第1話 異世界とナポリタン

 あれ? ここは……。無のの上に振動を感じて目を覚ました私は見慣れる天井に、辺りを見ながら体を起こした。


 天井には見たことのないアニメキャラのポスターが貼られていて、壁にも同じ顔の女の子のポスターが貼られている。


 ここどこだろう? 私はどうしてここに?


 寝ていたベットのふちに座って、スマホを見る。


 旦那から何度も着信が来ていた。


 胸に痛みを感じ、軽い吐き気が込み上げてくる。


 恐る恐る通話ボタンを押して、スマホを耳に当てた。


「あ、もしもし……。何かあったの?」


 少ししてつながったので、そう聞いてみる。


「はぁ? てめぇのせいで、遅刻したのに何だその態度!! 朝からどこ行ってんだよ?」


「あ……。ごめんなさい、体調が悪くなって、少し外で休んでたの。それで寝ちゃってたみたい……」


 朝の事を思い出して、どうして助かったんだろうと? 疑問を覚えながらも旦那の機嫌が悪いのでそれどころではない。


「たく、使えないやつだな! この……」


 そこで突然、スマホを奪われました。


 驚いて前を見ると金髪の若い男の人が立っています。


「もうすぐご飯できるけど、食欲ある?」


「え? え? あ……」


 私のお腹がきゅるりとないて返事をしてしまいました。


「よし、持ってくるから少し待ってて」


 その男の子はそう言ってスマホを私に返して、部屋から出ていきます。


 あ、通話が終わってる。すごく怒ってたな……。


 少しするとお盆を持った、男の子が部屋に帰ってきた。


 お盆にのった皿を一つ私に渡して、自分は部屋の端にあるパソコンの置かれたデスクの前にあるゲームチェアーとかいうやつだったかな? に座って私の方を見てくる。


 皿の中にはナポリタンスパゲッティがはいっていて、ケチャップとバターの香りが私のお腹を刺激してきた。


「あの、私はどうしてここに? 後、ここはどこですか?」


「ここは俺の家。ごみ捨てに行こうとしたら、お姉さんが落ちそうになってたから、助けて……。気を失ってたから仕方なく、家にいれた」


 言葉を選んでくれているのか、時折上を見ながらそう教えてくれる。


「あ、ありがとうございます。疲れてたのかな?」


 私はそう言い「いただきます」手を合わして、スパゲッティを食べ始めた。


 わぁ、美味しい! ケチャップ爽やかな酸味と甘み、それにバターのコクがヤバい――


 玉ねぎとピーマンもいいアクセントだ。


 夢中で食べ進めていく。


「良かった。美味しいんだな!」


 私にはフォークを渡してくれているのに、自分はそう言いながら箸でズルズル食べ始めた。


「あの、ごめんなさい。ご飯まで頂いてしまって……」


「いいよ、べつに。それより、バターいれてみたんだけど……俺はあうと思うんだけど、どう?」


「え? はい、コクがたされてすごく美味しいです」


「だよな! やっぱ、バターは最強だ――」


 そう言って無邪気な笑みを浮かべて笑う。


「おい、どうして泣くんだよ?」


 男の子は皿をデスクに置いて、私の側に来て顔をじっと見てきます。


「え? あれ? 何でだろう」


 どういうわけか、涙が止まりません。


「もしかして、さっきの電話か? なんか怒ってたけど?」


「それかな? 私も分かんない。ごめんなさい」


「何で謝るんだ? いいから、とにか落ち着いて、ゆっくり食べて」


 私はその言葉にまた涙が増えた気がしました。


 涙をごまかすように、私は食べ進めます。


 何だか塩味が強くなった気がしました。


 ・・・・・・・・・・


「えっと、ごちそうさまです」


「ああ、お粗末様です。あのさ、電話の事とか聞いてもいいか?」


 男の子はパソコンをさわりながらそう聞いてきました。


 もちろん話す必要はないとは思います。ごまかせるから……。


 でも、話したい。私はそう思って、今に至ることを全て話しました。


 男の子は私の事を一度も見ずに、合間に相槌うつだけでとても話やすかった。


「こんな感じかな? ごめんね、愚痴みたいなことを聞かせて」


「愚痴? 俺はそう思はなかったけど? それを聞いたうえで提案なんだけど、アンタの旦那さん、好物は何?」


「え? 餃子だけど? それがどうしたの?」


「本当に冷凍食品を出してみたらどうかな? たぶん、手作りの方が美味しいって気づくよ」


「でも、仕事を頑張ってくれているのに、それはダメなんじゃ?」


「いいから、いいから。やってみて? 後、アンタは何も悪くないから、謝る癖もそのうち直しなよ?」


「分かった。やってみます。あ、私。503号室に住んでいる竹内妃花たけうちひめかです」


 私はまだ自己紹介してなかったと思い出して、変なタイミングだけど自己紹介をします。


「そういえばまだ、名乗ってなかったな。俺は502号室の竜胆勇りんどうゆう。お隣だから、なんかあったらいつでもきていいぜ」


「ふふ、ありがとうございます。それじゃ、私そろそろ帰るね」


「俺もさすがに学校に行かないとな……」


「え? 学生なの?」


 驚いてつい言ってしまいました。


「ああ、大学生」


「ごめん、本当に邪魔してたんだね」


「また謝った。俺が好きでやったんだから気にすんな」


 男の子は私の肩を叩いて、笑顔を向けてくれます。


 優しい子だな。


「今何時だろ? え? もう十二時だけど怒られない?」


 時計を見て驚きます。


 凄い長い時間ここにいたんだ。


「大丈夫、相棒がどうにかしてるさ。一緒に出るから少し待って」


 そう言って、教科書なんかをカバンに詰めています。


 準備してないんだ……。


 けっこうこういうのになれているのかな?


 私は男の子が準備を終えるのを待って、外に出ました。


 玄関で手を振って、見送るのは久しぶりだな……。


 まさかお隣さんに助けられるなんて、ちょっと不思議な体験に私は小さく笑みを漏らします。


 さて、家に帰って家事を頑張ろう。


 気合を入れ直して、自宅に帰ることにする。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る