【完結】男爵様 このわたくしを一体誰だと思っていらっしゃるのかしら? 泣く子も笑うサファイアですわよ(作品230822)

菊池昭仁

男爵様 このわたくしを一体誰だと思っていらっしゃるのかしら? 泣く子も笑うサファイアですわよ

第1話

 「サファイア、どうして君はいつもこんなにも美しい!

 レイバンのサングラスを掛けないと目が眩みそうだ!

 君は月夜に咲く、マンゴラゴラのようだ!

 すばらしい貧乳! 僕はずっと君のような貧乳を待っていたんだ!

 初めて宮殿の舞踏会で踊る君を見た時、その微動だにしない胸を見た時、僕はその#どら焼き__・__#のように控え目な起伏に思わず「背中?」と呟いてしまったほどだ!

 気絶して椅子からずり落ちるところだったよ!

 我が家の執事、アンドレの胸よりも緩やかなこの胸、僕は君なしではもはや歩くことさえ出来やしない!

 愛しているよ、サファイア!」

 「うれしいわレイモンド。私はあなたがてっきり巨乳好きだとばかり思っておりましたのよ。おほほほほ

 よろしくて? このささやかなレーズンがちょこんと乗ったようなこのバスト77?のパイオツでも?」

 「何を言うんだ、サファイア!

 僕が巨乳好きだって? それは誤解だよ、六回だよサファイア! どれだけ貧乳の女性が感じ易く悶え易いか? 君も僕も十分に知り尽くしているはずではないか!

 そもそもパリコレのスーパーモデルに巨乳は存在しない。優秀な女子バレーボールの選手もそうだ!

 巨乳は牧場にしかいないのさ!

 いったい誰がそんなデマを? 僕が巨乳好きだなんてとんでもない!」

 「執事のアンドレが言っていたの。「ご主人様は巨乳がお好きなのです」って。

 わたくし、それを聞いた時、我が家からロンメル将軍がお使いあそばした、タイガー戦車と88ミリ砲でこのお城もろとも吹き飛ばして差し上げようかと思いましてよ。オーッホッホッホッツ!」

 「おのれ小癪なアンドレの奴めー!

 イケメン執事の分際で、よくもホントのことをベラベラと!

 守秘義務を忘れ、個人情報を漏洩させおってー!

 ちょっとばかし金髪サラサラヘアで瞳がエメラルドのように美しく、まるでダビデ像のように鍛え抜かれた鋼のような肉体を持っているからといい気になりおってー!

 今宵、たっぷりとお仕置きしてやるからなあー! 覚悟しておれ! アンドレめ!」

 「でもよかった。男爵様が貧乳をお気に入りだなんて。

 ホント、どこが良いのかしらねー? デカ乳オンナなんて。

 重くて肩は凝るし、それに歳を取れば見るも無惨に垂れ下がって来ようというものを。

 感度は悪いし、なんだかバカそうにも見えるわよねー? ブラだって探すのが大変。ああよかった、わたくしは貧乳で本当に良かったわ!」

 「コラコラ、サファイア。そんなに巨乳を悪く言うものではない。

 あの乳に顔をうずめてみたい男など、星の数ほどいるのだからな?

 それにパイズリは男の夢だ、憧れなんだ!」

 「今、なんと仰いました? 顔をうずめてみたい? パイズリは男の夢?」


 みるみるサファイアの顔から血の気が引いていった。

 サファイアの顔面は蒼白となり、怒りに震えた。ブルブルブル

 

 「落ち着け、落ち着くんだサファイア!

 僕は一般論を言ったまでだ。

 僕がそう思っているのではない。それは皮を被った未熟な包茎男子の戯言だ!

 そんな奴は東京上野クリニックにでも行けばよいのだ!

 そんなに巨乳が好きなら、そやつらは牛舎のホルスタインの乳絞りの手伝いでもしておればよい!

 男爵たるこの私を、そこらへんの童貞野郎と同じに見ては困る! 実に不愉快だ!

 それとも君は、僕がただの巨乳好きの変態エロ男爵だとでも思っているというのかね! このデカチン・レイモンドのことを!」


 サファイアの顔が元の美しい色艶に戻った。

 あー、良かったー。


 (ちなみに筆者は貧乳が好きである)

 


 「ごめんなさいレイモンド。わたくしはあなたを愛しているのよ、誰よりもずっとずっとあなたが大好きなの。

 もちろん奥様よりもわたくしの愛は負けはしないわ。とても強い愛なの。この胸を開いて見せてあげたいくらい。

 でも私は2番。2番でいいのよレイモンド。

 あの蓮舫と同じ、2番でいいの。

 いえ、2番#が__・__#いいの。

 欅坂46のセンターなんか望まないわ。

 私にはあの子たちがみんな同じ顔、同じ巨乳に見えてしまう。

 さあ抱いて、この貧乳のわたくしを!

 存分に召し上がれ、レイモンド!」

 「ありがとう、サファイア。

 僕は君のその貧乳を、誰よりも愛すると誓うよ!」

 「レイモンド!」

 「おお、サファイア!」



 だがここだけの話、レイモンド男爵の奥方はバスト120?、その名もホルスタイン男爵夫人と囁かれていたほどの巨乳であった。

 ここだけの話である。絶対に言っちゃダメだよ。



 女好きのレイモンド卿には側室が46人もいた。

 今のサファイアのランキングは、オリコン調査によると19番目という極めて中途半端なところにいた。

 どうなる、サファイアの今後のランキングは?


 果たしてレイモンド卿の寵愛を、サファイアは独り占めすることが出来るのだろうか? 

                                          


第2話

 宮殿の真鍮磨きをしているアンドレにサファイアは#いちゃもん__・__#を付けた。



 「ちょっとアンドレ、レイモンド卿は巨乳好きだなんて一言も言っていないって言ってたわよ!

 私のような貧乳が好きなんですって!

 出鱈目を言うのもいい加減にして頂戴!」


 するとアンドレは少女漫画に出て来る憧れの男子のような顔でサファイアに振り向くと、


 「そうですか? 男爵様がそう仰るのならそうなんでしょうね?」


 と、さらりと言ってのけると再びブラスワークを続けた。


 「何よその言い方。ムカつくー!

 謝りなさいよ! 「巨乳好きという嘘を吐いてすみませんでした」って!」

 「なぜ私があなたに謝らなければならないのですか?」

 「あんたねえー、ちょっとくらいハンサムでジャニーズ顔だからっていい気になっているんじゃないわよ!

 普通の女子ならいざ知らず、わたくしを誰だと思っているの!

 私はレイモンド様一筋なんですからね!

 そんな輝く眩しい白い歯で笑ってもダメよ! 何よその金髪サラサラヘアは!

 誰があんたみたいなイケメンに抱かれたいなんて思うもんですか!

 バカにしないでちょうだい! それは・・・、それはちょっとはステキかもしれないけど、アンタなんかに抱かれたいと思うほど、わたくしはオバサンではなくてよ!」

 

 サファイアは通常モードではドSだったが、ベッドではドMだったので、そっけないアンドレの態度に胸キュンとなるのを必死に抑えていた。


 「侯爵令嬢。お褒めの言葉に預かり光栄至極にございます」

 「だからー、謝れってんだよ、このイケメン黒執事!」


 するとアンドレはその輝く金髪を、ちびまる子ちゃんの花輪君のように跳ね上げてこう言った。


 「謝りませんよわたくしは。それは事実だからです。

 ご主人様のご正室はバスト120cmの巨乳。

 そして他の側室たちも、あなた様以外は全てバスト90cm以上でございます。

 しかも男爵様のご趣味は、牛舎のホルスタインの毎朝の乳搾り。

 いえ、正確にはそのまま直にお乳を召し上がっておいでです。

 チューチューと卑猥な音を立てながら。

 旦那様の愛された女性で慎ましやかなオッパイ、78cmのブラいらずのバストは、もはやオッパイとは申しませません。

 それは板、胸板と言うのですよサファイア様」

 「くうーっつ! 言わせておけば良くもわたくしが一番気にしていることをいけシャアシャアと!

 誰か、誰か斬鉄剣を持って来て頂戴!

 このイケメンの首をサロメのように叩き切ってお盆に載せてあげるから!

 ついでにアベサダみたいにコイツのデカチンコもチョン切っちゃうからあ!」

 「サファイア様、ではこう考えてはいかがでしょうか? 貧乳でも愛されている私は凄いと」

 「んっ? ま、まあ、そうとも言えるかもしれないわね?」

 「ただもうひとり、男爵様からご寵愛をいただいてる貧乳、というより胸板の者もおりますゆえ、その者とサファイア様は恋のライバルでございますね? 負ける気はしませんが」

 「んっ? 今なんて言った? なんかどさくさに紛れて凄いこと言っちゃってくれたような気が。

 負ける気がしないって、アンタまさか? レイモンドとBL関係なの! 男爵様が執事のアンタと?!」

 「では次の仕事がございますので失礼いたします」


 気になる。執事のアンドレがレイモンドの愛人? ラ・マン?

 そんなのイヤ! 絶対にイヤ!

 でも確かに信長と森蘭丸の関係もあるしなー。

 前田利家も男色だったと言うし、強い戦国武将は美男子がお好きだというわよね?

 そしてレイモンドもそうなの?


 イヤイヤ、絶対にそれはイヤ!

 見てらっしゃい、アンタみたいな女よりも美しいオトコになんか負けるもんですか!



第3話

 「きゃーっつ! 男爵さまー!」

 「ステキ! お姫様だっこしてー!」

 「男爵さま~♪ わたくしの100センチパイズリ砲はいかが~♪」

 「抱いてーっ! レイモンドさまー!」



 レイモンド卿がバルコニーに現れると、この大騒ぎである。

 このオジサン男爵はジローラモの上を行くナンパ師。

 誰彼かまわず口説きまくる。

 それゆえセフレたちは45人の巨乳と1人の貧乳、そしてもうひとり、イケメン執事のアンドレの合計47名にもなっちゃったのだ。

 欅坂46どころか、AKB48マイナス1となっていた。

 ちなみにダイゴではないが、AKBとは「あんた・巨乳・バカ」という、失礼極まりない悪口を言う者までいた。

 謝れ筆者! 巨乳女子の皆様に!


 (ごめんなさい、ストーリー的に止むを得ずつい調子に乗りました。私はどちらも大好きです!)



 レイモンド男爵は今年で42才の厄年である。オッサンである。(ゴーンさんを嵌めた『ニッサン』は大嫌い)

 それなのにこれだけ多くのメス豚、おっと失礼、ヤリマン、じゃなかったビッチ? プッシー? たちにモテるなんて許せん!

 筆者もモテたい!

 

 とにかくこの16才から22才までの女子を相手に、満足させるなど絶対にありえない!

 作者ですらやり方そのものを忘れてしまったというのに、どうやるんだっけ? 濃厚接触。


 


 バルコニーで手を振るレイモンド。


 「みんなー、愛しているよー!」

 

 と、投げキッス!

 その光景はまるで牧場に放たれたホルスタインを見ているようだった。

 徳川の大奥なんて問題外。おばさんや尼さん、いじわるな腰元もいない。

 22才が最年長。

 そう、サファイアだけがオバサンだったのである。


 AKB48マイナス1のメンバーたちからは、


 「なに? あのオバサン、ウザいんですけどー」

 「マジ、ウザい。消えて」

 「更年期のババアはすっこんでろっつうの。このすっとこどっこい!」

 「貧乳!」



 あんなにかわいいアイドルが、本音はこうなっちゃうの?

 だが流石にサファイアも負けてはいない。


 「何よアンタたち! これが大人の女性の魅力というものよ。

 おどきなさい! このオシッコ臭いガキどもが!」


 するとレイモンドが言った。


 「コラコラ、私のかわいい子猫ちゃんたち、喧嘩はいけないよ。みんな仲良くしてね。

 みんなは僕と竿姉妹なんだから、アハハハハ」


 口惜しいがこの男爵、超カッコイイ。

 ダンディ、髪の毛フサフサ、腹筋は6つに割れて身長185センチ。

 やさしくて大金持ちでチンコもデカイ。

 しかも靴下を履かないで靴を履いている。いつも素足。石田純一みたい。

 

 (余談であるが、石田純一がたまにやって来るクラブのチイママのカオリンも言っていたけど、本当に革靴に素足だったそうだ)

 


 天はこの男にいったい何物を与えるのだろうか?

 恒例の朝のご挨拶とホルスタインの乳絞りを終えたレイモンドはどこかへ消えた。

 あれれ、男爵はどこへ行った?


 


 宮殿の広大な敷地の外れに、何やら怪しい建物の煙突から強烈な悪臭が放たれていた。

 まるであの缶詰、シュールストレミングを煮詰めたような酷い匂い! 死んじゃいそうなくらい臭い! 鼻が曲がりそうである!



     関係者以外 絶対立入禁止だかんね! 

       

              魔女 ジャネット



 と、黄色い看板が立っていた。

 まるであのうやむやになった国会議員の「さつき」の看板よりもデカイ。だから相当デカイ! 

 人相の悪さは元夫の舛添要一とドッコイドッコイである。

 人柄は人相に出るものだ。


 さて中を覗くと、なんとそこには牛のホルスタインがいるではないか!

 しかもその牛、楽しそうに歌いながら何やら作っている。


 

 「キングコブラに麝香鹿~♪ いぶりがっこにマヨネーズー♪

 キムタクちん毛にゴリラの鼻クソ~♪ イエーイ! ぞうさんのお鼻に赤サソリ~♪

 ユンケル3本ちょと入れて~♪ あとはマムシに高麗人参ーーー♪

 最後に仕上げはオットセイ! ヒュウヒュウ♪」

 「相変わらず、凄い匂いだな? ミス・ジャネット?」


 防毒マスクと防護服の完全武装のレイモンド卿。

 まるでバイオ細菌放射能テロの特殊部隊の兵士かと思うほどだった。


 「これはこれは男爵様。今日も凄い出来ですよ。

 この『ギンギン・ゴールド69』の威力は。

 お味見してみます?」

 「ウム、どれどれ」

 

 すると大変、男爵のそれはズボンを突き破り、まるでスカイツリーのようになっているではありませんか!

 なるほど、オジサンでも元気なのはこのジャネットの秘薬のおかげだったのか!

 作者も欲しい。



 「凄いでしょ? 男爵様」

 「素晴らしい! 見てくれよ僕のコレを!

 ジャネット、君は銀河一の雌牛魔法使いだ!

 雌牛にして置くのがもったいないくらいだよ!」

 「何をおっしゃいます、レイモンド様。

 あなたこそ、宇宙一の種牡馬ですわ。

 私が魔女裁判で危うくロースト・ビーフにされるところを男爵様に助けていただいたご恩は一生忘れません。

 あの忌々しいクルエラにこんな姿に変えられてはしまいましたが、私は男爵様にこうしてお仕えすることが何よりしあわせなのです」

 「クルエラも愚かな女だ。ホルスタインとダルメシアンを間違えるとはな?」

 「いいんです、もう済んだお話ですわ。

 ささ男爵様、出来立て一番絞りをお持ち下さい」


 ジャネットは怪しい茶色の小瓶にそれを詰めるとレイモンドに渡した。


 「ありがとう、ジャネット。

 いつか君にかけられたその呪いを僕が必ず解いてあげるからね?」

 「そしたら男爵様、それで私を思い切り突いて下さいね? 雄牛のように激しく」

 「ああ、任せなさい、何度も天国へ送ってあげるよ! ゴーゴー・ヘブン!」


 レイモンドはそう言って、ジャネットの巨乳に頬ずりをして帰って行った。


 つくづくこの男、巨乳好きである。

 ちなみに作者は断然「貧乳派」である。貧乳、最高! 貧乳、バンザイ!

                                


第4話

 宮殿には多くの巨乳の女たちで溢れていた。

 それはまさに牧場のようであった。

 Fカップ、Gカップ、Hカップ。Iカップにワンカップ大関・・・、えーい面倒だ! とにかく巨乳だらけで大きな城が乳臭くなっていた。


 ちなみに筆者は牛乳が苦手である。

 母乳はもっと美味しくない。

 子供が生まれた時、奥さんが乳腺症等にならないようにと、毎朝奥さんの乳絞りが筆者の日課であった。

 色気もそっけもなく、本当に酪農家みたいだった。

 そのお陰で子供たちは風邪などもあまりひかず、丈夫に育ってくれた。

 母乳で育てるのはやはり免疫になっていいらしい。


 「たいへんだなー、酪農家の人たちって」


 ある日、いつものように母乳搾りをしていると奥さんが言った。


 「飲んでみる?」


 恐る恐るペロッと舐めた。


 「うへっ、ナニこれ? こんなのこの天使が飲んでんの?」

 「そうだよ、これは血液の一種なの」

 「するとこの天使はドラキュラか? 欧米かっ!」


 でも美味しかったらそれもまた問題である。

 なぜなら子供と取り合いになってしまうからだ。

 

 「あっコラーッ、そんなに飲んだらパパの分がなくなるだろーが!」


 と、赤ちゃんと仁義なき母乳争奪戦になるかもしれない。

 待てよ、オッパイはふたつある。

 仲良く半分こして飲めばいいのか? あはははは。


 いっぱい奥さんにお酒を飲んでもらってカルアミルク、なんちゃって(バカ!子供に駄目だろうが!)


 朝4時起床、そんなしあわせな時もあったなあ。

 なんで離婚しちゃったんだろう?

 それはさておき宮殿では・・・。



 庭のkioskでひときわ美しい女性がひとり、優雅にアフタヌーン・ティーを飲みながら、筆者の小説を読んでいた。

 

 「素晴らしい小説だわ」


 と言ったかどうかは定かではないが、シルクのドレスに金のブレスレット。そして『紅の豚』のジーナみたいに憂いのある横顔と120センチの巨乳。

 そう、正室ローレライだった。


 「あのー、もしかして男爵夫人のローレライ様ではありませんか?」

 「あなたはどちら様? AKB48マイナス1の方かしら?」

 「ええ、まあそうです。貧乳ですけど」


 すると夫人はサファイアの胸を一瞥し、口に手を当てて大声で笑った。


 「失礼ね! ひとの貧乳を見て笑うなんて!」

 「ごめんなさいね? あまりにもペチャパイだったものだからつい。あなた噂のサファイアさんね?」

 「噂通りのペチャパイ?」


 この美熟女、こんなきれいな顔をして中々キツイことを言う。

 こんな女上司がいれば給湯室で涙する女子社員がいるのも十分頷ける。ウンウン

 でもそんな時こそチャーンスである。


 「どうして泣いてるの? お局に何か言われたのかい?

 悩みがあるなら僕が聞いてあげるよ。

 どう? 今夜、びっくりドンキーで食事でも」

 「きくりんさん・・・」


 そしてその場でハグ。


 「ヨシヨシ 僕が春日局かすがのつぼねから君を守ってあげるよ。食事が済んだら静かな場所でゆっくり話を聞こうじゃないか?」


 そしてカリーバーグディッシュを食べてラブホへGO! 

 あれれ、また話が脱線しちゃった。ゴメンナサイ。




 「貧乳は余計です! 奥様ほどはありませんけどこれでも感度はいいんです!」

 「あらごめんなさい、なんだか嫉妬しちゃって。

 レイモンドがこの貧乳のあなたも抱いたのかと思うとつい。

 どう? 一緒にお茶でもいかが?」

 「ありがとうございます」


 ローレライと私はなぜかウマが合った。

 本妻と愛人なのに。

 そしていつの間にか私たちはお互いをファースト・ネームで呼び合う仲になっていた。

 


 「へえー、それでその彼とはどうなったの? サファイア?」

 「それが聞いてよローレライ。私の親友に寝取られちゃったのよー。

 彼の屋敷にアポなしで突然行ったらね? ベッドでギッコンバッコンよ、おもいっきりふたりをグーで殴ってやったわ!」

 「えっー、最低ー! その元彼とその女! 許せない!」

 「そうなのよー、もう最悪! クズよクズ! あいつも良子もクズ!

 ロクデナシで最低最悪!

 そうでしょう? 親友の彼氏だよー? そう思うでしょう? ローレライも?」

 「まるで今の私みたい・・・」


 ローレライは急に寂しそうな顔になり、両手で包んだティーカップを見詰めた。


 (あっ、しまった! やっちゃったー)



 (そうだよね? 考えてみればそれが45人の巨乳アイドルと貧乳の私、そしてアンドレと旦那が毎晩とっかえひっかえだもんね?)



 「ごめんなさいローレライ・・・」

 「ううん、いいのよサファイア。あなたのせいじゃないわ。私が男爵から愛されていないだけ。

 私こそごめんなさいね? あなたも思うでしょ? だったら別れちゃえばって。

 でもね、それは出来ないの。私もあの人を愛しているから。

 私も彼に愛されたい・・・。

 でも私はもう男爵に抱いてもらえないの。愛されてはいないのよ」


 ローレライの瞳から、ダイヤモンドのような大粒の涙が零れた。


 「ローレライ・・・」

 「あんな女にだらしない人だけど、いいところもたくさんあるのよ。

 でも良かった、あなたとお友だちになれて。

 何て言うのかしら? 私たちみたいな関係。ママ友じゃないし・・・」

 「ライバル! 恋のライバルだよ、ローレライ!」

 「ライバル?」

 「そうだよ、だって私たち男爵様の大ファンだもん!」

 「サファイア・・・」

 「負けないわよ、私。たとえ貧乳でもテクニックだけは自信があるんだから。

 乳首をペロペロしながらアソコをゴシゴシ。

 今度、教えてあげるね?」

 「いいの? そんな大切な秘技を私に教えても?」

 「いいのいいの、他にまだたくさん奥技はあるから安心して。「天駆ける龍の煌めき」とかもあるし」

 「なんだか『ウイロウに剣心』みたいね?」

 「私たち友だちだもん。ライバルだけどね?」

 「ねえサファイヤ。お茶じゃなくてお酒にしない?

 私のお部屋で?」

 「いいともー!」



第5話

 「何がいい? お酒なら『やまや』に負けないくらいあるわよ。

 ワインにブランデー、ウイスキーにウォッカ。テキーラにラム酒、カルバドスにシェリー酒、大吟醸も冷えてるわよ。ここにはどんなお酒もあるんだから。

 全部飲んでもいいのよ、遠慮しないでちょうだいね?」


 ローレライの部屋はまるで酒屋さんのようだった。


 「ローレライはお酒が大好きなのね?」

 「お酒、大好き。

 だって嫌なことを全部忘れさせてくれるでしょ?」

 

 (ローレライは男爵の浮気で心を病んでいるのかしら?

 なんだか複雑。ローレライは美しく、やさしい巨乳なのに。

 こんな理想の奥さんがいるのに、どうして男爵は満足しないんだろう?)


 「ねえ、こんなのどうかしら? 『スピリタス』っていうアルコール度数が96%というウオッカもあるけど」

 「いえいえ、普通のでいいよ、普通のお酒で。アルコール消毒するわけじゃあるまいし。あはは」

 「そう?、じゃあテキーラにしましょうか?」


 テキーラ? なんだかヤバイ感じなんですけど。



 ふたりの酒盛りが始まった。

 ザギンの高級クラブのママと歌舞伎町のナンバーワン・キャバ嬢の飲み会である。

 是非とも作者も参加したい!



 「あー、楽しい! サファイアと飲んでいるとお酒が美味しいわあー。

 このベルーガのキャビアも美味しいわよ、食べて食べて」

 「ありがとうローレライ。もう、最高! 私たち、仲良し姉妹みたいだね?」

 「ホント、サファイアは食べちゃいたいくらい、かわいい・・・」


 酔ったトロンとした目で私の頬に触れるローレライ。

 すると、ローレライが私に少し強めのキスをして来た。ディープなkissを。


 (んっ? 何、この感じ? いやじゃない・・・。

 レズビアンの素質があるかどうかはキスでわかるというけれど、私もレズビアンなの? 女性が好きなの?)

 

 ようやく唇を離すとローレライは言った。



 「サファイア、女同士は嫌い?」

 「経験がないからわからないよ。今までは男ばかりとして来たから」

 「してみない? 私と? さあ、ベッドに行きましょうか?」




 煌びやかな天蓋付きの大きなベッド。

 ローレライはその場に服を脱ぎ捨てた。


 「さあ、サファイアも脱いで。それとも私が脱がしてあげましょうか?」


 (ローレライにどんどん脱がされていく私。

 でも、身体のチカラが抜けて抵抗できない。なんでなの? どうしてなの?)


 サファイアはお酒の酔いと彼女のキスでメロメロにされていた。



 「ローレライの綺麗なカラダ。そして羨ましいほどの巨乳」

 「あなたも綺麗よ、サファイア。

 まるでオチンチンのない男の子みたい・・・」

 

 ビクン


 ローレライに私の乳首をチロチロと舐められ、思わず声が出てしまった。


 「あんっ、ダメよローレライ・・・」

 「大丈夫、私に任せて。ほら、だんだん良くなって来たでしょう? 私のことも触ってもいいのよ」

 

 私はローレライの胸に触れた。

 それはまるで大きなマシュマロのように柔らかい。


 「そうよ、そう。もう少し強く揉んでみて」

 「こ、こう?」

 「もっと強く」

 「こんな感じ? いつもは揉まれてばかりだから(揉まれるほどないけど)」

 「そう、そんな感じ、あんっ!」



 (どうしよう、どんどん濡れてきちゃうんですけど。

 ダメよ、いけないわレズなんて。私にはレイモンド様が・・・。 あんっ

 でも、これ、いいかも。

 女同士だからどこをどうされたいかが良く分かる。

 あんなことやそんなこと、こんなことやあんなことも。ああダメ、感じちゃう!)



 するとローレライは私の潤っているそこに顔を近づけた。


 「あらやだ、サファイアったらもうこんなになっちゃって。はしたない子ね? うふっ かわいい」


 (ダメよダメ、のだめカンタービレ! ローレライ、そこはダメ。あっ)


 



 私にはそれからの記憶がない。

 気が付いたらローレライがまるで大天使ミカエルのように美しい寝顔でスヤスヤと眠っていた。

 

 (すごくキレイ・・・。ごめんね、ローレライ。

 やっぱり私は男爵様が好きなの・・・。男が好き)



 サファイアとローレライ、レイモンドとアンドレ。

 どうなっていくのだろうか? この4人の関係は? そしてそれぞれの想いとは?

 

 それは筆者である私にもまだわからない。

 作者なのに。


 そういえば以前付き合っていたインテリ女は反社の極妻に惚れられて、そのヤクザと3人で3Pをしたと言っていたっけ。

 俺も参加したかったなあ。(失礼)

 だってその極妻、元六本木のクラブホステスのナンバーワンだったんだよ。どうして知ってるかって?

 こっそりその極妻としちゃったからだよ。


 アブナイアブナイ。あぶない刑事デカ

                               


第6話

 そんなことや、あんなこともして、私とローレライは更に仲良しになった。


 女子高だったのでよく女子から告白されたけど、その頃は男に夢中でヤリまくりだったからなあ。

 もしもあの時、女の良さを知っていたら相良直美か勝間和代になっていたかも。

 ローレライは私を妹のように可愛がってくれた。



 「サファイア、ダージリンのお替わりはいかが?」

 「ありがとうローレライ、いただくわ」

 「ねえ、この後、森へ野イチゴを摘みに行かない?」

 「野イチゴ? 歩くのヤダなあ、疲れるし、ダルイしー」

 「ダメよ、たまには運動しないと」

 「運動してるじゃん、いつもベッドでローレライと」

 「もう、サファイアったら。ふふっ。

 イチゴをたくさん獲って来て、苺ジャムを作りたいのよ。

 私のおいしい苺ジャム、サファイアにも食べさせてあげたくて」

 「ジャムなら『成城石井』で買えばいいじゃん」

 「食べ物はね、ただ口に入れればいいという物ではないわ。

 たまにはそれを作って下さる作り手のご苦労を感じることも大切なのよ。

 ひとつのおにぎりだってそう。セブンイレブンで買うあのおにぎりだって、どれだけ多くの人たちが関わっているか? サファイアは考えたことある?」

 「そもそも私、コンビニって生まれて今まで行ったことがないし、そういう食べ物があるのは知っているけど食べたことないもん」

 「たとえばの話よ、たとえばの話。

 いいこと、サファイア。ひとつのおにぎりを作るのに、まずお米を作るでしょう? 農家の人たちが苗を植えてお米を作る。

 雨の日も風の日も嵐の日も熱中症になってしまいそうな夏の炎天下でもお米を作って下さるの。 

 ゴールデン・ウイークだってディズニー・シーにも行かずに、ダッフィーちゃんやシェリー・メイちゃんとの握手も出来ずに家族総出で田植えをし、そして秋には稲刈り。

 あの一個のおにぎりを作るためにお風呂一杯分のお水がいるそうよ。

 そしてその収穫したお米を精米して、今度は時給850円のパートのおばちゃんや年金暮らしのお爺ちゃんたちがおにぎりを工場で作ってドライバーさんがコンビニへ運ぶの。

 おにぎりに巻く海苔だってそう。たくさんの手間がかかっているわ。

 鮭のおにぎりなんて、漁師さんたちが「獲ったどー!」ってよい子の浜口みたいに叫んで獲って来てくれた物よ。  

 命がけでね?

 だから何でも感謝して食べないといけないわ」

 「でもさー、森まで歩いて行くのイヤだよー、疲れるし日焼けしちゃうしー」

 「それなら大丈夫、セグウェイで行くから。

 それにメイドのキャンディもつれて行くから」

 「それなら行ってもいいけど。でも苺は獲らないわよ、手が汚れちゃうから」

 「もー、サファイアったら。あはははは」


 そう言ってローレライは口に手を当て、鈴が鳴るような声で笑った。





 サファイアとローレライ、そしてメイドのキャンディの3人は、セグウェイで森へ向かった。

 


 「はじめましてサファイア様、メイドのキャンディです!」

 「こんにちはキャンディ。よろしくね?」


 メイド服の似合うキャンディはとてもチャーミングな女の子だった。しかも巨乳。

 この宮殿には巨乳しかいないのかっつーの! まったくもう!


 

 「キャンディはね? アキバのメイドカフェで私がスカウトして来たの。かわいいでしょ?」

 「ええまあね。私よりは劣るけど」

 「あら妬いているの? サファイア?」

 「そ、そんなことないわよ、ただ事実を言ったまでよ」

 「そんなサファイア、好きよ」




 ようやく野苺の群生地に辿り着いた。

 眼下に広がる見事な野イチゴ。



 「わー、凄く甘いイチゴの香りー!」


 私は息を飲んだ。


 「ねっ? 凄いでしょ? それじゃあ私とキャンディはイチゴを摘んでくるからサファイアはここで待っていて頂戴」

 「やっぱり私も一緒に行くーっ!」




 一粒、イチゴを頬張ると、眼の前がピンクに染まるほどの甘さが口いっぱいに広がった。

 そしてなんていういい香り!

 私は夢中でイチゴを食べては摘み、摘んでは食べた。


 「たくさん獲れたわね? さあ、お城に帰って苺ジャムを作りましょう」




 するとそこに、何やらイチゴを夢中で食べている大きな象亀がいた。


 「ウマい! なんてうまいイチゴなんじゃ! ムシャムシャ」

 「亀さんもイチゴ好きなの?」

 「イチゴが嫌いな奴などおらんわい! ムシャムシャ」

 「そうね? 私もイチゴ大好き!」



 ローレライはその亀とは知り合いのようだった。


 「亀次郎さん、お久しぶり。あの時は本当にお世話になりました。お元気そうで何よりですわ」

 「おお、これはこれはローレライ様、ご機嫌うるわしゅうございます。

 その後、お変わりはござらんか?」

 「おかげさまで息災です」

 「それはよかった。して、あの嫁いびりの酷かった姑の奥方は今どうしておられます?」

 「特別養護老人ホームで楽しくカラオケをして暮らしているようですわ。Z-JAPANとかを歌って」

 「酷いお姑でしたからのう? あのお人は」

 「もうお願いすることはないとは思うけど、その時はまたお願いしますね?」

 「はい、いつでもお申し付け下され。

 ただし、私も今年で1,287歳になる老亀ですゆえ、いつお迎えが来ますやら。

 そしてこのとおりの「のろい亀」ですのでご了承下され」

 「わかっているわ「呪いの亀次郎さん」、ではごきげんよう」

 「ごきげんよう、ローレライ様」


 呪いの亀次郎? 私はローレライに尋ねた。


 「ねえローレライ、さっきのゾウガメはなんなの?」

 「呪術師の亀次郎さんのことかしら? あの亀次郎さんに呪われたら最後、無事でいられた者は誰もいないの。

 『呪のゴルゴ亀次郎』とも呼ばれているわ」

 「呪術師? あの亀爺が?」

 「サファイア、言葉を慎みなさい。

 あのゴルゴ亀次郎は凄い人なのよ。

 ケネディ大統領も宮迫博之も森喜朗もみんなあの人の仕業で窮地に追い込まれたのよ。

 まあ、頼まないのには越したことはないけど。

 でもどうしても殺したい奴っているものでしょう? サファイア」


 ローレライの笑っていない眼に私はゾクッとした。

 

 (こんなやさしい彼女にも、殺したいほど憎い人間がいるってことなのかしら?)



 するとローレライはお姑さんに呪をかけることを亀次郎に依頼したことになる。

 このやさしいローレライがそこまでするにはおそらく、マリアナ海溝よりも深い理由があったはずだ。


 サファイアは『ゴルゴ亀次郎』に興味を持った。 



第7話

 サファイアは出来たての苺ジャムをカマンベール・チーズを乗せたクラッカーにたっぷりと乗せて食べていた。


 「美味しいーっ!(両足をバタバタさせて)美味し過ぎて死んじゃうー!」

 「それはよかった。リッツでも美味しいけど、私はこの方が好き。

 たくさん召し上がれ」


 メイドのキャンディがハロッズの『アフタヌーン・ティー・ドリーム』を淹れてくれた。


 「ありがとう、キャンディ」

 「どういたしまして、サファイア様。

 お味の方はいかがですか?」

 「とてもいい香りだわ。キャンディはお紅茶を淹れる天才ね?」

 「ありがとうございます。

 これは奥様から教えていただいたものです。奥様は私にとって、#あらゆる__・__#面での先生でもありますから」


 んっ? あらゆる面って言ったわよね? この娘。

 そう言えばこのふたり、スキンシップが多すぎる気がする。

 手を触ったり、髪の毛をいじったり。

 さっきなんか私が見ていないと思って、キッチンでローレライがキャンディの巨乳をモミモミしていたような・・・。  

 

 

 「あんっ、いけません奥様。声が出ちゃいますう」

 「ダメよ、声を出しては。

 声を出したらお仕置きよ、分かった?」

 「は、はい、奥様・・・。あん」

 「はしたない子ね? こんなにビショビショにして。うふっ、かわいい私のキャンディ」

 「だって奥様が・・・、いけません、奥様・・・、う、うっ」

 「キャンディ? この黒部ダムのような放水が私のせいだとでも言うのかしら?」

 「とんでも、あり、ま、せん・・・。うぐっ」



 その夜もローレライと私はあんなことや、こんなこと、そんなことをして楽しんでいた。

 たしかにローレライは嫌いじゃない。でも、なんか女同士は物足りない気がする。




 軽くお互いがイッた後、ローレライが信じられないことを言った。

 

 「もういいわよ、出てらっしゃい。私のカワイイ子猫ちゃん!」


 すると隣の部屋からキャンディが現れた。

 なんと、赤い縄で亀甲結びにされて。


 「さあ、これからお仕置きをしてあげるわね?

 さあいらっしゃい。私たちのところへ」

 「ハイ、奥様・・・」


 ちょっとちょっと、こんなの初めて見たんですけど。

 これ、どうやって結ぶのかしら? ローレライが縛ったの? こんな風に? どうやって?


 「どう? サファイア? きれいでしょ、この娘。

 さあ、今夜は3人で存分に楽しみましょう」

 「これってローレライが縛ったの?」

 「そうよ、他に誰が縛るというの? こんな芸術的な縄化粧を」

 「芸術って・・・」

 「あら、サファイアもして欲しいの?」

 「いえいえ、私はそこまで上級者ではないので」

 「そう、残念ね?

 貧乳、いえ、慎ましやかなお胸の方が美しく栄えるのに。ねえキャンディ?」

 「はい・・・、早く罰を与えて下さい、このビッチ、に・・・」

 

 するとローレライはどこに隠していたのか、痛そうなムチでキャンディを打ち付けた。

 風を切るムチの音。ヒューッ ビシッ!


 「あうん! ひっ! あうう・・・」


 ローレライにムチ打たれる度にキャンディはうっとりとしていく。

 うわっ、痛そう。あたしには無理だな? 絶対ムリ。



 「さあ、お仕置きはこれくらいにして、キャンディ、アレを持って来なさい」

 「はい、奥様」


 キャンディはまるでご主人に遊んでもらえるマルチーズのような表情になり、キャンディは亀甲結びのまま部屋を出て行った。

 そして持ってきたのはローレライが作ったあの苺ジャムだった。


 「痛かったでしょう? ごめんなさいね? キャンディ。

 今、解いてあげるわね?」

 「いいんです奥様。このままでお願いします」

 「いいの? 痛くない?」

 「この強い食い込みがたまらないんです」

 「じゃあサファイア、彼女にこれを塗ってあげて。赤くなったところへ」

 「え、えっー! 私がこれをキャンディに?」

 「そうよ、昔から言うでしょう「ジャムとムチ」って?」


 ローレライ、それはジャムじゃなくて「飴とムチ」だよ。


 「ごめんねキャンディ。沁みない? 大丈夫?」

 「平気です。すみませんがサファイア様。ジャムを塗る時、「このメス豚!」と私を詰って下さい」

 「いいの? そんなこと言って? このメス巨乳豚!」

 「あん、もっと言って下さい! もっと大きな声で!」

 「この巨乳バカのメス豚、腐れ○○○○!(ピッー、不適切な放送禁止用語)」

 

 そしてその塗ったジャムを今度はローレライが舐め始めた。


 「あう、あう、イッちゃいそうです、奥様! ローレライさまー!」

 「駄目よキャンディ。私たちよりも先にイッちゃ! あなたは私たちを楽しませるために雇われた、巨乳メイドなんだから。

 それをわきまえなさい!」

 「は、はい奥様。キャンディは耐えます、耐えてみせますとも!」


 といいながらもキャンディはすぐにエクスタシーの谷底へと落ちて行った。

 あらら、白目を剥いて気絶しちゃってる。

 それはそれで面白かったけど、やっぱり私は男爵様が好き。

 ああ、会いたい、レイモンド様に会いたい!



 明日は待ちに待ったお夜伽の日。あー、長かったー。


 そう、明日は人気ランキング19番目のサファイアの男爵とのベッドインが許される日。

 何しろ、47人も愛人がいるわけだから中々順番が回って来ない。


 くっそー、羨ましいぞ! レイモンドの奴めー!



第8話

 「今夜はレイモンド様と待ちに待ったお夜伽の日。長かったー。

 お食事してお酒飲んで、それからそれから、ああしてこうして、こんなことやあんなこともしちゃって。うふっ

 もうー、ヤダヤダ~!

 今日のランジェリーはこれにしちゃおーっと。

 このフリフリ、レースたっぷりシルクのパンティと、本当はいらないお揃いのブラ。

 メロンパンを2つ入れてっと、ルンルン!

 香水はDior の『Rose de rose』にしようかなあー?

 だってわたくし、「薔薇の中の薔薇」ですもの。オーッホッホッホッ」




 その日、私はいつものようにローレライと午後の紅茶を楽しんでいた。


 「サファイア、このアールグレイのシフォンケーキには生クリームをたっぷりとかけて食べると美味しいわよ。やってごらんなさい」

 「ありがとうローレライ。

 うん、とってもおいしい! まるでオッパイが落ちちゃいそう!」

 「それをいうなら「ほっぺ」でしょう? そんな貧乳じゃ落ちないわよ。あはははは」


 (誰も貧乳なんていってねえぞコラ! ローレライ!)


 サファイアは一瞬カチンと来たが今日は男爵とのエッチの日。冷静でいられた。

 なにしろ今夜はレイモンドと、47日ぶりの「合体」の日。

 多少のことは気にしない、気にしない。

 ローレライは東郷青児の絵のように、優雅に紅茶を楽しんでいた。


 「サファイア、なんだか今日はとっても楽しそうね? 何かいいことでもあるの?」


 おっとヤバイヤバイ。うっかりしゃべっちゃうところだった。

 ごめんね、ローレライ。私はあなたも好きだけど、やっぱり私はレイモンド様が好きなの。

 すっかりバイ・セクシャルにされちゃったけど、私は男性が好き。


 「だって今日はとってもいいお天気でしょう? なんだかワクワクしちゃうんだもん」

 「今日はとってもいいお天気ですものね? 悲しいくらいにいいお天気・・・。

 どう? お紅茶のお替りは?」

 「ありがとう、もう沢山。

 あれ、なんだか眠い。とても眠、い・・・。

 疲れて、んの、か、な? 私・・・」


 サファイアの手からウエッジウッドのティーカップが滑り落ち、大理石の床に砕け散った。

 崩れ落ちそうになったサファイアのカラダを抱きとめるローレライ。


 「ごめんなさいねサファイア。

 私も女ですもの、あなたの恋する気持ちはわかるわ。

 でもね? 女だから許せないの。あなたとレイモンドが愛し合うことが。

 レイモンドもサファイアも、私の物よ・・・」




 サファイアが目を覚ましたのは自分のベッドの上だった。


 「あれれ? 私いつの間に寝ちゃったんだろう。

 えっ? 今何時!

 大変、もうこんな時間!」


 時計はすでに真夜中の3時を過ぎていた。

 サファイアはレイモンド卿の寝室へと駆けて行った。


 「どうしよう! せっかくのお夜伽の日なのに!

 寝過ごすなんて最悪! バカバカ! 私のバカ!」




 レイモンド卿の寝室に着くと、サファイアは静かにドアを開けた。


 「遅くなりました~、レイモン、ド、さま・・・」


 するとそこにはとんでもない愛の営みが展開されていた。

 なんとそこにはアンドレとレイモンド卿の男性同士の営みがなされていたからだ。

 

 美しいアドニスのようなアンドレの肉体と、レイモンド卿の鋼のような肉体。

 レズビアンとは違う、甘美で麗しい男性同士の行為。BL。



 「おお、私のアンドレ。よいぞ、あの巨乳たちとは比べ物にならん締まり具合だ!」

 「レ、レイモンド様。よろしいのですか? 今日は、あの貧乳、サファイア様と、まぐわう日、なのでは?」

 「すておけ、すておけ。時間になっても来ぬあやつめが悪いのだ。

 どうだアンドレ? こちらの方の具合は?」

 「レイモンド様、もう、我慢が・・・。あうっ!」

 「私も、そろそろ来ておるぞ! アンドレーっ!」



 サファイアは初めて見てしまった。

 愛し合うゲイ同士の生々しい現場を。


 「ああ綺麗。なんて美しいのかしら? 美しい男同士が愛し合う姿って・・・」


 サファイアはその場にヘナヘナと座り込んでしまい、呆然とその光景を眺めていた。

 自分の敏感なところに手を触れながら。



第9話

 ローレライはメイドのキャンディと庭に咲く薔薇の手入れをしていた。

 

 「つっ」


 ローレライの人差し指に薔薇の棘が刺さった。

 その指を素早く口で吸うキャンディ。


 「ありがとう、キャンディ」

 「奥様の指、とても美味しいです・・・」


 ローレライはキャンディの頬を撫でた。


 「バチが当たったのね? 私。

 サファイアにあんな酷いことをしたから」



 そこへ、サファイアがやって来た。

 身構えるキャンディ。


 「奥様は悪くありません!

 お仕置きなら、このキャンディがお受けいたします!

 ムチでもローソクでも、大人のオモチャでもなんでも好きにして下さい!」


 ローレライが毅然と言い放った。


 「わたくし、謝らなくてよ」

 「謝る? 何を?」

 「だってサファイア、私は睡眠薬であなたを・・・」

 「だから何?」

 「だからってあなた・・・」

 「そんなの気にしてなんかいないわ。フォグワーツの魔法学校のイジメに比べたら、あんなのご挨拶程度よ。

 ベッドにキングコブラを入れられたり、歯ブラシにデトロドトキシンを塗られたり、そんなのしょっちゅうだもの。危うく死んじゃうところだったんだから。

 メールには「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・」なんて1万回も送り付けられて、クラスのみんなから「この貧乳!」と罵られた時には、さすがに手首にカミソリを当てようとしたこともあったわ。でも私は負けなかった。

 虐められる私にもそれなりに原因があることもあるわけだしね。

 だから私は強くなった。

 空手に柔道、相撲にキックボクシング、レスリングにムエタイ、ブラジリアン柔術とあらゆる格闘技を習得したわ。

 だから平気。やられたらやり返す、倍返しするから。

 今度はあたしがお紅茶に「笑い茸」と、バリで買ったフライング・マッシュルームでオムレツを作って食べさせちゃうから。覚悟してね? ローレライ」

 「あなたって娘は・・・。ごめんなさい、私、レイモンドに抱かれるあなたが羨ましくて、あなたをレイモンドに盗られたくなくて・・・。

 だから、だからつい」

 「私こそごめんなさい。ローレライの気持ちを知りながら、あんなことやこんなこと、そしてあそこがああしてこうなるようなことをしようとして」

 「ううん、私も前は男が好きだったからわかるの。その気持ち。そして私はレイモンドの妃」

 「ローレライ・・・。

 そんなことより聞いてよ聞いて。私、見ちゃったのよ!」

 「見ちゃったって何を?」

 「つまりそのー、男の人が男の子と、何が何して何するあれよあれ!」

 「ああ、レイモンドとアンドレのことね?」

 「えっ、知ってたの?」

 「ええ。それってそんなに驚くことかしら? BLなんてみんな好きよ。イケてる腐女子は」

 「だってさあ、男同士だよ男同士。あり得ないでしょう? 普通。どうすんのよ、文春砲にやれちゃったら」

 「だったら私たちみたいな女同士はいいの?」

 「そ、それは女同士ならいいわよ・・・、綺麗だし」

 「アンドレはとてもいい男の子よ。真面目で上品で頭が良くて、まるで池田理代子先生のお描きになるアンドレみたいじゃない?

 私は好きよ、アンドレのこと。

 だってアンドレの童貞は、このわたくしが卒業させてあげたんですもの。オーッツホッホッ」

 「ゲゲッ、ローレライがアンドレの筆おろしを?」

 「そうよ、ダメなの? 大人の女が経験のない男子を男にしてあげるのって。

 だって女のことなんか何も知らないんだから。

 今の若い子たちは彼女とも付き合わず、ゲームとAV鑑賞しか興味がないのよ」

 「でもビックリしちゃって。私、そんなの初めて見たから。

 そんなことやあんなことやこんなことを男同士がしているなんて」


 そのサファイアとローレライの遣り取りをじっと黙って聞いていたキャンディが叫んだ。


 「サファイア様は間違っています!

 女同士は良くて、男同士はキモイだなんて、そんなの偏見です!」

 「誰もキモイなんて言ってないでしょう? びっくりしたって言ったのよ、この巨乳ドMビッチ・メイド!」


 まずい、キャンディはあの天真爛漫なキャンディス・ホワイトではないのだった。ただのドM痴女。

 ヤバイ、被虐的な言葉にウットリしている!


 「私はなんと詰られようと、たとえメス豚と罵られようと、むしろそれを望みます。望みますとも!

 でも私が申しあげたいのは、



      「同じ人間じゃねえか! どうして同性同士が愛し合っちゃいけないんじゃ、ボケ!」



 そう申し上げているのでございます。

 だってそうじゃありませんか! セックスって男女だけのものなんですか!

 愛ってセックスだけなんですか? ただ手を繋ぐ、それだけでもいいんです!

 それも愛なんです!

 大昔は近親相姦など当たり前でした。同じコミュニティーで繁殖を繰り返すわけですから。

 そして食料が無い時は「食人」も行われていたのです。 

 つまり性愛とは生殖のみに非ず、愛の延長線上にあるべき行為なのです。

 それでは風俗で抜いてもらうのも、自分でするのも同じではありませんか!

 愛のないセックスなど虚しいだけです!

 日本のおバカな政治家みたいに「子供の産めない同性愛は認めん!」なんて言っているのと同じことです!

 男も女も人間です! 愛し合う権利は平等にあります!」


 サファイアは驚いた。

 ただの巨乳ドM、メス豚痴女ビッチだとばかり思っていたキャンディが、同性愛についてこんなに熱弁を奮うなんて。

 意外だった。

                                          


第10話

 アンドレはキャビネットにある、男爵のお気に入りのバカラグラスを磨いていた。


 「ちょっとアンドレ。私、見ちゃったんですけどー。

 あなたと男爵様が、あんなことやこんなことやそんなことをしているところを」


 だが、アンドレは顔色ひとつ変えることなく、サファイアを見ようともせずにグラスを磨き続けた。


 「ちょっと聞いてんの! 

 人が話をしている時はちゃんとその人の目を見て、頷きながら話を聞きなさいって、幼稚園で教わらなかった!

 こっちを向いて! 私の話をお聞きなさいよ!」

 「俺は幼稚園には行っていないからね。それに小学校中退だし。

 俺は寒い冬の夜に、マッチ売りのオバサンのマッチと交換されたんだ。マッチ箱たったひとつとね?」

 「マッチって何? 近藤真彦のこと?」

 「どうでもいいよ、そんなこと。

 君のようなお姫様にはわからないことさ。

 そしてマッチ売りのオバサンから俺を助けてくれたのが旦那様だったんだ。

 だから俺は旦那様のために生きると決めた。

 あの時、旦那様がマッチ売りに100ユーロ渡してくれなかったら、俺は今頃、歌舞伎町でローランドの店で働くか、寺田心君のようにトイレ掃除をしていたかもしれない」

 「そうだったの、かわいそうなアンドレ。

 あなたも苦労したのね?」

 「いいんだよ、俺のことは。

 それで? だからなんだって言うんだよ。ゲイは人間じゃない、妖怪人間だとでも言いに来たのかい?」

 「そうじゃないわ! それに妖怪人間はゲイじゃなくてベム、ベラ、ベロよ、ゲイじゃないわ。

 私はあなたに宣戦布告をしに来たのよ!」

 「あんた、吉本の女芸人さんか? それとも人力舎? なべプロ? ホリプロか?」

 「だからー、あんたには負けないってことよ!

 あんたみたいな見てくれだけのナンバーワン・ホストみたいな男の子にはぜーったい、絶対、接待、負けないんだから! 覚悟なさい!」

 「まあどうでもいいけど、お互いに貧乳だしね?」

 「貧乳言うな! おのれアンドレ! この黒執事! 悪魔! イケメン! 私のオッパイを男のお前と一緒にすんな、ボケ!」

 「話はそれだけかい?」

 「それだけって、あんた! ここ重要なとこですけど! 試験に出るところですけど! 何よその態度!」

 「これからジョンのお散歩があるから失礼。貧乳のプリンセス・サファイア様」

 「くっそー、貧乳言うな! バカ!」


 そしてアンドレはうっとりするような、シャネルの「エゴイスト」の香りを残して去って行った。


 「ああ、なんていい香りなの・・・」


 悦に入っている場合かサファイア!

 そこら辺の女よりも美しいアンドレにどうやって勝つというのだ? その貧乳で!

 するとそこへ、


 「ボク、クロちゃ~ん♪ ころっころ~のパンダ君~ん♪ 見かけは~♪ ちいさあなあ~♪ クマだけっどおー♪

 クルマはA級ライセンス♪ クロちゃん、どんとこい、何でも来い♪」


 サファイアの執事、レッサーパンダのクロちゃんが遊園地のパンダ号に乗って、歌いながらやって来た。



 「姫様、最近LINEも来ないからと、お父上の侯爵様が心配していましたよー。

 連絡もしないで、またスケベしてたんでしょう?」

 「あんた、今度それを言ったらその皮を剥いで帽子にしてあげるからね! それともリビングの剥製がお好みかしら?」

 「あれはアライグマ・ラスカルだよ、ボクはかわいいレッサーパンダだよ、テヘペロ」

 「何が「テヘペロ」よ! お腹は真っ黒なくせに!」

 「あっ、それセクハラだかんね!

 ボクがいちばん気にしてることをズバッと言うなんて!

 この貧乳プリンセス!」

 「言ったわねー、この包茎短小チンコパンダ!」

 「いくら姫様でも言っていいことと悪いことがあるよ! このビッチ!」

 「もう、お前はクビ! クビよ! クビ!」

 「いいのかなー? そんなこと言ってもー?」

 「何よ、そのすでに勝ち誇った顔は?

 早く教えなさいよ!」

 「どうしよっかなー? タダじゃ教えらんないなー」

 「仕方がないわねー、わたくしのブロマイドとクリアファイルを上げるわ。それとも私が1週間履き続けたパンティがいいかしら?」

 「そんなの死んでもいらないよ!

 カネだよカネ、10ユーロでいいよサファイア」

 「さすがにお腹が黒いだけはあるわね? しょうがない、ハイ10ユーロ!」


 クロちゃん執事はすばやくサファイアからお金を奪うと言った。


 「明日の晩餐会で、新しい女の子が来るんだってさ。しかもFカップのすっげー美人!

 ボク、見ちゃったもんねー」

 「それで? 名前は? 出身はどこなの?」

 「名前はエメラルド。出身は確か「さいたま国」か「ぎょうざと動物の国、地味が魅力のとちぎ国」だったはずだよ」

 「ふん、何がFカップよ。良かった「ノース・カントウ州」で。これからも何かあったら教えるのよ、わかった?」

 「アイアイサー! たまには侯爵様にも電話してあげてね

? 心配してたから」


 そう言って執事のクロちゃんはアメリカのクウォーターコインをパンダ号に入れると、また来た道を帰って行った。ノロノロと。



 「ううー、また巨乳がやってくるのかあああ! ローレライに報告しなくちゃあ! ううぉりやああああ!」

  

 サファイアはローレライのいる、サロンへと走って行った。

                                


第11話

 「ローレライ、ローレライ、ローレライ、ローレライーっ!!

 たいへん、たいへん、たいへん たいへんだよーっ!」

 「どうしたのサファイア? そんなに慌てて。

 火星人でも攻めて来たの? それとも進撃の巨人に食べられちゃうとか?」

 「もっともっと、もっとたいへん!

 AKBが、AKBが、AKB48マイナス1じゃなくなるのよー!

 本当にAKB48になっちゃうんだからー!」

 「なーんだ、エメラルドのこと?」

 「えーっ! 知ってたのー! ローレライ!

 なんで教えてくれなかったのよー! 執事のクロに10ユーロも盗られちゃったじゃないのー、勿体ない!」

 「だって47も48もそう変わりないでしょう?

 ひとり増えたところで何も変わりはしないわ」

 「だってまたライバルが増えるのよ! まったくもう!」

 「大丈夫よサファイアは。

 48分の1の希少な貧乳なんだから。自信を持ちなさい自信を」

 「それって褒めてんの?」

 「当たり前じゃないの。うらやましいわー、肩も凝らないし、ブラを忘れても平気だし。

 走っていても男子にイヤらしい眼で見られることもないし。

 それに・・・」

 「それに?」

 「感じやすいじゃない? 貧乳の方が感度良好なんでしょう?

 作者も言っていたわよ、「だから俺は貧乳が好きだ」って。

 すぐイッちゃうし、あんなことやこんなこと、そんなことしなくてもいいんだって。ラクなんだってよ。

 モデルやバレリーナはみんな貧乳だしね?

 いいなあ、貧乳」

 「まあ肩は凝らないし、感じやすいのは事実だけど。

 自分でしてもすぐにイケるしね。でもさあ、それでもオッパイが大きい方が男子にはモテるでしょ? お母さんみたいで」

 「男はみんなマザコンなのよ」

 「ねえローレライ、エメラルドってどんな娘なの?」

 「確かあの餃子とアルパカしかいない、『地味にスゴイとちぎ王国』のプリンセスで、バストはわたくしと同じ120cm。身長175cmでボンキュッボンのナイスなプロポーション。

 ハーバード卒。お茶にお華、ピアノにクラシックバレーが趣味。

 お琴に尺八、尺八といってもフェラチオじゃないわよ、あの竹の楽器。

 グリーンベレーにもいたらしいわ。

 ボンドガールにも選ばれたんですって。顔はガッキーと田中みな実ときゃりーぱみゅぱみゅとふわちゃんを足して4で割ったような顔で、性格はベッキーと小池都知事と蓮舫を足して3で割ったような最悪の性格の女らしいわ。

 そんなのサファイアの貧乳に比べたら足元にも及ばないわよ」

 「貧乳ゆうな! かわいいお胸と言ってよね!

 なんだかよくわかんないけど凄い強敵なのはわかったわ。

 とにかく晩餐会が楽しみだわ。絶対に負けないんだから!」

 「カンカンカンカン晩餐館、お肉焼いても家焼くな! サファイア。私はいつでもあなたの味方よ」

 「ありがとう、ローレライ! キャラ変わった? それとも飲んでるの?」

 「私はいつでも冷静よ。菜々緒みたいにクールビューティなんだから。

 でもあの人も物好きよねー。まさかそこまでマニアックだとは思わなかった。

 普通のお食事では満足出来ず、ライオンの焼肉とか、アルマジロの丸焼き、ゾウさんのしゃぶしゃぶ、硬そうだけどそういう物にまで手を出すようになったということなのね?」

 「それってどういう意味?」

 「気にしないで、そのうち分かるから」

 「気にしないって、余計に気になるんですけど!」

 「とにかく晩餐会へ参りましょう。さあサファイア」

 「うん」




 晩餐会は大勢の招待客で溢れていた。


 「なんでもあの餃子とアルパカしかない、動物園も閉園寸前の『地味にスゴイとちぎ王国』の王女が来るらしいぞ」

 「ほう、それはそれは。

 まさか宇都宮駅前の『餃子のビーナス』ではないでしょうな? わっはっはっ」

 「わかりませんよ、何しろ全国最下位の街でしたからね? 住むといいところなのに」


 

 司会のみの紋太郎がマイクスタンドの前に立った。


 「お腹も空いてイラついているところすみません。それではご紹介いたします。

 餃子とアルパカの地味にスゴイとちぎ王国、エメラルド王女です! 盛大な拍手をお願いします!」


 まるでキンプリでも登場するのかと思われるような演出だった。

 プルメリアの華が降り注ぎ、レーザービームにリボンバズーカ。ドッカーン!


 友情出演には首の調子がまだ悪そうなYOSHIKIとスカパラで鼓膜が破れそうだった。

 そしてエメラルドが登場して来た。



 「なんてきれいな人なの! ローレライ。私、負けちゃったかも」

 「こうして見ていると、まるで女みたいよね?」

 「何言ってんのローレライ。女に決まっているでしょう?」

 「エメラルドはね、ニューハーフなのよ。

 豊胸手術をして、あそこもチョン切って、お○○〇まで人工的に作っちゃったそうよ。信じられる?」

 「あのビンビン美容外科のコマーシャルの人みたいに?」

 「ここまで来るとタイガーウッズね? セックス・アノニマスだわ。

 うちの旦那、何を極めようとしているのかしら?」



 エメラルドがサファイアたちのところにやって来た。


 「あなたね? 読者人気投票19位という中途半端な貧乳は?」

 「うるさいわね! ニューハーフのくせに!」

 「アンタそれ、人権問題発言よ! 訂正しなさい! ニューハーフ蔑視よ!」

 「やーだんべーだあ!」

 「まあ何て貧乳なの! この恥知らず!

 私は絶対にセンターを獲るわ! 一番がいちばんになるのは当然よ!」

 「2番じゃダメなの?」

 「1番以外はみんな負けよ! All or nothing! Dead or alive!」


 あれれ、蓮舫さんと違うぞ。

 いよいよ複雑になって来ました。

 さて、どうなるサファイアの恋の行方は?

                              


第12話

 「パパー、ママー! かわゆい娘のサファイアが帰って来たよー! パーパアーっ!ママーっ!」

 「侯爵様、サファイア様がお帰りになりました!」

 「おお我が娘、サファイアよ!

 目の中に入れても痛くはないぞ! ちょっと睫毛が入っても痛いというのにだ!

 サファイアなら痛くても目に入れても良いぞ!

 マヨネーズをかけて食べてしまいたいくらいじゃ!」


 サファイアを強く抱きしめるコバルト侯爵。


 「あははは、パパ、お髭が痛いよー!」

 「すまん、すまん。

 お帰りサファイア。もうどこへも行かんでくれ、我が娘よ!」

 「ごめんねパパ。

 顔を見に寄っただけだから、また行かなければならないの」

 「おお、我がサファイア。

 行かないでおくれ、このまま城に留まって、ガーネットと私を癒しておくれ!」

 「ごめんなさいパパ。大好きよ、チュ」

 「おー、我がサファイアー!」



 コバルト侯爵は一人娘のサファイアが好きで好きでたまらず、そのまま嬉しさのあまり泡を吹いて倒れてしまった。ブクブク


 それを見ていた妃のガーネット。


 「あらあら気絶しちゃって。侯爵ともあろうお方が。

 本当にこの人、サファイアが大好きなんだから。 

 奥さんの私よりも娘が大好きなんてねー?

 お帰りなさい、サファイア」

 「ただいまー、ママー!

 相変わらず綺麗よ、ママ!」

 「ありがとう、サファイア」


 ガーネット侯爵夫人は、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花みたいな美人だった。

 20歳でサファイアを産んだので、今、夫人は42歳。女ざかりである。しかもあっちのテクニックも凄い。ソープランドでも働けるほどだった。

 それなのにである。サファイアの6歳年上の28歳の姉にしか見えず、しかも巨乳。

 竹下通りを歩いていると、芸能プロダクションやらAV女優のスカウトマンやら、ヤンキー、そして『家ついて行っていいですか?』のスタッフまでが声をかけて来る始末。


 「タクシー代をお支払いしますので、家ついて行ってもいいですか?」

 「そんなこと言って、本当はAVなんじゃないの?」

 

 ナンパされまくりのガーネット夫人だった。

 

 

 「お食事くらいしていけないの? パパが悲しむわよ」

 「ママ、私はもうオバサンさんなのよ。三十路もすぐそこまで迫っているわ。

 パパにもそろそろ子離れしてもらわないと」

 「それはそうだけどー。寂しいのよパパは」

 「ごめんなさいね? また帰って来るから。今度は彼氏を連れて。

 今日はちょっとママたちの顔を見に寄っただけだから」

 「そう。レイモンドは元気?」

 「もうビンビン、じゃなかったすごく元気よ、スカイツリーくらいに」

 「まあ、昔からそうだけどね。

 悪い人じゃないわよ、レイモンドは。

 私はローレライに負けてパパと結婚したんだけど、今はしあわせよ」

 

 ガーネット夫人はローレライとレイモンドを取り合った仲だったが親友でもあったのだ。



 「じゃあ、また来るね? 元気でね、ママ」

 「あなたもね? サファイア」


 

 実はサファイアが城に戻って来たのには理由があった。

 盗聴器を取りに帰って来たのだ。

 エメラルドの部屋に仕掛けるために。


 「エメラルドは手強いわ。まずは情報収集が大事。 

 クロ、あんたこれをエメラルドの部屋に仕掛けてらっしゃい」

 「えー、自分でおやりよー。

 見つかったら宇都宮動物園で見せ物にされちゃうよー」

 「大丈夫、あそこならお客さんは来ないから。

 それからあんた、ローレライは知っていたわよ、エメラルドのこと」

 「そりゃそうだよ。だってボク、ローレライから聞いたんだから」

 「あんた、やっぱりお帽子にしてあげるからね!」

 「わかったよー、やるよ、やればいいんでしょ?」

 「ごちゃごちゃ言ってないで早く行きなさい!」

 「アイアイサー!」

 「絶対に負けないわよ、エメラルド!」



第13話

 「サファイア様、 盗聴器をエメラルドのベッドの下に仕掛けて来たよ。だからご褒美ちょうだい」

 「ありがとうクロ。ハイご褒美」

 「ナニコレ?」

 「笹よ」

 「見ればわかるよ! ご褒美っていったらお金でしょ? お金! 同情するならカネをくれ! お金だよお金!

 ボク、「同情するなら笹をくれ!」なんて言ってないよ!」


 クロちゃんがそう言ってサファイヤに両手を出すと、


 ジュ


 「ぎゃああああ! あちち! あちち! なにすんの! サファイアのバカ!」

 「郷ひろみさんなら「あーちちー、あちー♪ 燃えているんだろうか~♪」って歌うのに。

 アンタ少しは浪速のお笑いを学んで来なさいよ。大阪人なら「ワテの掌は灰皿ちゃうでえ」ってボケるのに。

 つまらない執事ね?」


 サファイアは火の点いたタバコをクロちゃんの掌に押しつけたのだった。


 「サファイアの貧乳! バカッ! 死んじゃえ!」

 「ずいぶんお下品な灰皿だこと。

 すぐに人に掌なんて見せるもんじゃないわよ、このボケ熊猫!」


 サファイアは昔、レディースの総長であった。

 

 レッサーパンダのクロちゃんはかわいそうに、黙って笹をパンダ号に積んで泣きながら戻って行った。



 「どれどれ、では早速」


 サファイアは受信機のイヤホンを耳に入れた。

 

 ガサゴソガサゴソ(ベッドの羽毛布団の音)


 「エメラルド、私はこの日を待ち焦がれていたよ」

 「私もよ、レイモンド様。すごく会いたかった」


 ベロベロ、ぶちゅー。(チューした音)



 なんなのこれ? レイモンド様がエメラルドのベッドに?

 ううううう、ムカつくー!


 

 「レイモンド様、どうかしら、私のこのFカップ?

 あのヘリコプターを運転している中洲美容外科でやってもらっちゃったのよ」


 むぎゅうむぎゅう、ペロペロ、チュウチュウ(オッパイを揉んで吸っている音)

 

 「やはり乳は巨乳に限るな?」

 「でしょう? やっぱり女は巨乳よね? 私とホルスタイン、どちらがお好きかしら?」


 ちゅーちゅー(乳首を吸っている音)


 「それは野暮な質問というものだよエメラルド。

 君のオッパイは世界一だ。

 とても元、オーチンチンが付いていたなんて思えないよ。

 まあ、個人的にはどっちも付いている「ふたなり」も好きなんだけどね? 中々いなくてね。

 でもホルスタインよりも君は凄く素敵だ!」

 「あなたも素敵よ、レイモンド様。

 ところであの、顔はいいけど性格悪そうなあの読者投票19位(オリコン調べ)の貧乳とはどうなの?

 あの貧乳のなんとかっていう女がいいの? 私よりも?」

 「何を言うんだエメラルド。

 私があの貧乳娘が好きだって? 冗談じゃない!

 私は毎朝の乳絞りが日課なんだよ。新鮮なお乳は私の生きる源なんだ、チカラなんだよ! 『ユンケル皇帝液』『凄十』なんだ!

 貧乳なんて興味ないね、私には。

 それより、そろそろいいかな? ここに私のスカイツリーを挿入しても?」

 「ふふっ、いいわよ。レイモンド・・・」




 「ななななななな、なんですって!

 私には貧乳は感度バツグン! モデルもバレリーナも、天海祐希も、あの映画『Shall we dance?』の女優さんもみんなぺしゃんこだよって言っていたのにー!

 愛が溢れすぎて憎しみに変わるって、こうゆうことなのね!

 いいわ、ふたりとも一緒に千年呪ってあげるから! 覚悟しなさい!

 そうだわ、あの呪いの亀、『ゴルゴ亀次郎』に、あのグルメ芸能人の多目的トイレ男にかけたくらい、絶対に解けない呪をかけてもらうから!」


 サファイアは早速携帯を取り出すと、


 「もしもし、亀次郎さん?」

 「はいはい、お電話ありがとうございます。

 こちら『呪代理店 ノロノロ亀甲社』の代表、ゴルゴ亀次郎でございます」

 「亀次郎さん? あたしよあたし、この前、森で一緒に苺を食べたサファイアよ。

 私のこと覚えてる?」

 「おうおう、あの時の貧乳美人の姫様ですな? 覚えておりますとも」

 「貧乳は余計よ! そうよ、その美人な姫、サファイアよ。

 呪をかけて欲しいヤツがいるの、亀次郎さんに」

 「わかりもうした。では3カ月後、勝鬨橋の上に15時ではいかがですかな?」

 「なんで3カ月も先なのよ!」

 「なにしろ私はゾウガメで高齢、これから出発してもそちらに到着するには最低でも90日はかかりますゆえ・・・」

 「いいわ、それならわたくしの執事、『魔女っ娘メグ』にも登場していた、ドンちゃんのひ孫のクロちゃんに迎えに行かせるからそこで待ってて」

 「わかりもうした。すまんのう、何しろワシはノロい亀、『呪の亀次郎』じゃからな? なんちゃって」

 「いいから早く来て頂戴、お願い!」



 サファイアの憎しみの炎はメラメラと燃えていた。

 いつまでも、あると思うな親とカネ、そして女の愛情(作者は身を持って知っております)


 愛とは時として憎しみへと変貌するものなのだ。

 どうなる、レイモンドとエメラルドの運命やいかに?



最終回

 クロちゃんのパンダ号に乗って、ゴルゴ亀次郎がやって来た。

 


 「いやあ、さすがにクロ殿のパンダ号は早いのう。

 まるで洪水の時のナマケモノのようじゃ。実に素早い」

 「中古だよ中古。サファイア王女はケチだから」

 「誰がケチだって?」


 クロちゃんの耳を引っ張るサファイア。


 「痛い、痛い。ごめんよサファイア」

 「調子こいてんじゃねえぞコラ! この熊猫が!」

 「ごめんごめん、許して姫様~!」

 「今度言ったら剥製だかんな! 

 それでね? ゴルゴ亀次郎さん、呪って欲しいのはこのふたりなの。

 巨乳好きのオヤジ、レイモンド卿と、ニューハーフのビッチ、エメラルドよ」

 「ほほー、このお二人をですかな? 呪って欲しい相手とは?」


 その時だった。

 クロちゃんがゴルゴ亀次郎の後ろに立った時、亀次郎の甲羅から突然現れたバズーカ砲が火を噴いたのは。

 砲弾はわずかにクロちゃんをそれたが、あやうくクロちゃんが帽子か、剥製にされるところだった。


 「な、なんなんですか! いきなりバズーカなんて撃って!

 死んじゃいますよ! あぶないあぶない」

 「ワシの後ろに立つな。今度はその真っ黒い腹に、鯉のぼりみていな風穴が空くぜ」


 さすがはゴルゴ亀次郎、ゴルゴ13と同じだった。

 どうりで長生きするわけだ。


 「呪いをかける前に、この水晶玉を覗いてみなされ。

 それを見てもまだ呪いたければ呪いをかけて進ぜよう。

 報酬はワシのスイスバンクの口座へ支払って下され。

 報酬は1呪で100万ユーロ。ふたりだと200万ユーロじゃ。今なら呪いのキャンペーン期間中なので180万ユーロの10%オフじゃ」

 「わかったわ。それじゃあ覗いてみるわね?」


 水晶玉にはまず、レイモンドが映っていた。

 そこはどうやらアフリカのようだった。

 水汲みに片道10kmの道を、泥水を入れたかめを運ぶ子供たちの姿が見えた。

 そしてその子供たちのために井戸を掘り、新しい学校を造るために陣頭指揮を執っているレイモンド卿の姿があった。

 食料を配り、医療チームも派遣していた。

 そしてレイモンド男爵は小さな子供の手を握り、


 「負けるんじゃないぞ、どんなに苦しくてもな?

 その辛さがいつか必ずお前を強くしてくれる」

 「うん」

 

 レイモンドがそのアフリカの子供にチョコレートを渡そうとした時、シスターがそれを制止した。


 「その施しは争いを生みます。ここにいるすべての子供たちに行き渡るだけの物がなければ、そのチョコレートを渡すべきではありません」

 「すまなかったシスター、君の言う通りだ。

 でもな、だったらみんなで分け合えばいいんじゃないのかね?

 ひとりで全部を食べるのではなく、たとえひと欠片でもいい。

 みんなで分かち合う喜びを私はこの子たちに教えたいんだ」


 

 そして今度はエメラルドが映っていた。

 ベッドに横たわる、寝たきりのおばあさんの足を優しく摩っているエメラルド。


 「痛くないかい? おばあちゃん? 大丈夫? こんなに足が細くなっちゃって。

 ほらね? だんだん温かくなってきたでしょう?」

 「ありがとうよ、エメラルド。いつもすまないねえ」

 「桜が咲いたら車椅子でお花見に行こうね?

 私、お弁当作って来てあげるから」

 「早くお花見にならないかねえ」

 「もうすぐだよ、楽しみだね? おばあちゃん?」



 亀次郎が言った。



 「どうじゃな? 呪いをかけますかな? このおふたりに?」

 

 サファイアは泣いた。


 「ご、ごめんなさい・・・、私、私、何にも知らずにただ自分のことばかり考えていました。呪いなんてもう、いいです。

 私が間違っていました・・・」

 「人間はな? 欲望の塊なのじゃ。人に褒められたい、よく思われたい。あれも欲しい、これも欲しいとな?

 もっと、もっと、もっと、もっとと留まることを知らん。

 「足るを知る」つまり「もう十分いただいています」という感謝の気持ちを知らんのじゃ。

 この世には「当たり前」が溢れておる。

 だがな? それはけっして当たり前ではなく、「奇跡」なのじゃ。

 住む家があり、親しい仲間や家族がおる。

 ご飯が食べられて、勉強も出来る。

 お風呂にもたっぷりのお湯を張って浸かることが出来て、愛し合う恋人や配偶者もおる。

 そしてその素晴らしさを感じることが出来るのは、健康で、五体満足のカラダがあるからじゃ。

 病気をして体調がすぐれない時は、美味しいごちそうも食べる気がしないからのう。

 当たり前なんて何もないんじゃよ。

 水道の蛇口をひねれば直接水が飲める国がどれほどある? ワシは知らんよ、この国以外にはのう。 

 スイッチをつければ明かりが点く。そんな国も少ないものじゃ。

 医療や教育、介護など、他の国では殆どその恩恵がないのが実情じゃ。

 では社会保障の充実している国はどうじゃ? いいと思うかね?

 意外にも自殺者が多いんじゃよ。それはな? 「人から頼りにされるという生甲斐がない」からなんじゃ。

 よいかなサファイア王女。

 茶筒と同じなんじゃよ、人間は。

 横から見れば四角でも、上から見れば丸なのじゃから。

 ひとつのことばかり見ないで、全体を色々な角度から見ることじゃ。

 そして嫌なことばかりを探さず、良いところを探す努力をする。

 人間はすぐに「この人はこうゆう人間だ」というレッテルを貼りたがるからのう。

 その人の一面しか見ないで決めつけてしまうんじゃ。

 相手を好きか嫌いかで判断してしまう。

 それが相手にも伝わるものじゃよ。

 では、いつでも呪いたい時は言いなされ、ごきげんよう」


 ゴルゴ亀次郎は来た道をゆっくりと帰って行った。ノロノロと『のろい亀』らしく。




 その夜、男爵主催の舞踏会が開かれた。

 サファイアが椅子に座り、レイモンド男爵とエメラルドが踊っている姿を微笑ましく見ていると、


 「サファイア、僕と一緒に踊ってくれないか?」


 アンドレだった。

 

 「よろこんで!」


 ふたりのワルツはまるで薔薇のワルツのように艶やかに優雅だった。

 人々の視線はそんなふたりに釘付けとなり、ふたりのワルツはいつまでも続いていた。




 『男爵様 このわたくしを一体誰だと思っていらっしゃるのかしら? 泣く子も笑うサファイアですわよ』完




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】男爵様 このわたくしを一体誰だと思っていらっしゃるのかしら? 泣く子も笑うサファイアですわよ(作品230822) 菊池昭仁 @landfall0810

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ