第33話 運試し (修正版)
パチパチ、とゆっくり手を鳴らす。
「驚いた。びっくりするぐらい強くなっている。まさか防がれるとは思ってなかったぞ。そのうえ、あの連携は素晴らしい。誇っていいぞ。」
俺が講評すると、勇者が力なく返してきた。
「はは……。こうなったのは誰のせいだと……。驚いたのは僕らもだよ。」
「うん?それは?」
勇者と聖女が顔を見合わせ、声を揃えて言った。
「「怒ったレイが、殺される前にもとに戻ってくれた……!」」
あほなことを言い出すので、呆れ声で返した。
「失礼な。俺はサルになった覚えはない。そもそも、俺が勝機を失うと戻らないみたいな言いがかりはやめろ。」
非難すると聖女が返してきた。
「あの、レイさん、覚えてないんですか?一度、私たちが魔法の練習をしていて、その余波で食事がこぼれてしまったんです。その時のレイさんは……ううっ。」
「あれは怖かったね……たぶん、魔王よりも怖かった。うん、勇者である僕が断言するよ。」
いったい何のことやら?珍しくやっていた屋台で買った料理をこぼされたからと言って、剣抜いて追いかけすなんてするわけないだろう。
ひとつ咳払いして、勇者と聖女に言う。
「ともかく。よく俺の魔法を耐えきった。おめでとう。前はここまでできるようになるとは思ってなかった。」
2人にとって俺がさっき使った魔法は、対比表現になるが、子犬と大人の人間のようなもの。うまく親和できればメリットだらけだが、対立すれば一方的なものだ。
「俺はお前たちの実力を認めた。つまり興味を持った。つまr」
「僕たちと一緒に来てくれるってこと!?」
うっ、視線がまぶしい。何故か勇者の瞳に星が見えるんだが……。人間はいつからそんな多芸ない君にになったんだ?
「落ち着け。子供かお前は。」
「あ、ごめん。つい。」
「シドが過剰な反応をするのはいつものことですので。それよりも、ここで付いて来ていただけないのは話が違うと思いますが?」
「いつ俺が興味が湧いたら同行するなんて言ったんだ。あながち間違ってもないがな。」
首をかしげる二人の前で、俺は一枚の硬貨を取り出す。
「お前たちは神とやらに選ばれて勇者と聖女になったんだろ?なら、俺が同行するかどうかは神に決めてもらおうか。」
」……それって、『運試し』って言うんじゃないかな?」
「Exactly.そのとーり。」
「えぇ?」
感情乱高下マシンかお前は。聖女に呆れられてるぞ。いつも通りか。
俺は硬貨を見せながら言った。
「ほらさっさと決めろ。こっちが表、こっちが裏だ。どっちにする?」
俺が聞くと、勇者は腕を組んで悩みだした。そのまま数秒硬直すると、
「じゃあ表!」
と言った。聖女も異論はないようで頷いている。
それを見た俺は、硬貨を中間あたりに投げ、後ろを向いた。こういったことでの不正は嫌いだ。するつもりは毛頭ないが、公正さを保つため直接見ないことにする。
チャリン、という音が数度聞こえて音が聞こえなくなった後、俺は振り返り、溜息をつきながら結果を口にした。
「……表だ。」
それを聞いて勇者と聖女が飛び上がった。
「よし!」「やりました!」
勢いのまま抱き着きあって喜んでいる。アレはあとになって悶えるやつだな。
いろいろ喋っているが、その中の一つが俺の思考を引き戻した。
「ハハ!これまで耐えてきた甲斐があった!昔の僕よく頑張った!腹立つ国王ざまぁみろ!」
ん?
「腹立つ国王?」
俺の呟くが聞こえたのか、そのままの状態で勇者が言った。まだ自分たちの状態には気づいていないらしい。おもしろいからほっとこ。
「うん。実は……」
俺は今日の午前中、勇者と聖女にあったことを聞いた。
「……なるほどな。」
俺のしみじみとした様子を感じたのだろう。聖女が聞いてきた。
「何か思うところがあるのですか?」
「まあ、な。いつの時代も腐った権力者はいるもんだな、と。ふむ、よし。」
決めた。
「シド、アルミリネ。ちょうどいい。今から俺が仲間に加わった特典を見せてやろう。」
「なんだろう。そこはかとなく嫌な予感がする。それ、悪い方の特典じゃないかな?」
数分後。俺は王都から急いで逃げていた国王一行をしゅうげ……もとい、訪ねた。
勇者と聖女?担いでいったけど。快適かもしれない空の旅を楽しんでもらった。何か喚いていたような気がするが、気のせいだろう。
国王一家の護衛を秒で制圧した俺は、その場で少しだけ国王とお話しした。
奴らのそのあとは知らない。言っていいって言った瞬間逃げるように去っていった。
一息ついた俺は……二人から文句を言われた。解せぬ。
なんとか抜け出した。小動物二匹の相手はしんどい。
前途多難とはこういうことを言うのだろう。そのことを口に出すと、声を揃えて怒られた。だが、若干すっきりした顔をしていたので、本気ではないはずだ。
王都に未練なんてある訳ない。惜しいものと言えば食事ぐらいで、二人はもともと旅をしていたので準備に時間は要らなかった。旅を続けることで、新たな発見もあるだろうし。
その日のうちに王都を出発した。
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【あとがき】
第33話の修正版です。
急な方針転換、申し訳ありませんでした。
本話でレイくんが後ろを向いたのは、魔法を使っておらず、不正をしていないということを示すためです。
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