cider crown

蓮司

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「カメリア王国」

そこは中心に純白の美しい城がそびえ立つ、平和な国です。

街中も白や青の家が多く、咲き誇った白いカメリアがよく歌を歌っています。

女性は夏の空に浮かぶ積乱雲色のワンピースを身にまとい、男性は真冬の雪の結晶色の帽子を着用していることが多く、人々が綿菓子のような雲に乗って移動をする光景はこの国でしか見られない景色となっています。

この国の人々の性格は穏やかで、気候も過ごしやすく、誰もが住んでみたいと羨む場所でした。

しかし、その国の王様はちょっぴり意地悪で、いつも威張って大きな声で命令ばかり。

たまにお年寄りに悪戯いたずらをしたり小さな子供をからかって遊んだりするので、王国の人々からは少し嫌われていました。


そんな王国には魔法が使えるピエロがいました。

白と黒の縫い目がチグハグな服と涙を流す白い仮面を付けた容姿が特徴で、街の人々はその奇抜な服装のピエロを遠くからでも見つけることができました。

ピエロは芸を披露することが得意で、国中でとても人気がありました。

なかでも、空を飛ぶ皿回しや魔法で生み出す火の輪くぐり、毎秒色が変わる変幻自在のバルーン芸などの不思議な道具を使った芸が人々を魅了しました。

ですが、ピエロの素顔は誰も見たことがなく、声や髪色さえも分かりません。

そして、ピエロが現れる場所は決まっておらず、いつも突然現れては突然消えてしまうのです。

その希少性から、王国の人々はピエロに会うことができたら幸せになれると信じていました。

実際にピエロを見たという足の不自由な少女が2週間後には元気に走り回っていたり、ピエロから貰ったバルーン犬を家の玄関に飾った老夫婦の家の庭から大金が見つかったりしたそうです。

その噂はどんどん広まり、幸福を願った人々は毎日ピエロを夢中になって探しはじめました。

そして王国の人々はピエロ探しに夢中になり、だんだん仕事をしなくなっていきました。

畑の苗は枯れ果て、豚や牛は怠惰に肥え、店番の留守が多くなった市場は泥棒達の住処になりました。

街の活気は衰え、野に咲くカメリア達は歌を歌わなくなりました。


その光景を見た王様は怒ってピエロを捕まえるように兵士に命令します。

街の人々は芸を披露しているピエロを必死に隠そうとしましたが、何も知らない無抵抗のピエロはあっさり捕まってしまいます。

ピエロは王様が何故怒っているのか分からないまま、王様を笑顔にしてみせようと一生懸命に芸を披露します。

ですが、挑発されていると勘違いした王様は激怒し、周りの反対を押し切り、王国の秩序を乱した悪しき存在として潔白なピエロに死刑を宣告します。

両手を鎖で繋がれて無理やり断頭台に連れてこられたピエロ。

国の人々はピエロの死を惜しんで涙を流します。

それでもピエロはそんな街の人々を笑顔にしようと一生懸命に手を振ります。


そして、正午を知らせる教会の鐘の最期の音が鳴った時。

ピエロの頭と身体は永遠の別れを告げました。

すると、落ちたはずのピエロの頭が赤と青と黄の3つのお手玉に変わり、残された身体が水晶の目を持つ黒い大きなガラスのウサギに変わりました。

人々は恐れ逃げ回り、兵士達はウサギに槍を向けます。

けれどウサギは動じることも無く、ゆっくりと人の言葉を話し始めました。


「愚カナ人間共ヨ、後悔シテモ遅イ。

コノ三ツノオ手玉ガ再ビ揃イシ時マデ、コノ王国ハ私ガ支配スル。

オ手玉ハコノ世界ノ何処カニ隠レ、魔法デ守ラレテイル。

見ツケテココマデ届ケニ来イ。

ソシテ、コノ王国デ一番強クテ聡明ナ者ヲ生贄ニ捧ゲヨ。

サスレバ、オ前達ニ王国ヲ返シテヤロウ。」


そう言い放ったウサギの目から一粒の涙が零れました。

その雫が地面に落ちた瞬間、王国は暗闇に包まれました。

空は裂け、海は凍り、純白のカメリアは深紅の薔薇に変わり、真っ白だった城は漆黒に染め上げられてしまいました。

王国の空は黒い雲が覆い、嵐が吹き荒れます。

そして、そこら中に咲き誇った美しい薔薇の棘があっという間に王国を包み込み、とうとう誰も近付ける状態では無くなってしまいました。

平和な王国が一瞬にして誰も近づかない闇に閉ざされた亡国へと変わってしまったのです。


そして、その状態のまま千年の時が経ち、カメリア王国は地図から消えてしまいました。

ピエロのお話は幻の伝説となったのです。





𖤐⋆*。.゜𖤐⋆*。.゜𖤐⋆*。.゜𖤐⋆*。.゜𖤐⋆*。.゜𖤐⋆*。.゜






「これが、あの伝説のピエロのお手玉…。」






─────ピエロの伝説が人々の心の中から消え去ろうとしている頃、燃え盛る炎の島の端でとある青年が赤いお手玉を手にしました。

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