第2話  冷凍餃子とお隣さん

「ただいま……」


「あ、お帰りなさい。お疲れ様です」


 玄関に旦那を迎えに行って、鞄を持つ。


「ニコニコしやがって、お前のせいで俺は上司に怒られたんだぞ!」


 旦那は睨みながらそう言ってくる。


「次はもう少し頑張って起こすね」


「それで風呂は?」


「今日は沸かしてる。もう入れると思う」


 そう言うと旦那はお風呂場の方に歩いて行く。


 私は乱暴に渡された鞄を旦那の部屋に運ぶ。


 あ、今日は魚にするって言ってたけどどうしよう……。


 スーパーに行った際、つい冷凍餃子を買ってしまったのだ。


 私は少し急ぎ足で冷蔵庫の備蓄の確認に行く。


 魚はやっぱりない。


 ドタドタと風呂場の方から足音がする。


 考えている間にもうあがってしまったみたい。


「ふ~。おい、ビール」


「あ、はい。あ、おつまみに餃子を焼きましょうか? 冷凍食品だけど美味しそうなの見つけたの」


 ビールのあてという事なら怒らないかな?


「ああ、晩御飯はもう食べてるからそれくらいがちょうどいいな」


 旦那は嬉しそうに缶ビールを受け取って、テレビの前のソファーに座った。


 晩御飯いらないなら連絡くらいしてほしいな……。


 まぁ、今は助かったけど。


 手早く冷凍餃子を焼いていく。


「おまたせしました」


 焼いた餃子をソファーの前のテーブルに置き酢とお醤油、それからラー油と小皿を置いて私は少し離れた椅子に座る。


「ふん、やっぱりお前が作るより旨い。お前は料理の才能がなさすぎだし、人を起こすこともできない。無能なのに生きていられていいよな」


 旦那は餃子を食べながら、そう言ってきた。


「……ごめんね。私、お風呂に行ってくる」


 私はそう言って、リビングを出ていく。


「おい、お酢と胡椒も出しとけ」


 私は無言で言われたものを用意して、お風呂に向かう。


 あれ? 何の音だろう?


 お風呂場で服を脱いでいるとお風呂の方から水の流れるような音がしてきた。


 なかをのぞくとお風呂の栓が抜かれていた。


 ああ、私まだ入ってないのに。


 仕方ない今日はシャワーだけにしよう。


 ・・・・・・・・・・


 次の日、旦那が仕事に向かうのを見届けて私はゴミ出しに一階に向かう。


「あ、おはようございます」


 エレベーターの前でそう声をかけられて振り向くと竜胆君が手を上げて立っていた。


「あ、おはよう。今から学校?」


「そうなんですよ、相棒がしくじって今日は掃除のバツ当番なんですよ」


 笑いながらそう話してくれる。


「え? それって私のせいなんじゃないの」


「違いますよ。あ、どうぞ」


 エレベーターが到着して、竜胆君はドアを開けて先に入るように促してくれた。


 エレベーターの中は短い沈黙がおとずれた。


 一階に着き私は先に降りる。


「ほんっとうにごめんなさい」


 私は勢いよく頭を下げた。


「いや、本当に竹内さんのせいじゃないんで……」


 顔を見ると困ったような顔で頬をかいている。


 後ろに人の気配があり、頭をあげてみると他の家の住人が何人かいて私達を見ていた。


「あ、ごめんなさい」


 小さめの声で謝る。


「また謝った。そうだ、謝罪するっていうなら、お願い聞いてくれない?」


 なんだろう、優しい目の奥にギラついたものを感じた。


「あ、えっと、はい。何でしょうか?」


「夕方、一時間俺にくれませんか? 話聞きたいし昨日の事とか」


「? いいですよ」


「じゃ、夕方また家に行きますんで」


 そう言って、竜胆君は走ってマンションを出て行ってしまう。


 私はゴミを足早に出して、部屋に戻るのだった。


 ・・・・・・・・・・


 竜胆君が来る前にすることが二つあった。


 一つは自分のお昼ご飯の用意だ。


 もう一つはお詫びを兼ねてクッキーを作ろうと思っている。


 準備はさっき買ってきた。


 まずはお昼だ。


 冷蔵庫から明太子と昆布茶の粉末、醬油を取り出してキッチンカウンターに並べる。


 パスタを湯がくために深めのフライパンに水を入れてお湯を沸かせる。


 ぐつぐつしてきたところで、乾麺パスタを入れて菜箸で全体を沈めていく。


 パスタが茹で上がるまでの時間でソースの準備だ。


 大きめのボールに明太子を一ついれてフォークでさいていくそこに醬油いれて少しだけ昆布茶をいれる。こうすることで味がしまる気がするのだ。


 明太子と混ぜ合わせ丁度良く茹で上がった茹を湯切りして、ボールに入れ最後に冷蔵庫からバターを取り出して、一欠けらいれて全体になじむように混ぜる。


 皿に盛りつけてから私は重要なことを思い出した。


 刻み海苔、あったかな?


 冷蔵庫を確認して残っていたことに喜んでそれをかけてお昼は完成した。


「いただきます」


 フォークで巻き巻きして、口に入れる。


 海苔の香りが口に広がり明太子のプチプチ食感、バターの旨味が口にひろがっていく。


 美味しい~。


 誰もいないリビングで一人笑みを浮かべる。


 昨日思い出したのだ。料理は人を笑顔にするって。


 いつからか私は自分のご飯はインスタントですませることが多くなっていた。


 昨日竜胆君が食べさせてくれたナポリタンが私に生きる力をくれたみたいに料理は偉大な発明だと思ったのだ。


 だから今日からはまた自分のお昼も極力作ることにした。


 お菓子作りは久しぶりだけど竜胆君、喜んでくれるかな?


 明太子パスタを食べながら、どういう形にしようか悩むのだった



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