魔王討伐のために勇者召喚されたんだが、チートスキル【未来予知】は戦闘向きではない件〜城から追放されて始まる異世界生活〜

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

第一章

バスに乗っていたら異世界召喚された件

 今日は田舎の高校との交流会に向かうべく、同じクラスの生徒とバスに乗っていた。

 バスが山の中の道を走っている途中で、急に光に包まれて気づいたら別の場所にいた。


 そして今、俺の目の前には信じがたい光景が広がっている。

 

 召喚の儀式にぴったりな古めかしい部屋。

 床に書かれた光る魔法陣。

 白髪と白いひげをふさふささせたいかにも身分の高そうな人。

 

「余はガスパール国王ヨハネス二世である。まずはこちらの都合で勝手に召喚したことを謝らせてもらう。そなたたちにも家族や恋人がいたであろう――」


 威厳ある佇まいで語り始める王様。

 どこか思いつめた節も見られる王様に反して、クラスメイトのほとんどが興奮した様子を見せている。

 ちなみに俺はというと都合のよすぎる展開を不審に思っていた。


 手のこんだいたずらだと思いたいところだが、視界の右斜め上にスキルが表示されている。


 名前:吉永海斗

 スキル名:転ばぬ先の魔眼

 能力:所有者の危機を予知する


 自分の名前とスキルに関する説明のみで、異世界定番のステータスはないようだ。

 その表示は首を動かして視点をずらしても消えることはなく、徐々に煩わしく思えてきた。

 するとそこで、隣から耳になじんだ声が聞こえた。


「……おいおい、首を振り回してどうしたんだ」

 

 友人の内川仁太(うちかわじんた)がのんびりした様子で周囲を窺っている。

 ウェーブのかかった天然パーマと角ばったレンズのメガネ。

 俺と内川はまじめな陰キャのため、日頃から制服のブレザーをきっちり着ているわけだが、召喚された時の衝撃があったようで、彼のネクタイが曲がっていた。


 周囲のざわつきは続いていて、俺も落ちつかない気持ちだった。

 こうして内川と話すことで、気が紛れるような感じがした。


「スキルの表示が邪魔で消えないかと思って」


「こっちも同じ状況だが、消えそうにないな」


「俺のスキルは未来予知っぽいんだけど、そっちのスキルは?」


「……聞いて笑うなよ」


 内川はなんだかもったいぶっている。

 もしや、言いにくいほどの残念スキルなのだろうか。


「その名も絶対領域」


「はっ? もう一回言って」


 絶対領域と聞こえた気がするが、聞き間違えたかもしれない。

 友のスキルが何であるかは重要なので、俺は質問を続けた。


「何回も言いたくない……絶対領域だ」


 内川は顔を背けていた。

 これじゃお婿さんに行けないと言わんばかりに恥ずかしそうにしている。

 そうなる気持ちも分からなくもないが、今はそんなことを気にするような状況ではない。


必要な過程を経た後、俺たちに魔王を倒してほしいとのことだ。

 ちなみにスキルの表示は召喚されてしばらく経った後、所有者の意志で表示・非表示を操作できるらしい。

 

 王様は説明を終えてから、俺たちを城内の別の場所へ案内しようとした。

 するとふいに、腕に鳥肌が立ったことに気づいた。

 寒気がして気温が下がったような感覚もしている。


「グハハハッ、苦しまぎれの一手が勇者召喚か。憐れなものよ」


 不気味な声が響いた後、部屋の奥の壁が打ち破られた。

 空いた穴から黒い影ののようなものが侵入してきた。

 それは集合体のように集まり、人のかたちへと姿を変えていった。


「キャアア!」


「一体、何が起きたんだ!?」


「くっ、この時を狙ってやってくるとは……」


 クラスメイトたちから悲鳴が上がる中、王様は敵の存在を知っているようだった。

 苦々しい反応を見せている。


「勇者たちよ、魔王がそなたたちを狙って襲いかかってきた。召喚されたばかりでは勝ち目がない。すぐに逃げるのじゃ!」


 王様は悲痛な声を上げた。

 言われなくても逃げるつもりだが、恐怖で下半身がすくんでしまい、足が上手く動かせない。

 隣に目をやると内川も逃げ出そうとしている。



「……聞かなかったことにするから、具体的な効果は?」


「指定範囲の気配の完全遮断。かくれんぼなら最強だな」


「いやそれって……」


 アサシンや盗賊ならば最高に相性のいいスキルじゃないか。

 チートと言っても過言じゃない。


「吉永、会話はこの辺にして、王様の話を聞こうぜ」


「そうだね、スキルに夢中でうっかりしてた」


 白ひげをたくわえた王様は説明を続けている。

 

 内川と話しながらも断片的に聞こえていたが、召喚された者には勇者としてスキルが備わるらしい。

 ただ、召喚直後はスキルを使いこなすことができず、戦闘経験がない場合は実戦の訓練を受けることになる。

 


「王様! おれたちは勇者なんだろ? だったら返り討ちにしてやるさ」


 クラスメイトの一人柿原が魔王に立ち向かおうとした。

 サッカー部員で普段から積極的な性格だ。


「や、やめるんじゃ!」


 王様の制止を振り切り、柿原は炎を片腕に生じさせた状態で突っこんでいった。

 この世界の知識がある人物の動揺ぶりを見て、何かイヤな予感がした。


「――ほう、おぬしは使えそうだ。収集しておこう」


 黒い影のような姿――魔王と思われる存在――から声が聞こえている。

 影の右腕が持ち上がり、手の平が光ったように見えた。

 すると、柿原は手の平に吸いこまれるようにして消えてしまった。


「そんな、何ということじゃ……」


 王様は肩を落とし、弱々しい声で言った。


 ――事態をよく知る人物がこれでは危うい状況なのでは。


 現実離れした光景に目を奪われていたが、ふいに我に返り、逃げなければと思った。

 俺は内川と目を合わせて、二人で走り出そうとした。

 

 ――その瞬間、右目に走馬灯のように映像が流れこんできた。


 魔王に背を向けて逃げようとする俺と内川。

 しかし、その狙いは易々と看破されて、魔法のような攻撃で致命傷を負わされる。


「……今のは一体――はっ!」


 突然のことに困惑しながらも、思わず友の腕を掴んでいた。

 内川は怯えるような目でこちらを見ている。


「聞いてくれ、未来予知のスキルが発動した――今逃げたら死ぬ」


「なっ、マジか……」


 死ぬという単語に驚いたようで、内川は耳を傾けようとしている。

 彼の顔は青ざめているが、自分も似たような状態になっているだろう。


「そっちの絶対領域で隠れられないか?」 


 俺と内川が話す間もクラスメイトが魔王とにらみ合っている。

 向こうも多少はスキルを警戒しているようで、突撃しない限りは攻めてこないようだ。


「魔王というぐらいだから見破られるかもしれないが……気配遮断をやってみる」


 内川がそう言った後、急に彼の存在が消えたように感じた。

 すぐ近くにいたはずなので、スキルを発動したのだろう。

 そのまま立っていると、何もない空間から手が伸びて引っ張られる。


「ちょうど二人分が効果範囲だ。これで気づかれないといいが……」

 

 俺と内川が絶対領域の中に入った後、一人の女子が魔王に突っこんでいった。


「柿原くん、すぐに助けるから!」


 彼女は柿原の恋人の野々村だ。

 魔王に吸いこまれた柿原を助けようとしている。


「待て、待つのじゃ!」


 王様の制止を振り切って、野々村は魔王に突撃した。

 戦うために有効な手段を持たない俺は、それをただ見ていることしかできなかった。



 あとがき

 本作を読んで頂き、ありがとうございます!

 今日の20時に二話目を更新予定です。

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