第34話 気分
人間をはじめ、全ての生物には休息が必要だ。
それは生命活動を行う上で必ず通らなければならない一本道で、効率的な活動を行うという意味でも休息は必須である。
偏に休息といっても様々な形があるが、大きく『睡眠』か『それ以外』かのどちらかに分けることができるだろう。
睡眠は休息の理想形だ。身体機能の回復を最大効率で行い、脳の認識をリセットする。他にも多くの効能がある。
睡眠以外の休息は非常に多岐にわたる。昼寝や午後の一杯などのようなゆったりした時間があれば、作業合間のちょっとした休憩など短時間のものもある。
これらは身体機能にのみ利益をもたらすのではない。よく知られていると思うが、ストレス解消など精神面でも有益だ。
さらに、休息は『無意識』か『意識的』かに分けることができる。
無意識なものは、何かに夢中になったり、それこそ意識がないときに効果がある。いつの間にか時間がたっていた、という経験が誰しも一度はあるのではないか。無意識故実感しにくいが、確かに効果はある。主に身体面に有効だ。
反対に意識的なものは効果を実感しやすいため、精神面に有効である。何か嫌なことがあったとき、一仕事終えた後などにゆったりとした時間を過ごす。これこそ意識的な休息である。
もちろん休息の取り方は人それぞれである。ある人にとっては労働になることでも、ある人にとっては休息になることがしばしばあるとかないとか。
生物が休息を取るとき、全てを一纏めに行いはしないし、一つのみを選んで行いもしない。意識が覚醒状態で気絶してます、とか言われても意味が分からないだろう。
生物は上記の要素から必要な要素を選んで休息を取るのだ。もしかしたら、何気ない時間が無意識的な休息になっているのかもしれない。
つまり俺が今取っているものも休息なのだ。豊かな緑の上に置いたイスに座り、激しめの音楽を聴きながらおいしい紅茶を飲む。
上を見上げれば、雄大な空が広がっている。聞くところによると、昼間の空の色は太陽の光のうち特定の光だけが目に入ってできているのだとか。
あぁ。今日も空が青い。
「いやいや、ちょっとちょっと!そろそろ手伝ってくれないかな!?」
なんだ、せっかくいい気分だったのに。
優雅にくつろぐ俺を邪魔したのは、最近聞きなれ始めたシドの声と剣が硬いものにあたる高い音。
王都を出発した俺たちは、次の目的地である商業都市に向かっていた。その道中、魔物に遭遇した。
俺は動き回るシドとアルミリネに向かって言った。
「俺が手を貸したら意味がなくなるだろ。頑張れ。」
「鬼!悪魔!」
おっと手が滑った。
シドが余計なことを言うので魔法を誤射してしまった。
「ちょっ!?今こっち狙わなかった!?」
「気のせいだ。手元が狂っただけだ。」
「嘘だッ!」
「シド!こっちに集中してください!」
勇者パーティーに加わるときに、俺はある条件をだした。
『俺は極力手を貸さないこと』
あの二人はこの条件を吞んだ。つまり、今俺が手を出すのは条件に抵触するのだ。
2人が戦っているのは、なんかでっかいやつ。
いや、適当に言っているわけではない。そうとしか形容できないのだ。無理矢理表現するならば、大型の熊、蜂、蛇を足して割ったような姿。意味わからん。
そのよく分からんやつだが、実を言うとあの二人にかかればすぐに倒せるぐらいの強さだ。……本来は。
シドが体の節を切りながら、器用に叫んだ。
「レイ!君、コイツに何かしたでしょ!コイツ、異常に硬いんだけど!?」
もちろん。
「それはそうだろう?そのままでは相手にならない。鍛えられないだろう。そのレベルを倒せないようじゃ、魔王討伐は永遠に無理だ。」
「だからといって限度がありますよ!」
今度はアルミリネが叫んだ。こっちも状況を見て支援をしなければならなず、忙しいはずなのだが。
ちなみに魔王がどれくらいの強さなのかは知らない。
20分後。
やっとのことで魔物にとどめを刺した二人は、その場に寝転がった。
イスなどをしまった俺は二人に近づき、宣告した。
「お疲れさん。じゃ、出発するぞ。」
「ちょっと待って。」「ちょっと待ってください」
「なんだ?」
ゆっくりと起き上がった二人は目を細め、まくしたてるように言った。
「ちょっとぐらい手伝ってくれてもいいじゃないか!おかげで死にかけたんだからな!?どう考えても実力不足の僕たちにやらせるな!」
「そもそも何で魔物に強化を!?確かに、鍛えていただくことには感謝しています。ですが!私達が危うくなるまでやらせないでください!」
えー。ちょっと強化魔法盛っただけなのに。
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【あとがき】
しれっとクリスマスSS公開してます。どこにあるかは察してください。
物好きな方はどうぞ。
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