異世界刑事・改訂版

project pain

シーズン1 異世界での捜査

エレベーターのドアの向こう

−−警視庁本部庁舎


「おはようございます」


エレベーターに様々な人が乗ってくる。


鑑識課、組織犯罪対策課、警備課、人事課、広報課、そして捜査一課。挨拶を交わしながら雑談や捜査についてのヒソヒソ話等が混ざってあちこちから声が聞こえてくる。そうこうしているうちに各フロアについた人から順に降りていく。最後には捜査一課の前川和司と春日弘也の二人だけが残った。


「・・・おいヒロ、この前の合コンで知り合った絵美ちゃん、その後どうなったよ?」


和司はそっけない口調で弘也に合コンの成果を聞いた。


「さっぱりだった。カズこそ玲奈ちゃんはどうなったんだよ?」


「LINEの交換はしたんだけど、返事返って来ないんだよね」


二人は溜め息を吐いた。


「俺らついてないよな」


二人は警察学校時代からの仲だ。いわゆる腐れ縁である。所轄の刑事課を経て警視庁の捜査一課三係まで全て二人一緒なのは意外だったのだが。それ以来何かというと二人一組で行動するようになった。


ちなみに二人ともルックスはそれほど悪くはない。背もそこそこ高い方だ。ただ、どういう訳か女運には恵まれていない。何回か合コンに繰り出してはいるが、連敗続きなのが現状だ。




そんなやり取りをしているとエレベーターは捜査一課三係のフロアについた。エレベーターのドアが開く。そこで二人は異変に気付いた。ドアが開いて普段見るべき廊下は見えず。その代わりに全面光っている。ドアを多覆い尽くさんばかりの光の壁が二人の前に現れた。


「どうなっているんだこれ?」


「さあ・・・降りてみたら分かるんじゃね?」


「じゃあお先にどうぞ」


「いやいやお前こそお先に出れば」


二人の間で変なゆずり合いが起きた。


「じゃあ二人同時に出るってのはどうだ?」


「こうなったらせーので行くぞ」


「よし、せーのだな?」


「だましはなしだからな・・・せーの」


二人はせーのでドアから飛び出した。


そこで二人が目にしたのは三係のフロアではなく外、それも見た事のない街の光景だった。


「どこだここ?」


「分かんねぇ・・・昔のヨーロッパみたいな街だな」


道の左右に露店、石畳の大通りを行き交う人々、そして二人はそのど真ん中に立っていた。


「え・・・?」


呆然とする二人にさらに驚く物を目にした。


ケンタウロス、ホビット、エルフ、ドワーフ、オーク・・・ファンタジー映画の世界でしかお目にかからない亜人デミヒューマノイドが混在して歩いている。


「どうなってんだこれ?」


「夢でも見てるんじゃね」


常識では考えられない光景を目の当たりにして二人は固まってしまう。


「どこかのテーマパークって事はないよな」


「よく考えてみろ。俺達本庁のエレベーターに乗ってたんだぞ。外に出る訳ないだろ」


「そうか、エレベーターに戻ろう。そうすればいいんだ」


我に返った和司と弘也は振り返ってエレベーターのドアに戻ろうとした。しかし、エレベーターのドアがあったはずの所にはもうその痕跡は何も残っていなかった。


「どうやら・・・戻れなくなったらしい・・・」


二人はその場で立ち尽くした。


「スマホもダメか・・・」


適当な番号にかけてみたが繋がらない。まるで外部と完全に隔離された様な感覚だ。


「ちょっと落ち着ける所に行こう」


二人はひとまずその場から移動した。




−−川のほとり


混乱した二人はひとまず静かな場所に移動した。


「まず状況確認だ。ここは一体どこだ?」


「分からない。海外の様にも見えるが明らかにどの文明とも違う。もしかしたら俺達が住んでいる地球のどこかですらないのかもしれない」


「そんな非常識な事があるのか?」


「それも含めて分からないな」


「じゃあ街にいたあの変な人間達は何だ?」


「あれは亜人デミヒューマノイドと言って、姿は人間に近いが身体的特徴や能力がそれぞれ異なる種族だ」


和司には何の事だかサッパリだが、ファンタジー系MMORPGをやり込み、ファンタジーの世界に住んでいる亜人デミヒューマノイドやモンスターに詳しい弘也にとっては当然の知識だ。


「完全にお手上げだな」


二人は土手に寝っ転がった。見上げる青い空に白い雲が流れていく。


「俺達これからどうなると思う?」


「多分俺達が持っている日本円はここじゃ通用しそうにないだろ。って事は飯も満足に食えずにこのまま野垂れ死に。仏さんになって終了だな」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


沈黙が二人を襲った。


「遺体が白骨になるのって何ヶ月だっけ?3ヶ月?」


「6ヶ月だろ」


二人はシャレにならないブラックジョークを交わす。


「あんたら、何してるんだい?職業ジョブは?」


その光景を農作業で通りがかった住民の一人が話しかけてきた。


「仕事しようとしてたんだけどな・・・職業は警察だ」


「けーさつ?聞いたことない職業ジョブだな、冒険者みたいな物か?まぁいい。仕事ならあそこのギルドに行くといい」


そう言って住民は少し背の高い大きな建物を指差した。


「ところでこの街にはケンタウロスとかホビットとか人間以外の亜人デミヒューマノイドが共生しているみたいだけど、一体どうなっているんだ?」


「あぁこれね。50年前の戦争の後に人間と亜人族デミヒューマンとの間に協定が結ばれたのさ。お互いの領域を行き来していいってね」


「50年前の戦争?」


「俺も生まれる前の事だから詳しく知らないがね。興味があるなら図書館で調べてみるといい」


「なるほどね」


「さぁ、仕事しに行った行った」


住民が二人をせかす。


「どうする?」


「仕事すりゃ金か何か入るだろ。先々必要になるだろうしな。何もしないよりはマシだ」


仕事ができるのなら何とかなるか。ひとまず二人はギルドに向かうことにした。




−−ギルド


仕事をするならまずはギルドに登録する必要があるらしい。二人はギルドの中に入った。早速ギルドの中の様子を観察する。建物は思った以上に奥行きがある。1階は本らしき物が図書館の様にズラッと並べられていて職員らしき人達が書物を取り出したりひっきりなしに何かを書いたりしている。床には赤い絨毯。家具は全てアンティーク調の物で統一されていた。


そこで声をかけた職員によって二人は三階に案内された。吹き抜けの三階にはいくつか机が並べられていて、そのうちの奥のひときわ広い机の前でギルドマスターは机に肘を付き、手を口の前で組んだ格好(要は碇ゲンドウがよくやるあのポーズ)で座っていた。彼女はブルーの服、短髪、薄めのピンクの髪色をしていた。しかし顔はどことなく幼さが残る。職員に耳打ちされてギルドマスターは組んでいた手を崩した。


「私がこのアカッシスの街のギルドマスター、エミリー・クラックスです。アカッシスへようこそ。あなた達がこの街で生活するのに必要な職業登録ジョブエントリーをここで行います」


何だかゲームの初期設定画面のフレーズに聞こえる。ギルドマスターは早速それぞれの紙を用意してペンを握る。まずは名前からだろう。


「警視庁捜査一課の前川です」


「同じく春日です」


聞き慣れない名前のせいかギルドマスターは小首をかしげる。


「見慣れない服装ですね。国外からいらした方ですか?」


「まぁそんなとこ」


ふうん、と納得した様子で何やら紙に記述を始める。


「まずは職業ジョブについてですが、お二人は何の職業ジョブで登録を希望されるんですか?」


「警察で登録を頼む」


いきなりギルドマスターの手が止まった。


「けーさつ?そういう職業ジョブは聞いた事ありませんね。多分どこの街にもありませんよ」


和司はズカズカとギルドマスターに近付く。


「じゃあ作ってくれ。どこの街にもない、この街が一番早く登録したんだと、誇りを持って、言える様に」


和司は机に両手を置き、ギルドマスターに顔を近付けて強引に迫る。


「は、はぁ。具体的にどういう事をする職業ジョブなんですか?」


ギルドマスターは和司の迫力に思わずのけぞる。


「殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火といった犯罪を取り締まる職業だと思ってくれればいい」


「はぁ・・・冒険者アドベンチャーの一種という事であれば一応許可しますけど」


「よっしゃああっ!」


和司はガッツポーズをする。


「強引すぎる」


弘也は溜め息をつく。仕事を探しに来たのは確かだが、警察というこの世界に存在しない職業ジョブを頑なに押し通そうとするのは如何な物か。


「それでは前川和司、春日弘也の両名をこの内容で登録します」


溜め息交じりでギルドマスターは書類をまとめた。


ギルドマスターは二人の両手を見て何かを取り出した。


「二人にこれを渡しておきます」


ギルドマスターは二人に腕時計のような物を手渡した。


「何だこれ?時計じゃないな。アンモナイトか?」


腕時計の様だが時計の部分にアンモナイトの様な貝が付いている。二人は珍しそうにそれを見ていた。


「話し貝と言います。話したい相手をイメージしながらそこについている貝を押すことで会話する事ができます」


「それは便利だ」


スマホでの通話ができなかったのでこの世界では連絡手段がないとあきらめかけていたが、こんないい物があるとは。二人は腕に話し貝を付けた。


「早速ですが、お二人に最初の任務クエストです」


ギルドマスターは書類の中から1枚の任務依頼書クエストオーダーを取り出した。


「依頼は父親を殺され、唯一形見となったペンダントを取り返してほしいという依頼です。殺人を取り締まる職業ジョブだと言ったので、まずはあなた達の実力を図る意味を込めてこの任務クエストを解決してもらいます」


「殺人事件か。確かに俺達の専門分野だな」


「あぁ行こうか」


二人はギルドを後にした。


「まずは被害者の親族に話を聞くか」


二人は任務依頼書クエストオーダーを頼りに父親を殺されたという依頼人の元へ向かうことにした。

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