私は横に立って、声を出す。


「どうも、初めまして花です~」


 あらかじめ決めていた偽名で自己紹介をする。


 コメントに、「リアル女キターーーーーー」や「年齢、スタイルは?」なんて書かれている。


「酷い~、皆、竜より食いつきいいじゃん」


「そうなんですかね? あ、年齢はご造像にお任せします」


 先ほど説明を受けたこと簡単だった。


 本名や身バレにつながることは言わない事。コメントは適度に読む。旦那との話をする。


「今日は、花のクズ旦那の話を聞いて意見が聞きたいなって配信だよ! 拡散よろしく!」


 配信観覧数がみるみる上がっていくのは凄いことなんじゃないかな?


 私はそう思いながら、竜胆君に誘導してもらいながら話をしていく。


 話していくうちにだんだん胸の中が軽くなっていくような気がした。


「フフフ、ホントにこんな話で良かったんですか? 竜ちゃん」


「うん、リスナーも喜んでるよ! こういう内容だけでなく、花さえよければまた来て欲しいな! 同せつ二万人は初めての快挙だよ!」


「そうなんだ、力になれてよかった」


「おっと、もう一時間たってしまうね! みんな今日はありがとう! このまま今日は配信終わるね~。ありがとうございました~」


「あ、ありがとうございました!」


 私もカメラの前でお辞儀する。


 ・・・・・・・・・・


「ありがとうございました」


 パソコンを消して、竜胆君がそう頭を下げてきてくれた。


「いや、私もその……楽しかったし……」


「それならよかったす。あ、また配信していいなら、ぜひお願いします」


「ねぇ、気になっていたんだけど。どうやって女の子の声がパソコンからしていたの?」


 私は答えないまま、気になっていたことを聞いた。


「ああ、ボイスチェンジャーです。俺中身は男、アバターは女子のバ美肉スタイルのVなんです」


「このポスター、竜胆君なんだね」


 部屋のポスターを見ながら言う。


「俺のグッズです。一応、人気はあるので」


「凄いんだね。普段もああいうお話で配信してるの?」


「普段はゲームがメインですね。ただ、マンネリ気味で、何か企画を探していたんです」


「それで私に優しくしてくれたの?」


「それは違います! 本当に偶然です。ただ、すごい体験をされていたので、動画に誘いました」


「うん、分かった。ねぇ? 提案があるの」


「提案? なんですか」


「話してるとね、胸が軽くなったの。でも、同じような話はそこまで需要が無いと思うから……。お料理配信とかどうかな? 竜胆君のパスタ美味しかったし」


「手元だけの配信ならできそうですけど、俺、そこまで料理できませんよ?」


「私が先生になってもいいかな? 料理はこう見えても得意なの」


「……え? 配信に出てくれるんですか?」


「手元くらいなら大丈夫だよ。私なんかで良ければだけどね」


「やったーーーー!」


 子供みたいに竜胆君は飛び跳ねて腕を伸ばす。


「こんな世界知らなかった、誘ってくれてありがとうござます」


 本当にバーチャル空間というのは異世界だ。


 家の中しか知らない観葉植物のような私にはキラキラした世界に見えた。


「俺の方がありがたいっす。じゃぁ、週に一度お願いしてもいいですか?」


「分かった。大丈夫だよ」


 私は竜胆君の手を取って、笑みを浮かべる。


 久しぶりに心の底から楽しいと思えるものに出会えた気がした。





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