第4話
それからしばらくして、東都にあるハマノラという街の学校にケビンは押し込められて、魔法を教わった。魔法といってもいろいろとあるらしく、例えば、拳銃に篭めて弾丸として発射するタイプ。例えば、身体や物に纏わせて効果を発揮させるタイプ。例えば、身体を魔法に変換して物理攻撃を無効にさせて魔法を無尽蔵に放てるタイプ。
ケビンはというと、身体に魔法を纏わせるタイプだった。
「狙いを定めて相手に魔法を放つとき、心はつねに波風の一つも立てずに、血の流れる音だけに集中するんだ。人の血の流れる音には人それぞれリズムがあって、それを指針にするといい。それに、此処だけの話、そのリズムと行動に八十五パーセント以上の合致を見せたとき、人と魔法の波動が掛け合わさって『クリティカル』と呼ばれる現象が起きる。魔法の攻撃力が跳ね上がるんだ」
ある日の授業で、学校の教師の言葉をメモしながら、ケビンは、傍らに置いていた赤い魔法の杖を撫でた。その魔法の杖は父の形見だった。北都で行われた魔族との戦争で命を落としたケビンの父は、ケビンに最期の力を振り絞って、この杖を託した。
ケビンはこの杖を見ると、家族を殺されたときの怒りと痛みを思い出せた。忘れてはならないはずなのに、気がつけば忘れたくなっている、厄介な思い出だった。ケビンにとってそれは、毒でしかなかったのかもしれない。
時折、学校では実戦形式で他の生徒と手合わせをするという授業が行われた。ケビンの他にもいろいろ生徒はいたが、誰もケビンには敵わなかった。「相手を魔族と思うんだ」の言葉を合図に、みんなケビンが発した途方もない闇に思えるほどの殺意に怯えて、魔法に支障が出るからだった。他の生徒達はみんなケビンを「危ない奴」だと言った。いくら「相手を魔族と思え」と言われたところで、さきほどまで仲良くしていた相手にあれほどの殺意を向けられるのは、マイペースに生きていたケビンならではの切替方なのだろう。
昼には、食堂で蒸して潰したポテトと硬いパンを食べる。北都と連携の強かった東都では、食物なんかに少しダメージを受けていて、現在魔法使いの学校に配られて居るのは、なんとか残った傷ありのじゃがいもだった。味も何もないから特段うまい訳じゃないが、いまはこれしかないらしいから仕方ないし、ケビンは昔からじゃがいもが好きだったから、ずっとそれを食べていた。
「リーヴス。そこの男」
ある日、いつものようにそれを食べていると、声がかけられた。顔を上げて見てみれば、それは、ケビンの他にも「危ない奴」と言われて他の生徒から距離を置かれているエース・ゲイルだった。拳銃に魔法を篭めるタイプの魔法使いで、使う武器は黒い回転式拳銃、クラックスM1821とクラックスM1822。どちらも中折れ式。エースはケビンとは違って、寡黙という様な感じではなく、どちらかと言えばヘラヘラしていて気障な仕種を好むタイプだった。髪が肩まであって、顔立ちは中性的。筋肉が付かない
「なんだよ」
「クールだねえ。なあリーヴス。お前金なんて欲しくないか」
「金だって?」
「今週の末に、キャバレー『ウェルコ』の近くの喧嘩場で掛け喧嘩が行われるんだけどね、お前さんの殺意を見込んで俺と勝ち進んでみないかい」
「ヤだよ。俺は喧嘩なんて性分じゃないし、くだらん事に金なんて掛けてる頭のオカシイ連中にもし付け狙われたら安心して昼寝もできやしない」
食べ終わったケビンはそのままその場を離れた。エースは「いいねえ」と、唸った。エースは、こういうクールぶっている奴がどうにも激情に駆られるところをみたいという、性癖のような欲求があった。
「壊したいねェ」
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