信じられる仲間たち
まだ食べられそうだったので、次の一個を食べるかどうかを考えながら、テーブルに盛られたオレンジの山を見る。
するとそこで、誰かの気配が近づくのを感じた。
「――おはようっす。あれ、今日は早いんすね」
扉を開けて部屋にやってきたのはルチアだった。
「おはよう。今朝はいつもより早く目が覚めちゃったから」
「なるほど。ところで物憂げな顔に見えるのは気のせいっすかね?」
ルチアが投げかけた言葉に驚いて、思わず顔に手をやる。
どうやら考えていたことが表情にまで出ていたらしい。
「そうか……悩んでることになるのかな」
「旅団の先輩として話を聞くっすよ。後輩の面倒を見るのも役目らしいじゃないっすか」
ルチアは目を輝かせてこちらを見ている。
内川がいなくなって目をかける存在が不在であることも関係するのだろうか。
力になりたくてうずうずしているような表情だ。
両耳が揺れているのは彼女の感情を表しているように見える。
「……気持ちはうれしいけど、みんなが揃ってから話すよ」
「そうっすか。困った時はサリオンだけじゃなく、あたしも頼っていいっすから」
「うん、ありがとう」
ルチアはにこりと微笑んで、テーブルの上に置かれたリンゴを手に取った。
それを握ったまま近くの椅子に腰を下ろして、がぶりとかじりつく。
彼女の姿を視界の端に捉えつつ、仲間が集まってからどのように切り出すべきかを考え続けた。
やがて、ミレーナとサリオンが姿を現した。
ウィニーは城での雑務やエリーの警護について打ち合わせがあるため、今日も旅団の方には来られないようだ。
この場にいるのが四人になったところで、ルチアからちらちらと窺うような視線を感じた。
俺がいつ話を始めるのか気にしているような仕草だった。
彼女の様子に急かされたわけではないものの、そろそろ切り出してもいい頃合いだと思っていた。
「――あの、みんなに話があるんだけど」
意を決して切り出すと三人の視線がこちらに集中した。
その状況に緊張を覚えるが、勇気を振り絞って伝えなければならない。
「俺の素性について、今まで話せなかったことがあるんだ」
「誰しも大なり小なり秘密を抱えているものです。話しにくいことであれば、無理に話す必要はないのでは?」
サリオンが気遣うように言った。
親切心からくるものだと分かるのだが、それでも話しておきたいことなのだ。
話すと決めた以上、ここからは後に引けないと思った。
中途半端に途切れてしまうと、自分自身が消化不良な感覚になってしまう。
「みんながどれぐらい詳しいのか分からないけど、俺はガスパール王国の王様に召喚されて、この世界にやってきたんだ」
「「「……えっ」」」
それぞれの口から驚きあるいは、戸惑うような声が漏れていた。
これまでに情報収集した限り、勇者召喚は一般的に知られているようなことではない。
例えるならば、王家の秘術のようなものだと思う。
魔法使いのミレーナ、長く生きるエルフであるサリオン。
この二人が何らかの知識を持っていることも予想していたが、彼らでさえも見当がつかないというような反応だった。
「かいつまんで話すと分からないと思うから、一通り話していくね」
日本のことを話しても分からないことだらけだと思い、城に召喚された時のことから順番に話すことにした。
召喚直後に魔王に襲撃されたこと、十人いたうちの二人が吸収されたこと、転移魔法陣で六人が消息を絶ったこと。
それほど時間が経ったわけでもないのに、ずいぶん前のことのように感じられた。
「――というわけなんだ。魔眼のことはウィニーに話してある」
一通りの説明を終えた後、三人は目を丸くしていた。
俺の右目だけでなく彼の左目も魔眼なのだが、それについては控えることにした。
「……つまり、この世界以外にも異なる世界が存在するということでしょうか」
「仕組みまでは分からないけど、そういうことになるね」
サリオンが半信半疑といった様子でたずねたので、無難な答えを返した。
俺自身、この世界の住人ではないため、分からないことの方が多いのだ。
「……勇者召喚。一度だけ魔法学院の書物で読んだことがある」
ミレーナがおもむろに立ち上がり、俺の方にやってくる。
どうしたのかと思っていると、目の前まで近づいて顔をペタペタと触り始めた。
「――ちょっと。な、何?」
「言われてみれば、イチハ族とは細かい部分が異なる。君に流れている魔力もどこか違和感がある」
突然の出来事に戸惑っていたが、彼女は気が済んだようで手をすっと引いた。
何もなかったように席へと戻っていった。
思わず触れてみると頬の辺りに手の感触が残っている。
「カイトの話したいことって、これだったんすか」
「うん、そうだよ」
「これぐらいのこと、そんなに悩まなくてもよかったのに」
ルチアはにんまりと笑みを浮かべている。
重要なことを隠していたにもかかわらず、非難するような素振りは見られない。
自分が受け入れてもらえると分かると、肩の荷が下りるような感覚だった。
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