第5話

 それから放課後。ケビンがいつものように寮の中庭で風を浴びながら昼寝をしながら、子守唄を口ずさんでいると、そこに数人の男がやってきて、ケビンを誘拐した。


「なにをされているんだ」

「さらってんだよ」

「俺はさらわれているのか」

「たりめェよ!」

「そうか。ついたら起こせ」


 さらわれているのか、と知ったケビンはなおも昼寝を続けるので男たちはと少し驚いた。「気の抜けた野郎だぜ」と思った。ケビンはというと、このまま何処に連れていかれるのか、少し気になっていたのでおとなしくさらわれているだけだった。どうやら目的地はキャバレー「ウェルコ」のそばの喧嘩場だった。四角い木製の黒い扉に、ステンドグラスの明かり取り窓がついていて、内側から血がついているのか、ステンドグラスもまた黒い。


「おお! 来たかいリーヴス!」


 裸にひんむかれたエースがそこにいた。


「回されてたかい」

「これからというところだな。ベルトを外しはじめたので、とうとうお前さんを売らせてもらったよ」

「買い取り価格は」

「高くつくだろうね」


 喧嘩で熱を得て沸騰した血が男共を同性にすら襲いつく最強野郎に仕立て上げたらしい。現時点において、この男共はケビンの敵という事になるが本来ならば、魔法使いが護るべき民衆である。しかしいまのケビンは魔法使いではなく、学生であるので、そんなものは関係ない。


「へへへ、喧嘩をするか? お前のお友達が俺達のチンチンをくわえる様をまじまじ見ているか? お前が決めろ」

「申し訳ないけどね、そいつは友じゃないよ。むしろ敵さ。俺をこんなむさ苦しいところに呼び出したところを見るに、エース・ゲイル、お前さんもどうやら俺の敵らしいからね……好きに遊んでくれて構わない」

「ひどい人だ。全く」


 ケビンはソファのところに横になってスウスウと寝息を立てた。


「本当に寝やがった。アニキ、どうしよう」

「うろたえるな。おい起きなボウズ。見せつけてやる」

「おおやめろ。俺の杖には触るな」

「杖だ? うるせェっ! 俺達と喧嘩をするんだよ! テメェも犯してやろうか」


 男のうちの一人がケビンの杖を奪い取って、遠くの壁に投げつけた。その途端、喧嘩場内の空気が三段階重苦しくなったような気がした。男たちは息苦しさをおぼえて、次にめまいを感じた。


「怒るべきじゃない。ちゃんと持っていなかったリーヴスが悪い。だけどね、人の物を粗末にしちゃいけねェな」


 ケビンが怒るより先に、エースが立ち上がって、強く増していく殺意の中杖を取りにいって、ケビンに投げ渡した。


「拳を振るう理由にはなったろ」


 ケビンは飛び起きて、男共に蹴りを食らわせた。男共はケビンを取り囲んで、羽交い締めにしてサンドバッグにしようとする。ケビンは目の前にやってきた男のみぞおちに蹴りを食らわせて、肩を外すと、鉄棒の逆上がりのようにグルンと回ると、両膝で男の頭を挟むと思い切り今度は逆方向に回り、男を投げ飛ばした。空中でくるくる回り、綺麗に着地する。


「惚れちまうぜ、ケビン・リーヴス」


 エースは落ちていたクラックスM1821とクラックスM1822を拾い上げると、魔法を篭めて男共の脇腹に魔法を撃ち込んだ。うろたえたところでケビンが顔面を蹴りつける。


 そうしていると銃声を聞き付けた誰かが通報したらしく、警察隊の馬の蹄の音が聴こえてきた。


「おっと。これじゃ喧嘩場の女王になっちまう」

「ふむ」


 男の顔面を蹴りつけてから、脱ぎ捨てられていたエースの服を持って裏口から出た。するとキャバレーのスタッフが「坊ちゃんたち!」と手招きをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔杖を持った雷電児(ボルトガイ) 我社保 @buttobisyasei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ