第3話
トレジャーのブラッシングを終えると、トレジャーはケビンの首根っこをつまんで、自分の背中に投げ置いた。
「いいのかい」
トレジャーは「構わない」というフウにケビンを見た。
「悪いね。恩に着るよ。それじゃあ、おやすみ。トレジャー」
トレジャーはケビンの寝息を聞くのが好きだった。どうせならずっとこういうふうに眠っていてくれればいいと思った。怒るような眼差しをどこかに向けるケビンを見ていると、トレジャーはとても悲しかった。心の優しい少年が手を血で染めようとしているのを見るのが辛かった。
昼寝をしているケビンのもとに男がやってきた。一間ほどの魔法の杖を持っている。
「あんた誰だい。こいつは気性が荒くってね。あんまり近づきすぎちゃいけねェよ」
「私の名前はアトウ。君、北都の戦争で生き残ったそうじゃないか」
「あんまり突かれたくないんですがね」
「悲しい戦いだった。得るものは有らず。あるものを護ろうとした戦い。しかし敗戦。……魔族は北都に住み着くでもなく、敗れた人々を見下して、玩具が事切れたみたいにつまらなそうに魔族領に帰って行った」
「あいつらは人間じゃないから、人の一生の価値なんてわからんのですよ」
ケビンはトレジャーから下りて、悔しそうに土をにじる。
「それだよ、その怒りだ。ケビン・リーヴスくん」
「どうして私の名前を?」
「私は国際魔法使い連盟に所属している。先の北都戦争でよくやく世界政府が我々の結束をお認めになられた。そこで水晶がチョイ
見つけた魔法使いになる素質を持った者に、手分けをして声をかけているという訳なんですな」
「と言うと、貴方、私に魔法使いになれって? 冗談じゃないよ。魔法使いなんての、魔族とおんなじさ。魔法や魔術はね、行きすぎた力だ。そんな力を使うような人でなしには断じてなりたくないね」
アトウが声を荒げた。
「そんな意見もいいだろう!」
ケビンは驚いた。
「すまない。……しかしね、リーヴス。君は拳銃と薬物を知るか? 拳銃はやくざが持てば人殺しの道具だ。しかし、警察が持てば人の命を護るための道具だ。薬物もそうだ。悪人が使えば毒になる。医者が使えば薬になる。極論、そういう二面性をいずれにせよなにもかも、万物は持っているんだ。君の怒りも悪に堕ちれば殺人動機! 良い方に使えば英雄思考! そういうものなんだ! 君はなにになりたいんだ!」
「俺は……」
「ついてきたまえ。君を立派な魔法使いにする」
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