第2話

 夢の中のケビンはいつも戦場にいた。


 父は戦死したらしく、母は魔族に犯されて魔族の子を孕んだ挙げ句、殺されてしまった。妹も母と同じく。弟は魔族がディナーにしたらしい。


 のこったのはケビンだけ。ケビンはとても強い怒りを抱いていた。


 絶対に赦さない。泣いて喚こうが、絶対に魔族を赦さない。ケビンの胸の中にあった怒りの炎は劇しい轟きによって、雷電に変化していた。


 ケビンは魔族を皆殺しにすると誓った。魔族がいるから人々は平和に生きることができないんだ。魔族がいるから人々はのびのびと平穏の空の下で昼寝の一つもできやしない。


 ケビンは怒り、そして悲しんだ。


 魔族は圧倒的な力を持っている。圧倒的な筋力があるし、圧倒的な魔力もある。圧倒的な魔力から繰り出される「魔術」と呼ばれる古代から継承され続けている超常を引き起こす力は一度に何百の人間を殺せる。


 そんな危険な存在が、生き物として存在しているのが、ケビンはただただ赦せなかった。これまでなにかに差別的な意識を持ったことはなかったが、ケビンの中で、ただ圧倒的に魔族へ向ける目は悪辣なものになった。


「…………」


 目を覚ますと、自室にいた。「運んだのはおやっさんじゃなさそうだぞ」と直感で考えながら、ケビンはベッドから飛び起きた。時計を見れば、「トレジャー」という黒い競走馬のブラッシングの時間だった。壁にかけられていた赤い魔法の杖を背中にかけて、ケビンは部屋を出た。


 あくびをしながら、ブラシを持って自分より大きなトレジャーの毛並みを整えていると、スーツを着て上品なコートを羽織った男がそこにやって来た。おやっさんの知り合いではなさそうだぞ、と横目で分析。どうせ自分には関わりのないことだから、ケビンはトレジャーのブラッシングに集中した。


 トレジャーはケビンにしか心を赦していなかったから、これはケビンの仕事だった。

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