第35話 到着

なんやかんやあって、商業都市に到着した。


魔物を討伐したり、野宿料理に舌鼓をうったり、トレジャーハントを楽しんだりした。


「……いろいろあったな。」


「うん。あったね。ほんとに……。」


しみじみと呟くと、俺とは違う感じでシドが呟いた。隣でアルミリネが相槌をうっている。


「この旅には有意義なことが多かった。特にトレジャーハントは今までとは違った面白さがあって……」


「「いや違う(違います)。」」


振り返って特に印象深かったことについて話そうとするとシドとアルミリネが声を被せてきた。この二人、息ピッタリで話すことが多い気がする。

シドが代表して言った。


「有意義なことは確かにあったよ。僕らの目的のために必要なことだってあった。でもね……、その数倍しんどいことが多すぎた。」


「そうか?」


「どの口が言っているんだいどの口が。半分以上君のせいだよ。遭遇した魔物をギリギリまで強化した挙句手を貸してくれなかったり、討伐した魔物を解体して、その肉とその辺から採ってきた野草で料理したり。それを出されたときの僕らの心情を察して。いやなぜか全部おいしかったけど。」


アルミリネの頷くスピードが速くなった。頭が取れそうな勢いである。


「極めつけは……」


アルミリネに比例するようにシドがふるえ始めた。


「レイが自由過ぎる!いいかい、世の人間は盗賊退治をトレジャーハントなんて言わないから!その言い分だと僕らが盗掘者みたいに聞こえるじゃないか!」


実際楽しかったし、盗賊退治。洞窟掘って地下に下がっていっているとか、いつでも移動できるように天幕だけの盗賊が普通、と思っていたが、この辺りの盗賊は上タイプだった。塔のような構造で、一階ごとに宝箱を置いているのだから間違いなくトレジャーハントだろう。


まぁ、それはいいとして。

今俺たちがいる商業都市は、その名の通り商業が盛んな都市だ。町の中での商売はもちろんのこと、国内だけでなく外国の商人がわざわざこの町に来て取引するほどだ。国内経済のほとんどがこの町で行われており、その功績から『商業都市』という名前が正式に登録されている。


そしてあと数日以内に魔族の襲撃に合う町でもある。













まぁそんなことは置いておいて。


まずは腹ごしらえだよな!


「「いや違う(違います)。」」


解せぬ。
















商業都市に入り、まず俺が向かった先は……広場である。


ここは町の中心に近いエリアであり、人が集まる観光名所である。


人が集まるということは、商売人にとっては集客チャンスとなる場所であるということ。つまり、屋台が多い。食の収集所である。


さっそく、最も近い位置にある屋台へ近づく。


「おぉ、にいちゃん。一本どうだい?うまいぜ。」


屋台ならではの目の前で焼いているスタイルだ。何かの肉の串焼きのようだ。


「一本くれ。」


「まいど!」


お金を渡すと、店主はタレがかかった串を二本差しだしてきた。


「一本おまけしといたぜ。にいちゃんみたいな一人の旅人は珍しいからよ!」


勘違いをしているが、得なのでお礼を言って串を受け取った。


あの二人とは正門から入った時点で別れている。というか、逃げてきた。今頃二人は領主に謁見でもしてるんじゃないか?ま、俺は謁見とかいう面倒なことには関わりたくない。


そういえば、勇者と聖女って魔族から人々を救う~とかで、むしろ崇められる立場だよな。領主とどっちが上なんだろうか。国王のときは一応向こうが多少上のようだったが。


知ったこっちゃないか。さて、次の屋台はっと。






◇勇者視点◇


僕とアルミリネは今この町の領主殿と面会していた。


僕ら勇者一行の立場は領主と同格だが、僕らの方が少し格上、というのが暗黙の了解らしい。だから、謁見ではなく面会だ。


この町の領主殿は40代後半の男性。自分よりずっと年下にも関わらず、格上のように振る舞う僕たちを笑って受け入れる人物。領民に慕われているというのもよく分かる。どこかの国王とは大違いだ。


良い人には、作らず軽い感じで話すことができる。この領主殿とはいい関係を築きたい、のだが……


少し引きつりかけた笑みのまま、対面の領主殿が話しかけてきた。


「それでは来るまあ俗について話し合いを行いたいのですが……。えっと、勇者殿、聖女殿、失礼ですが何に怒っていらっしゃる?我が屋敷の者が何か粗相を致しましたか?」


おっと。表に出さないように心がけていたのだけれど、つい。アルミリネも同じ思考に至ったのか、さっきまでの怒りオーラが消えている。


僕、消せてる?


「失礼しました、領主殿。こちらとしては友好的な関係を築き、円滑な対策を行ってまいりたいと思っています。……ですが、話し合いの前に少し愚痴を聞いてもらっても?」


「は、はぁ。構いませんが……。」


「ありがとうございます。実はですね、最近新たに一人、パーティーメンバーが加わったんです。それも、すごい実力者の。」


「なんと。おめでとうございます。また一歩、魔王討伐に近づきましたな。」


「ええ。その点は喜ばしい限りです。しかし……」


「しかし?」


「その実力者というのが、とんでもない自由人でして。王都で僕らが魔族と戦っている最中にご飯を食べてたり、戦いで生じた振動でご飯がこぼれて、それで怒った彼にボコボコにされたり。」


「それだけではありません。」


アルミリネが口を開いた。ここまで僕が喋っていたが、彼女も言いたいようだ。


「この町に来る道中もひどいものでした。魔物と遭遇すれば、私達の支援をせず魔物を強化したり。私たちの訓練と言っていましたが、かなりギリギリまで追い込まれるのでものすごく性格が悪いのです。他にも、盗賊と遭遇すれば根城の場所を吐かせて宝探しと称し意気揚々と乗り込んだり、フラっといなくなったかと思えば謎の物質を採ってきて料理したり、無茶苦茶な移動方法を力ずくで行われたりもしました。助かっているんですけどね!ただ、あの謎料理がおいしいのは納得がいきません。」


「……勇者殿、聖女殿の心中お察しします。」


領主殿も降りまわされた経験があるようで、共感しているような顔で頷いていた。


僕らは立ち上がり、固い握手を交わした。あんなののは屈しない!





「ちなみにその自由人も一緒に来る予定だったんですが、逃げられまして。今度連れてきますよ。」


「謹んで、遠慮申し上げたい。」









——————————————————————

【あとがき】


明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。


今年も気ままに書いていきます。お楽しみいただければ幸いです。





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気の向くままの異世界旅 方夜虹縷 @houya523

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