誰も見ていないから

高黄森哉

誰も見ていないから


 夜空は漆黒のベールを纏っていて、その体には幾千もの星々が瞬いてる。私は、その一つ一つの名前を知らなかった。ただ、漠然と星々が光っている、なんて思った。


 天体は宙に浮かんでいる。この世のどこにも接さないために。だから、綺麗でいられるんだ。もし、星々が地上にあれば、汚れた雪ダルマになってしまうだろう。


 私はというと、地面に寝ころんでいる。背中に芝のチクチクとした感触がある。地面の匂いがする。気温はやや低い。


 ずっと、こうしていられる気がした。ずっと、ずっと今日みたいな日が続くんだろうな、って。


 まるで窓辺の日の光を眺めるように、ゆったりした時間が、ドラマなく、過ぎて行くんだろう。


 私はふと、星々に覗き返されている気がした。それは、中学生特有の自意識過剰かもしれなかった。


 だって、私が今、こうして寝ころんでいる地球は惑星であって、恒星ではない。太陽のように自ら光り輝く天体ではない。


 そうか、こんなに広い宇宙で、私たちのことを見るのは、ほんの偶然でしかないのだ。そして、我々の存在を想うのは、ほんの一握りだ。


 そう考えると、まるで、深海の上に投げ出されたような、足元のすくむ不安があった。地面が感ぜられなくなり、浮いているようだ。


 ずっとこうしていられる、そういう、ささやかな希望すら、壊れやすい割れ物だといえた。


 空を仰ぐと、もうどの星も、私のことなど見ていなかった。

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誰も見ていないから 高黄森哉 @kamikawa2001

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