魔杖を持った雷電児(ボルトガイ)
我社保
魔杖を持った雷電児
第1話
魔族との戦争で家族を失った少年というのは珍しくなかった。
しかし、それでいて、なおも、戦前の性質をそのまま引きずっていつでもどこでも鼻歌まじりに昼寝をする奴というのは、その少年ただ一人のようであった。
その少年をケビン・リーヴスという。
親が遺した赤い魔法の杖にマントとマフラーを巻き付けて、ケビンは枕にすると、よくそこら辺に転がって眠った。
それは、ロンリロンリ王国の東都にある、マリーキア牧場に拾われても変わらなかった。羊達にまざって昼寝をしているのを牧場主が発見して呆れて取りに行く、というのがお決まりだった。
ケビンは眠りながら、鼻歌を吹くが、それはロンリロンリ王国北都に伝わる子守唄「赤い夕陽の母のうた」であった。今よりもっと小さい頃に、ケビンの母がよく昼寝をするケビンに歌って聞かせた子守唄だった。
「ケビンは呆れた奴だなあ」
先に引き取られていた〝兄〟のアーレン・カルナレスとアルベルト・ターグアバニィがケビン用台車にケビンを載せて、呟いた。
「きっと、戦場で心が疲れてしまったんだな。まだ俺達と変わらない年齢なのに!」
「変わらないっていうか、三歳年下だよ。俺達は親が戦争で死んだだけ。悲惨な光景なんか見たことない、けど……」
北都は戦場だった。魔族は北都を攻め入ると、次々と人々を虐殺して行った。アーレンとアルベルトは寝坊助ケビンの頭を撫でて、部屋に運んだ。
そういえば、ケビンの部屋に入るのは初めてだった。首にかけてある鍵を使って扉を開けて、まず、驚いた。
ケビンの部屋には魔族の顔写真がビッシリと貼付けられていた。どうやら手配書から切り取ったらしい。次に、その横に北都の地図があって、ピンとピンに赤い糸が駆けられていて、まるで蜘蛛の巣の様だった。
「なんだこれ……」
困惑するアルベルトと違って、アーレンは納得していた。怒っていない訳がなかった。二人はすっかり「心が弱っている」と決めつけていたけれど、それは違っていた。本当は誰よりも怒りに燃えている。ゴロゴロ……と雨と雷が降りはじめた。
「…………」
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